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綺石のクラウン  作者: もももか
第十一章 『プラチナ』
105/145

V

場所を中庭に移した。

今日のサンドライトは曇り空だった。

白く重い雲が太陽の光を遮る。

もうすぐ雨季がやってくる。

湿った風が度々吹き抜けていく。

殆どの薔薇は咲き頃を終え、褪せて散った花弁が地に落ちていた。

以前見た時は一面美しく咲き誇っていたそれらの移ろいに少しの寂しさを感じながら、アイオライトは庭園を見渡していた。

「まさか東国の女王から求婚されるとは。同盟国として祝いの言葉をかけた方がいいのか。返事はどうするつもりだ?」

「……本当は、同盟とか政略とか、そんな事はどうでもいいんだ……友として、正直に話して欲しい」

そう告げられ、アイオライトは眉間を寄せる。

「信じたいんだ。ルーベの事も、お前の事も……」

「ルーベが踏み込んで欲しくないと思っていてもか?」

アイオライトはアレキサンドライトに向き直る。

「誰にだって触れて欲しくない事はある。知られたくない事、思い出したくない事……塔で過ごしてきたルーベにだってそれはある」

「わかっている。でも、もし私が力になれるなら、本当の事を教えて欲しいんだ」

「ルーベが背負っている悲しみを、貴様が背負えるのか?」

アイオライトの目が鋭く細められる。

「兄として聞かせてもらう。あの子を傷つけても真実を知りたいのか?知ってどうするつもりだ?可哀想だと慰めてやるつもりか?」

「……それは、」

「半端な気持で踏み込んでみろ。その時は、私が貴様を許さない」

海のような青い瞳がアレキサンドライトを射抜く。

湿った風が吹いた。

生暖かい風が全身を撫でて行く。

「……彼女は、生贄サクリファイスとして、どんな時でも私を支えてくれた」

湿った空気が少し息苦しい。

それでも、アレキサンドライトは続ける。

「ロイヤルゲームのルールを知らずネフライトを殺めてしまった時は、何の非もないのに何度も謝ってくれた。お前と友になれた時は、心の底からありがとうと言ってくれた。ジェダイトが西国に手を出さないと約束してくれた時は、一緒になって喜んでくれた。トパーズがゲームに参戦すると知った時は、親身になって身を案じてくれた。カーネリアンから挑戦状が届いた時は、どうしたら良い方向に向かうのか一緒に考えてくれた。スギライトと戦った時は、震える私の体を抱きしめてくれた。ロイヤルゲームだけじゃない。私が辛い事を乗り越えてこれたのも、傍でルーベが支えてくれたからだ。だから、」

「だから、何だ?」

続きを求められ、思わず言葉を詰まらせる。

「貴様が言いたい事はわかった。だが、それは単なる同情だ」

「同情なんかじゃない!私は……!!」

自分の張り上げた声の大きさに驚いた。

アレキサンドライトの反応に、アイオライトは何かを悟ったように溜息を吐いた。

暫くの沈黙の後、重い口を開いた。

「アメジスト……ルーベが愛した、唯一人の男だ」

アイオライトの言葉に、アレキサンドライトは目を見開いた。

「髪が銀色、瞳が紫なのは母方がチャロアイト人だからだ。父方はラズライトの有力貴族出身だった。その縁でかつてはラズライトで私の軍に配属されていたが、チャロアイトの血が入った奴を快く受け入れる者はいなかった。私もそうだった」

ラズライトが信仰するロードナイト教の教えの一つに、異民の血を受け継ぐ事は禁忌とされている。

神聖なるラズライトの血を汚してはいけないという教えだった。

そのため、混血の存在を作る事も、産む事も、愛する事も禁じられている。

以前彼の父・ラピスラズリから聞いた事があるのを思い出した。

「ラズライトでの混血者の扱いは貴様も知ってるだろう?多くの者が混血の奴を忌み嫌っていたが、ルーベだけは違った。奴を一人の人間として接した。塔で隔離され、我らと感性が違っていたからか、奴を哀れに思ったからかはわからんが……二人が恋仲になるには、そう時間はかからなかった」

最後の一輪として咲いていた白薔薇に目を向ける。

純白の花弁だったそれは、生命力を失い、茶色く濁って枯れかけていた。

「その関係は長く続かなかった。前に一度、シャーマナイトのモリオンの話をしたのを覚えているか?先代シャーマナイト王・モリオン……奴が七国王ヘプタークとして父にロイヤルゲームを挑んできた。だが、長年自分が七国王ヘプタークという事を隠し続けてきた父に生贄サクリファイスとなる存在はいなかった。私はある提案をした」

白薔薇に触れると、それははらりはらりと花弁を散らした。

「アメジストを生贄サクリファイスにする事。モリオンと戦うため、奴を駒として選び、死神に捧げた」

「どうして……!?」

「アメジストはラズライトで一番の騎士だった。戦力には申し分なかった。だが、一番の理由は……ルーベにこれ以上近付けさせたくなかった私のエゴだ。神の教えに反する奴の存在を、私は許す事が出来なかった」

アイオライトの手から、白い花弁が散って行く。

「結果はアメジストの負けだった。額に大きな傷があるのはその時のものだ。モリオンは次のゲームの戦力にするべくアメジストを選んだ。奴の犠牲で、ラズライトは事なきを得た。奴がシャーマナイトに居る理由がそれだ。事実、ラズライトでは帰らぬ人となった。『ラズライトのアメジスト』は死んだ」

「……ルーベはその事を知っているのか?」

「これはずっと私の胸の内で秘密にしてきた。初めて貴様に話した事になる」

どういう意味かわかるな。

そう念を押すようアレキサンドライトに答えた。

「奴が戦で死んだと教えたのも私だ。ルーベは何一つ知らない。何も……」

気付けば、アイオライトの肩を力任せに取り、振り向かせていた。

「何故だ!?ルーベの事を大切に想っていたんじゃなかったのか!?」

アイオライトは答えなかった。

アレキサンドライトからの視線を逸らし、唇を噛む。

何度も何度もアイオライトの肩を揺さぶる。

「ルーベは奴の帰りをずっと待っていたんだぞ!?たった一人、愛した人を!!何年も何年も!!知らなかったわけじゃないだろう!?なのにどうして!?」

「……貴様には理解できん話だ」

「できるわけないだろう!?どうしてお前がそんな事をするんだ!妹に幸せになってもらいたくないのか!?」

「……っ!幸せを願わない兄がいるわけないだろう!?」

アレキサンドライトの手を跳ね除ける。

「ルーベは幽閉の身でもラズライト王女だ!ラズライトで混血の人間と生涯を共にしてみろ!?あの子は一生外の世界に出られない!生涯罪人として日の下を歩けない!今以上に外の世界から隔離されてしまう!」

「だから引き離したのか!?ルーベが傷付く事を知っていたのに!それで奴をゲームに参戦させたのか!?」

「あのまま何もしなければルーベは今以上に辛い思いをする!悲しい思いをするのはルーベだ!」

「アイオライト、嘘だろう!?お前はそんな事をするような奴じゃない!」

「貴様が何も知らないだけだ!!」

受け入れる事ができず、何度も嘘だと首を振るアレキサンドライト。

少し間を空け、冷静さを取り戻したアイオライトは言う。

「貴様は以前私に言ったな?自分は神を信じない、教えで戦を終わらすことは出来ないと。だがそれは貴様がサンドライトで生を受けたから言える事だ。ラズライトではロードナイト教の教えは絶対だ。背く事は『罪』に値する。王家の身分なら尚更だ。私は、ルーベに罪人になって欲しくないのだよ……!」

最後の方は消え入りそうな声だった。

初めて彼の悲痛な声を聞いた。

「違う……こんなやり方をしなくても、何か方法はあるはずだ……」

「だったらどうする?貴様の『正義』でロイヤルゲームをするつもりか?貴様の私欲でラズライトのやり方を変えるのか?そんな事をしてみろ?貴様がやろうとしている事は、貴様が忌み嫌う暴君共と同じ事だ!」

「……そんな、」

「これでわかっただろう?仮に今言った事をルーベが知ったとしても余計悲しませるだけだ。ルーベ自身も踏み入って欲しくない事だ。それで貴様がルーベの抱えているものを背負えるのか?……出来ないだろう!?」

「……私は、」

「出来もしないのにこれ以上ルーベに近付くな!!」

彼女への想いを見抜かれて告げられた言葉だった。

アレキサンドライトは何も言い返せなかった。

「……今回の件でルーベをサンドライトに置くのはやめる。それがルーベにとっても、貴様にとっても一番良い方法だ。近々迎えを寄越す。それまでは、あの子に何も言わないでくれ……」

最後にそう言い背を向けたアイオライトを、引き止める事は出来なかった。

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