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綺石のクラウン  作者: もももか
第十一章 『プラチナ』
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VI

シャーマナイトに帰国した夜、アメジストは呼び出しを受けた。

主君であるプラチナからだった。

その旨を伝えに来た兵士はお願いだから時間厳守で来てくれ、でないと自分の首が飛ぶと怯えていた。

シャーマナイトでのプラチナは絶対的な権力を持った存在だった。

他人の死も厭わない、冷徹の女王。

敵国には一切の情をかけず、自国の者でも気に入らない事があれば言葉一つで処刑を命じる。

女性という立場でこの大国を無二の軍事国家に仕立て上げたのは、その妥協を許さぬ性格からだった。

以前、こんな事があった。

シャーマナイトで有名な拷問具を制作する男がいた。

プラチナはその男に例を見ない拷問具を作ってくれと依頼した。

牛の形を模した金属製の大きな器。その中に死刑囚を入れ、牛の器ごと火炙りにしていたぶり殺すという大変悪趣味なその拷問具を、男は自信満々にプラチナに献上した。

使い方を見せろと言われ、男が準備をしていた時、兵に命じ男を牛の器に閉じ込めた。

出してくれと叫び続ける男に構わず、火炙りにしろとの命令が下った。

結果、自分が考え制作した拷問具で、男は炙り殺しとなってしまった。

どうしてその様な事をしたのかと問えば、プラチナは言った。

『奴の笑い方が下品で気に入らなかったから』と。

プラチナの冷徹さを表す話では、この話は一例にすぎない。

それ程国民はプラチナに恐怖を覚えていた。

「なぁ、頼むよ!俺には田舎に母親しかいないんだよ!行ってくれないと今度は俺が殺されちまう!」

青ざめた兵士が自分に縋り付く。

彼が自分を呼ぶ役にされたのには理由がなかっただろう。

プラチナの目に偶然彼が止まった。

ただそれだけだろう。

そんな理由で重要任務を任され、自分が背けはこの兵士は処刑される。

プラチナはそういう女王だった。

「……すぐに行く」

「本当か!?頼むよ!俺はまだ死にたくない!!」

先程から部屋でわんわんと泣き続ける兵士。

約束の時間までそうされると流石に参ってしまう。

少し早いが、アメジストは指定を受けた謁見の間に足を向けた。

重い扉を開ける。

そこには黒い甲冑で武装した側近達が乱れる事なく整列していた。

前方の玉座にプラチナは座っていた。

アメジストはゆっくりと足を向ける。

途中、側近達からの会話が聞こえて来た。

「いい気味だ。西国出の分際で」

「陛下のお気に入りなのに可哀想に」

シャーマナイト人とは異なる銀色の髪と紫の瞳。

一目で敵国チャロアイトの血を引いているとわかる自分の姿。

加えてプラチナの側近にまでのし上がった自分を、彼らは良い様に思っていなかった。

耳を貸さず、プラチナの前まで来ると片膝を付いて頭を下げた。

「……アメジスト、参上しました」

広い謁見の間にアメジストの声が反響する。

「顔を上げろ」

足を組んで玉座に座っていたプラチナは立ち上がる。

アメジストが顔を上げた時だった。

鉄靴で思い切り顔面を蹴倒された。

反動で倒れこむ。

同じ空間にいた側近達の顔から血の気が引いた。

「サンドライトにいたあの女……誰だ?」

アメジストは答えなかった。

プラチナは倒れているアメジストの髪を掴み乱暴に引き上げる。

蹴られた際に頭を切ってしまったのか、流れる血が顔に伝った。

「貴様が仕える主君は誰だ?」

黒曜石を思わせる瞳が鋭く射抜く。

痛みに顔をしかめながらも、アメジストは答えなかった。

「言え!!」

細い腕のどこから強い力が出てくるのか、髪を鷲掴む手に力が篭る。

「……シャーマナイト女王……プラチナ陛下です」

真っ直ぐに向けられた紫の瞳。

今はそれが気に食わなくてプラチナは声を張り上げる。

「そうだ!貴様が仕えるのはこの我だ!!」

鳩尾を蹴り飛ばされ、息を詰まらせながら仰向けに倒れる。

思わず咳き込んでしまう中、プラチナは容赦なく蹴り上げた鉄足をアメジストの喉元に置き、踏みつける。

「貴様は我の剣だ!鞘に収まる事も、他の物になるのも許さん!!絶対にだ!!」

喉が押しつぶされそうになる。

呼吸が出来ない中、アメジストはプラチナの顔を見上げる。

怒りと嫉妬に狂った瞳。

そして、何かに怯えているようにも見えた。

プラチナは再度アメジストの鳩尾に蹴りを入れる。

続いて火打石銃に手をかける。

ロックを外し、銃口をアメジストに向けた。

「跪け!我に忠誠を誓え!!」

恐怖のあまり静まり返る謁見の間に、プラチナの荒い息遣いだけが反響する。

アメジストは数回咳き込んだ後、ゆっくりとした動きで跪く。

「……プラチナ陛下に、全てを捧げます」

流れた血は、顔中を赤く染めていた。

伝う赤い血が流れ、上質な絨毯を汚していく。

アメジストは微動だにせずに頭を下げたまま。

対するプラチナは今にも引き金を引いてしまいそうな程、嫉妬に狂っていた。

聞きたかった真相を尋ねる。

「あの女は誰だ?」

「……言えません」

「我の言う事が聞けぬか!?」

「……こればかりは陛下にお答えできません」

「貴様!!」

「……気に入らないのなら、今ここで私の首を跳ねてください」

未練はない。最後は騎士らしく剣で。そうアメジストは続けた。

プラチナは反対の手でカトラスを鞘から抜き、切っ先をアメジストの喉元に当てた。

しかし数秒躊躇った後、アメジストにもう一発鳩尾に蹴りを入れ、その場を去った。

プラチナが去った途端、謁見の間に居合わせた側近は張り詰めていた息を吐き、こわばっていた肩から力を抜いた。

「つまらんものだな。やはりお気に入りは殺せないようだ」

「あのまま斬り落とされていればよかったものを」

「我々の面汚しめ」

アメジストにわざと聞こえるよう罵声を浴びせ、側近達も続いて謁見の間を後にする。

雫が伝う額に手をやった。

黒いガントレットに自分の赤い血が付着していた。

「……姫」

誰にも届かない程、彼の小さな呟きは謁見の間に響く事なく消えた。

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