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綺石のクラウン  作者: もももか
第十一章 『プラチナ』
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VII

自室に戻ったプラチナは、目についた物に当たり散らしていた。

驚いたメイド達は肩を震わせながら一目散に部屋から出て行った。

白百合を活けてあった花瓶は投げ飛ばされ音を立てて破片になる。

机や椅子を乱暴に蹴り倒す。

作業机に積まれていた書類の山をなぎ倒す。

散々暴れ回り、部屋中が無残な姿になった頃、肩で息をするプラチナの背後に黒い影が現れた。

「可哀想に……何を怯えているの?」

死神・レヴィアタン。

艶かしい女性の体つきをした死神はプラチナに歩み寄る。

「乱暴な女王様……怖がらずともあの男は貴方の手中にある。貴方のモノよ」

「……今はそうかもしれん。だが……」

プラチナはあの時アメジストを追っていた女の正体を知っていた。

ラズライトで幽閉されていたいばら姫・ルーベライト。

アメジストがシャーマナイトに居を移す前、ラズライトにいた事は知っていた。

あの時見た二人の仲を悟らぬ程、プラチナは愚かではなかった。

「欲張りなのね。そんな所、嫌いじゃないわ」

クスクスと笑いながらレヴィアタンは続ける。

「貴方には力がある。力の前に人は平伏す。さっきだって貴方の前で忠誠を誓ったでしょう?蹴飛ばされてもなお忠誠を誓う騎士……素敵な駒じゃない」

「忠誠を誓ったのは我の力にだ。我自身ではない」

「同じ事よ。それとも何かしら?心まで欲しいのかしら?」

プラチナの黒曜石の瞳が動く。

「簡単な事よ。手足をもいでしまいなさい。そうすればあの男は貴方なしでは生きていけなくなる」

「そんな野蛮なやり方では意味がない」

「あら?貴方の口からそんな言葉が出るのね。意外だわ」

笑い続けるレヴィアタンに怒りが込み上げる。

「怒らないで。それに貴方にはもう一人素敵な騎士がいたでしょう?お返事はもらえたの?」

「……いや」

アレキサンドライト。

プラチナがここまで怒る原因の一つでもあった。

「男なんてそんな生き物よ。期待するだけ無駄……可哀想な女王様」

黒いローブから真っ白な手を出し、頬を撫でてやる。

生ける者の証である熱が宿らぬその手の冷たさに、プラチナは思わず顔を背けた。

「面白い話を聞かせてあげましょうか?」

視線だけで言葉を促した。

「貴方が嫌いなあの女……アレキサンドライト陛下がお熱みたいね」

「何だと?」

「ふしだらな女……アメジストだけでは飽き足らず、貴方の未来の夫にも手を出そうとしている」

「どこでそんな話を?」

「私の情報網を甘くみないで。貴方の知らない事、何でも知っているのよ」

再度プラチナの顔に指を滑らす。

「陛下は首を縦に振らないわ。あの女がいるせいで。せっかく貴方が考えたアイデアも、あの女のせいで全てぶち壊しね」

「……まだそうと決まったわけでは」

「望みのない返事を、貴方は待っていられるの?」

プラチナは口を閉ざしてしまった。

レヴィアタンは笑いながら続ける。

「面白い話がもう一つ。あの女、生贄サクリファイスよ」

「……アレキサンドライトの?」

「えぇ。勇敢な王に守られるか弱く美しいお姫様……貴方が一番嫌いなタイプね」

プラチナの瞳が鋭く細められる。

「気に入らないわよね。あんなかわい子ぶってる女、死んじゃえばいいのに。そしたら二人とも、貴方を見てくれるのに」

『貴方を見てくれるのに』

その言葉に弾かれたように火打石銃に手をかけた。

素早く引き金を引いた途端、部屋中に轟音が響いた。

大きく穴の空いた頭部。

黒い影がじわりと埋めるように蠢き、元の姿に戻った。

「酷いわ。本当の事なのに」

「黙れ!!」

「そんなオモチャじゃ私は殺せないわ。残念ね」

楽しそうに笑うレヴィアタンにプラチナの顔は怒りに歪む。

「そんなに怯えないで。いつだって私は貴方の味方……貴方を助けたのも私だったでしょう?」

プラチナの脳裏にある記憶が蘇る。

炎が舞う部屋。

こときれ、結晶クリスタルとなって床に転がる両親と兄。

自身の腹部に刺さった剣。

全身を駆け巡る激しい痛み。

絶望で涙する中、窓辺に見えた黒い影に手を伸ばした。

思い出しただけで全身から冷たい汗が流れた。

「欲しいものは奪えばいいわ。国も、人も。貴方にはそれを可能にする力がある」

記憶を打ち消すレヴィアタンの言葉。

「『目的のためなら手段を選ばない』それが貴方のやり方でしょう?」

ローブから覗く唇が怪しく弧を描いた。

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