表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
綺石のクラウン  作者: もももか
第十二章 『オニキス』
112/145

III

ある一室に通された。

多くの箱やガラクタが所狭しと置かれる中、簡易のベッドとテーブルが見えた。

「ここは?」

「……私の部屋だ」

自室と呼んでいいものか問われる物置部屋、窓からの光は置かれた物で遮断され薄暗い。

埃っぽい空気は締め切られた部屋では換気できず、余所者の彼がこの国で受けている扱い、立場がすぐにわかった。

医務室へ連れて行きたかったが、アレキサンドライトの存在は内密にしろとのプラチナの命令から、アメジストは自分の部屋に匿う事にした。

「……座れ」

それだけ告げると、アメジストは部屋の奥へ行ってしまった。

生気のない足取りで、アレキサンドライトはベッドに腰掛けた。

ぎしりと大きな音が鳴る。

部屋を見渡すと、壁に掛けられた油絵が目に入った。

埃と日光で痛んでいたが、ある王族一家の肖像画のようだった。

王と王妃、王子であろう少年と王女であろう少女が並んでいる。

その少女に目をやる。

黒い髪と黒い瞳、雪のような白い肌は、描かれた当時はさぞ美しい色をしていたのだろう。

どこか見覚えのあるその少女を見つめる。

だが、今のアレキサンドライトには、その少女が誰なのか思い出すことは出来なかった。

物陰の合間から月明かりが差していた。

光を見上げる。

満月だった。

雨季に入ったサンドライトとは違い、今宵のシャーマナイトは晴れているようだった。

黒い雲が風で流れ、満月を隠すと月明かりが消えた。

自分の輪郭も溶けてしまうような暗さ。

自身の手を見つめた。

流した血が乾き、黒く変色して固まっていた。

それすら何も思わないのか、ただただぼうっと自分の手を見つめていた。

奥から処置具と水の入った桶を持ってきたアメジストはそれらをテーブルの上に広げていく。

「……脱げ」

言われた意味が解らず、アレキサンドライトはアメジストの方を見上げた。

「……手当ができん。無理なら手伝うが」

上着の事を言われているのと気付き、アレキサンドライトはゆっくりと首を振った。

「私に構うな」

アメジストはアレキサンドライトに近付き、赤く染まった腕を乱暴に取った。

傷口を強く押さえると、激しい痛みが走る。

思わず顔を顰め腕を振りほどく。

「……意地を張るな」

このまま傷口を放っておけばどうなるか、軍人のアレキサンドライトにもそれはわかっていた。

それでも一向に脱ごうとしないアレキサンドライトを見兼ね、アメジストは軍服に手を掛けた。

水を含んだ布で傷口の周りの血を拭う。

傷口は思った以上に深かった。

塞ぎきれていないため、拭う度に血が溢れ、鉄の濃い匂いが充満する。

痛みで声を詰まらせると、耐えろとだけ言い、アメジストは無言で傷口の処置を進めた。

「何故私を助ける?」

アレキサンドライトは静かにアメジストに問う。

「……陛下のご命令だ」

確かにあの時、プラチナはそんな事を言っていた気がする。

拭った布を桶に晒して洗うと、澄んだ水が赤色に染まる。

血を濯ぎ再度硬く絞ると、先程と同じように傷口の血を拭う。

「何故あの時殺さなかった?」

「……陛下のご命令だ」

アレキサンドライトの敗北が確定した時、プラチナは迷う事無くアレキサンドライトのピースを選んだ。

そのまま首を落とされると思っていたアレキサンドライトが聞いた言葉は、プラチナからの『ついて来い』の一言だけだった。

正直、その辺りの事ははっきり覚えていなかった。

思い出そうとする気力さえ、今のアレキサンドライトにはなかった。

一つだけ、気がかりだった事があった。

「彼女は、どうしていた?」

アメジストの手の動きが一瞬止まった。

「ルーベは、どうしていた?」

今思えば、振り返る事すらしなかった。

彼女の顔を見るのが、怖かったのかもしれない。

「……驚かれていた」

消毒液を取り、傷口にかける。

アレキサンドライトの声が詰まり、逃れようと体を捩る。

その腕を無理に取り、再度傷口に消毒液をかける。

慣れた手付きで包帯を取り出し、器用に傷口を巻いていく。

「……本当は、もっと良い言葉があるのかもしれないが、生憎私は口下手だ。良い言葉を掛けてやれない」

この部屋に来てからの彼の言動で、それはわかっていた。

アレキサンドライト自身、そんな気遣いなど必要ないと思っていたが。

「ルーベに声を掛けてやってもよかったんじゃないか?」

包帯を結び終え、アメジストが顔を上げた。

「彼女はずっと待っていた。お前の帰りを、ずっと」

「……そうか」

「それだけか?」

「……今更私の言葉など、必要ない」

裏切り者の言葉など。そう呟きながら処置具を片していく。

「……私は姫の元に戻らなかった。いかなる理由があってもその事実に変わりはない。そんな私が今更姫にお声をかけるなど、身の程知らずも良いところだ」

「口下手でも何でも良い。ルーベはきっと、お前の言葉が欲しかったはずだ」

アメジストは答えなかった。

丁度その時、部屋の扉をノックする音が響いた。

アメジストが静かに扉を開けると、一人の兵士が立っていた。

「よ、良かった!居た!これ、女王陛下からお前にって!確かに渡したからな!な!?」

念を押しながら、ある物を押し付けられた。

女王の命令が余程重荷だったのか、アメジストに目的の物を渡した途端、兵士は一目散に駆けて行った。

受け取った物が何を意味するかわかったアメジストはアレキサンドライトの元に戻り、ベッドの上にそれを放った。

「……着替えろ」

黒いシャーマナイト式の軍服だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ