VII
自室に戻ったプラチナは、目についた物に当たり散らしていた。
驚いたメイド達は肩を震わせながら一目散に部屋から出て行った。
白百合を活けてあった花瓶は投げ飛ばされ音を立てて破片になる。
机や椅子を乱暴に蹴り倒す。
作業机に積まれていた書類の山をなぎ倒す。
散々暴れ回り、部屋中が無残な姿になった頃、肩で息をするプラチナの背後に黒い影が現れた。
「可哀想に……何を怯えているの?」
死神・レヴィアタン。
艶かしい女性の体つきをした死神はプラチナに歩み寄る。
「乱暴な女王様……怖がらずともあの男は貴方の手中にある。貴方のモノよ」
「……今はそうかもしれん。だが……」
プラチナはあの時アメジストを追っていた女の正体を知っていた。
ラズライトで幽閉されていたいばら姫・ルーベライト。
アメジストがシャーマナイトに居を移す前、ラズライトにいた事は知っていた。
あの時見た二人の仲を悟らぬ程、プラチナは愚かではなかった。
「欲張りなのね。そんな所、嫌いじゃないわ」
クスクスと笑いながらレヴィアタンは続ける。
「貴方には力がある。力の前に人は平伏す。さっきだって貴方の前で忠誠を誓ったでしょう?蹴飛ばされてもなお忠誠を誓う騎士……素敵な駒じゃない」
「忠誠を誓ったのは我の力にだ。我自身ではない」
「同じ事よ。それとも何かしら?心まで欲しいのかしら?」
プラチナの黒曜石の瞳が動く。
「簡単な事よ。手足をもいでしまいなさい。そうすればあの男は貴方なしでは生きていけなくなる」
「そんな野蛮なやり方では意味がない」
「あら?貴方の口からそんな言葉が出るのね。意外だわ」
笑い続けるレヴィアタンに怒りが込み上げる。
「怒らないで。それに貴方にはもう一人素敵な騎士がいたでしょう?お返事はもらえたの?」
「……いや」
アレキサンドライト。
プラチナがここまで怒る原因の一つでもあった。
「男なんてそんな生き物よ。期待するだけ無駄……可哀想な女王様」
黒いローブから真っ白な手を出し、頬を撫でてやる。
生ける者の証である熱が宿らぬその手の冷たさに、プラチナは思わず顔を背けた。
「面白い話を聞かせてあげましょうか?」
視線だけで言葉を促した。
「貴方が嫌いなあの女……アレキサンドライト陛下がお熱みたいね」
「何だと?」
「ふしだらな女……アメジストだけでは飽き足らず、貴方の未来の夫にも手を出そうとしている」
「どこでそんな話を?」
「私の情報網を甘くみないで。貴方の知らない事、何でも知っているのよ」
再度プラチナの顔に指を滑らす。
「陛下は首を縦に振らないわ。あの女がいるせいで。せっかく貴方が考えたアイデアも、あの女のせいで全てぶち壊しね」
「……まだそうと決まったわけでは」
「望みのない返事を、貴方は待っていられるの?」
プラチナは口を閉ざしてしまった。
レヴィアタンは笑いながら続ける。
「面白い話がもう一つ。あの女、生贄よ」
「……アレキサンドライトの?」
「えぇ。勇敢な王に守られるか弱く美しいお姫様……貴方が一番嫌いなタイプね」
プラチナの瞳が鋭く細められる。
「気に入らないわよね。あんなかわい子ぶってる女、死んじゃえばいいのに。そしたら二人とも、貴方を見てくれるのに」
『貴方を見てくれるのに』
その言葉に弾かれたように火打石銃に手をかけた。
素早く引き金を引いた途端、部屋中に轟音が響いた。
大きく穴の空いた頭部。
黒い影がじわりと埋めるように蠢き、元の姿に戻った。
「酷いわ。本当の事なのに」
「黙れ!!」
「そんなオモチャじゃ私は殺せないわ。残念ね」
楽しそうに笑うレヴィアタンにプラチナの顔は怒りに歪む。
「そんなに怯えないで。いつだって私は貴方の味方……貴方を助けたのも私だったでしょう?」
プラチナの脳裏にある記憶が蘇る。
炎が舞う部屋。
こときれ、結晶となって床に転がる両親と兄。
自身の腹部に刺さった剣。
全身を駆け巡る激しい痛み。
絶望で涙する中、窓辺に見えた黒い影に手を伸ばした。
思い出しただけで全身から冷たい汗が流れた。
「欲しいものは奪えばいいわ。国も、人も。貴方にはそれを可能にする力がある」
記憶を打ち消すレヴィアタンの言葉。
「『目的のためなら手段を選ばない』それが貴方のやり方でしょう?」
ローブから覗く唇が怪しく弧を描いた。




