VII
会議室を出てしばらくすると、回廊に見知った顔があった。
クオンタムだった。
「声、外まで聞こえてたよ。本気なの?」
怒りを含んだ声音。
アレキサンドライトは何も言わず足を進める。
「ちょっと待ってよ!アレク変だよ!どうしてそんな話になっちゃうのさ!?」
早足で歩くアレキサンドライトの後を追いかける。
「ルーベさんの事、好きじゃなかったの!?本当にこれで良いの!?」
それでも何も言わないアレキサンドライトの腕を乱暴に取った。
「黙ってないで何とか言ったらどうなのさ!?」
途端、アレキサンドライトが声を詰まらせた。
腕を振りほどき、痛みに顔を歪ませた。
異様な反応にクオンタムは驚き、自分の手を見て凍りついた。
手が赤く滲んでいた。
「アレク……怪我してるの?」
アレキサンドライトは答えなかった。
「その怪我どうしたの!?僕が知らない所で何してるの!?ねぇ!?」
「……お前には関係のない話だ」
「友達が怪我してるのに関係ないわけないでしょ!?」
それでもアレキサンドライトは口を割らなかった。
丁度その時だった。
突き当たりの回廊から聞き覚えのある声が聞こえた。
ルーベライトとアイオライトだった。
「嫌です!帰りません!!」
「お前が此処に居る理由はもうない!さっさと国に帰るぞ!」
「嫌です!絶対に帰りません!!」
アイオライトに腕を掴まれ、無理矢理引きずられるルーベライトが見えた。
近い内に使いを寄越すと聞いていたが、アイオライトが直接迎えに来たようだった。
抵抗するルーベライトだったが、次の瞬間、アイオライトがルーベライトの頬を張った。
その反動で倒れるルーベライト。
「ちょっと!何やってんのさ!?」
クオンタムの声に一度振り向いたが、アイオライトは構わず倒れたルーベライトを見据える。
「我儘を言うな。お前はラズライトの王女だ。お前一人が身勝手な行動を取るだけで、どれだけ国に迷惑をかけているかわからないのか」
クオンタムが駆け寄り、倒れたルーベライトを起こしてやる。
優しく色付いていた頬が手の形で赤くなっていた。
「酷いよ!何も手を挙げる事ないじゃん!」
「部外者は黙っていろ」
「部外者じゃない!ルーベさんは僕の大切な友達だよ!」
庇うクオンタムを制す。
「いいんです、クオンタム様……」
「だって、ルーベさん何も悪くないじゃん!」
「お兄様の言う通りです。我儘を言ってしまった私が悪いんです」
ルーベライトはゆっくり立ち上がる。
「申し訳ありませんでした……」
アイオライトに頭を下げる。
叩いてしまった罪悪感からか、アイオライトはルーベライトから目を逸らしてしまった。
「……帰るぞ」
そう足を進めるアイオライトを見て、ルーベライトはクオンタムに向き直る。
「完成間近でしたのに最後までお手伝い出来なくてごめんなさい。いつかお詫びさせていただきます」
「ルーベさん……」
「クオンタム様の今後のご活躍、楽しみにしています」
そう告げクオンタムに頭を下げた。
クオンタムの呼びかけに答えず、先を行くアイオライトに続く。
目が合ったアレキサンドライトを見て、アイオライトは足を止めた。
だが、互いに何も言わず、世話になったとだけ告げ足を進める。
ルーベライトもアレキサンドライトの前に来るなり深々と頭を下げ、アイオライトの後に続いた。
言葉は、交わさなかった。
ルーベライトの姿が見えなくなる頃、クオンタムは再度アレキサンドライトに問う。
「ルーベさん、行っちゃうよ?本当にいいの?」
「……もう終わった話だ。彼女を引き止める権利は、私にはない……」
「アレク……」
「お前にも悪い事をした。絵ももう少しで完成だったのに……すまない」
「悪いと思ってるなら、僕に話してよ?」
「………」
「もう終わった話なんでしょ?ルーベさんを描いてた僕にだって知る権利はあるはずだよ?」




