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綺石のクラウン  作者: もももか
第十二章 『オニキス』
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ラズライト城に着いたのは、日も落ち星が瞬く頃だった。

馬車から降りるなり、帰りを待っていたのかセレスタイトが駆け寄ってきてくれた。

「お帰りなさい、お義姉様」

久しぶりに見た顔に少し安堵して、ルーベライトは今できる精一杯の笑みを浮かべた。

「セレスタイト、お迎えありがとうございます」

「……お義姉様、大丈夫ですか?聞きました、アレキサンドライト様の事……」

セレスタイトにも話が伝わっているようで、言われたルーベライトは言葉を探した。

「アレキサンドライト様、大丈夫なんですか?お怪我はされていませんか?シャーマナイトに行っちゃったって本当ですか?もう会えないんですか?」

答えあぐねていると、後から馬車を降りたアイオライトが助けを出してくれた。

「矢継ぎ早に質問するな。困っているだろう」

「ご、ごめんなさい……」

しゅんと謝る姿を見てルーベライトは首を振る。

「心配してくださっただけでも嬉しいです」

いつか改めてお話しますね。そう話していると、城からある人物が支えられながら歩み寄ってきた。

ラピスラズリだった。

「お父様!」

「父上、寝ていなくて大丈夫ですか?」

「可愛い娘が帰ってきたのに出迎えない親がおるか。久しいな、ルーベ。サンドライトはどうだった?」

ラピスラズリはアレキサンドライトが七国王ヘプタークという事を知らない。

心配をかけないようアイオライトからもロイヤルゲームの事は話さないよう釘を刺されていた。

ルーベライトはできる笑顔で答えた。

「とても、幸せでした。窓の外の世界を、たくさん教えていただきました」

名を出さずとも、誰の事を言っているのかラピスラズリには伝わったようだった。

「アイオライトにも礼を言っておけ。お前の身が心配だと夜明け前から馬車を飛ばして迎えに行ってくれたのだから」

「父上、その話はいいです」

ラピスラズリの話を遮るようにアイオライトは言う。

「部屋にお戻り下さい。お体に触ります」

「何じゃ。せっかくの娘との時間を取り上げよって」

「もう夜も遅いです。早くお休みになってください」

散々ごねた後、身体を支えてくれていた使者に連れられ、ラピスラズリは城に戻って行った。

「お兄様……」

「何だ?」

「ご心配をおかけしました」

再度深々と頭を下げた。

昼間手を挙げてしまった事が頭を過ぎり、アイオライトは言う。

「私の方こそ、悪かった。痛かっただろう」

「いいえ……」

「お前だけでも無事で良かった。死神から話を聞いた時、生きた心地がしなかった」

「………」

「アレクの件はお前のせいじゃない。これからの事は私に任せろ。お前は何も気にする事はない。全て忘れろ」

「……はい」

「……風も出てきた。部屋まで送る」

ルーベライトの部屋。

いばらの塔。

世界から遮断され、一人閉じ込められる場所。

懐かしいその場所へと足を進める。

改めてその外観を見上げると、こんなにも高さがあったのかとルーベライトは何処か他人事のように思った。

塔の入り口に着くと、アイオライトは辛そうな顔をしていた。

妹を再びこの塔に閉じ込める。

その辛さが痛いほど伝わり、セレスタイトは場を和ませるように明るく言う。

「お義姉様!せっかくラズライトに戻ってきたんですから、お義姉様のお茶が飲みたいです!」

「え?」

「旦那様もご一緒しましょう!お義姉様がいなかった間にお城で色んな事があったんですよ!お話しながらお菓子もいただきましょう!ね?」

「……そうだな。久しくルーベの淹れた茶を飲んでいない。良い機会だ」

「お庭でお茶会しましょう!私、楽しみにしてます!」

「……はい。私も、心を込めて淹れますね」

最後にお休みなさいと挨拶して扉の中に入ると、アイオライトはその扉の鍵穴に鍵を掛ける。

がちゃりと重い音がした。

聞き慣れた音のはずが、何処か切なく聞こえた。

一段、一段と塔の階段を登る。

小さな窓から漏れる月光を頼りにゆっくり、ゆっくりと足を進めた。

最上階に着き、扉を開ける。

あの日、この部屋を後にしたままの風景が広がっていた。

一つだけある小さな窓。

こんなにも小さな窓だったかとルーベライトは歩み寄ってその景色を見た。

見慣れた風景。

嫌と言うほど見てきた、これしか見えない世界。

『他に見たい場所や行きたい場所はないか?あるなら行こう』

夕暮れのサンドリアで言ってくれた言葉を思い出した。

薔薇色の瞳が、涙の幕で覆われていく。

『君が見たい景色を見せたい』

そう約束してくれた彼は今、どうしているのだろう。

小指にはめられた指輪を見つめる。

サンドリアで買ってくれた、薔薇の細工が付いた指輪。

外そうとしたが、できなかった。

いつも優しく笑いかけてくれた顔が、瞼から離れない。

今だけは呼ぶ事を許して欲しいと、その名を声にした。

「アレク……!」

大粒の雫が、頬を伝った。

塔に鍵を掛けたアイオライトも、それから暫く動けないでいた。

「旦那様……」

セレスタイトが声を掛けるまで、ルーベライトが去った扉から離れなかった。

「……戻ろう」

「はい」

自分が言った言葉を改めて胸に刻む。

『これからの事は私に任せろ』

アイオライトの目は覚悟を決めたように揺るがなかった。

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