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綺石のクラウン  作者: もももか
第二章 『ルーベライト』
10/145

III

その夜。

ラピスラズリから自由に使ってくれと宛てがわれた一室で、アレキサンドライトはセラフィナイトと話していた。

「ラズライトに姫君がいた事も初耳ですが、よりにもよってフローライトのネフライトと縁組だなんて……ラピスラズリ陛下は何をお考えなのでしょうか?」

セラフィナイトがラズライト城の警護にあたる際に聞かされた話。

ラズライト王・ラピスラズリに息女がいた。

それも、よりにもよって東の敵対国、フローライト王・ネフライトと婚約したのだという。

「信じられません。我らに相談もなしで暴君ネフライトと手を組むつもりなのでしょうか。それにしてもラピスラズリ陛下らしくない。どうして今まで姫君の存在を……陛下、聞いてらっしゃいますか?」

自分の話に反応がないアレキサンドライトにセラフィナイトは顔を向けた。

「陛下」

二度目の呼びかけにやっと気付いたのか、アレキサンドライトは返事を返した。

「すまない。途中から考え事をしていた……」

「陛下はどうお考えですか?これはサンドライトとの信頼関係に値します」

アレキサンドライトは机に置いたピースに視線をやりながら答える。

「私にも、何がどうなっているのかわからない。しかし、陛下が話さなかったという事は私の耳に入れたくないという事だろう。きっと何かお考えがあるはずだ。陛下から直接聞いていない話をここで議論しても仕方ない」

「確かにそうですが……」

「陛下も怪我で参っておられる。明日、タイミングが合えば私からも伺うようにする」

アレキサンドライトが今日はもう休むと席を立つと、セラフィナイトは礼をし部屋の明かりを消し出て行った。

静まり返った、明かりのない部屋。

アレキサンドライトは目を鋭くさせると、一瞬でクレイモアを鞘から出し、背後の壁に突き立てた。

「誰だ」

あの時自分を助けた、黒いローブの青年だった。

「おいおい!いきなり何すんだよ!?ビビるじゃねーか!?」

切っ先は頭部の真横に刺さっており、始めから彼の気配に気付いていたように的確に射抜いていた。

「貴様、何者だ?何故私の前に現れる?あのピースは何だ?『ゲーム』とは何だ?説明しろ」

「いっぺんに聞くなよ」

「答えろ」

有無を言わさぬようにぐっと剣の刃が喉に寄る。

「わーったわーった!言うから!あ、言っとくけど俺には剣とか効かないよん」

そう言うと死神の喉は鋼をすり抜けた。

驚くアレキサンドライトを他所に、『でもびっくりするからやめてくれよな』と何事もなかったかのように言ってのける姿はとても人間だと思えなかった。

壁に刺した切っ先を、今度は死神に向け言う。

「貴様は誰だ?」

「効かねぇって言ってんのに強情な奴だな……俺は死神。ルシファー様と呼べ!」

どこか偉そうに死神は名乗った。

「どうして私の前に現れた?」

「だから死期が近い奴には見えちゃうんだって。前にも言っただろ?あ、それどころじゃなかったか……」

「何故私の奇石きせきがなくなっている?」

「お前が助けてくれって頼んだんじゃん」

死神ルシファーはテーブルに行儀悪く座ると、置かれていたバスケットからリンゴを取ると勝手に頬張った。

「お前は『ラトゥミナ症候群』にかかった。でも死にたくないから俺に命乞いしてきた。『ラトゥミナ症候群』は奇石きせきの奇病だ。助けるには奇石きせきを身体から外せばいい。ま、普通の奴がやると死んじまうけどな」

「……私は、生きているのか?」

「そう。俺のおかげで」

アレキサンドライトはどこか安心したのか、剣をゆっくりと下げた。

「助けてくれた事には感謝する」

「おうよ」

アレキサンドライトは机の上のピースを手に取る。

「このピースは何だ?」

「それは『ロイヤルゲーム』の参戦が許された者の証。お前の分身みたいなもんだな。それがないとゲームに参戦出来なくなるから無くすなよ」

「『ロイヤルゲーム』……?」

「選ばれし王様たちのゲームだよ。お前は七国王ヘプタークとして他にもピースを持ってる王様と戦うんだ」

「戦う?」

「そう!」

食べ終わったリンゴの芯を適当に放り投げ、ルシファーは嬉々と続ける。

ピースを持つ王様は七国王ヘプタークとして『ロイヤルゲーム』に参戦することができまぁす!!ルールは簡単!相手の七国王ヘプタークを殺すか降伏させるか、ゲーム続行不能にすれば勝ち!審判の死神のジャッジが効く範囲ならどーんな手を使ってもオッケー!ゲームの勝者は敗者のピースを一つ、思うがままにできちゃいます!七国王ヘプタークピースを奪って国を支配しちゃったり、生贄サクリファイスピースを奪って愛人にしちゃったり……使い方は自由自在!見事全ての七国王ヘプタークを倒し、『ロイヤルゲーム』を制覇した王様には全ての願いが叶うという幻の秘宝『ロイヤルクラウン』をプレゼント!どうだ?ステキな話だろ?」

楽しげに説明するルシファーとは対象的に、アレキサンドライトは言われた言葉を飲み込むのに必死だった。

ピースを、思うがまま……?」

「そうそう。お前だって欲しいものの一つや二つあんだろ?」

『思うがまま』という言葉に、今日のルーベライトとネフライトの姿が浮かんだ。

「まさか、彼女が……!?」

「俺は見てねぇけど、サタンが言うには親父さんを庇ったらしいな。自分の親父を斬った相手に『私が貴方の物になります!』だって!くぅ〜泣けるねぇ〜」

消えた奇石きせき

ラピスラズリの突然の怪我。

彼女をフィアンセだと乱暴に扱うネフライト。

そして、ルーべライトの悔しそうな顔。

アレキサンドライトの中で全てが一つに繋がった。

気付けばルシファーの胸倉を掴んでいた。

「何がゲームだ!?ふざけるな!!」

「誰もふざけてねぇーよ」

「彼女は物じゃない!やめさせろ!!」

「仕方ねぇだろ?そういうルールなんだから」

苦しいとジタバタするルシファーを乱暴に離し、アレキサンドライトは言う。

「一国を背負う者同士のゲームだと?馬鹿げてる」

「お前は馬鹿げてるって思うかもしれねぇけど、魅力的だって参戦する輩もいるんだよ」

「私は降りる」

「そいつは無理だな」

ルシファーは懐から先日の契約書を取り出す。

「お前は『ロイヤルゲーム』に参戦するって約束で命拾いしたんだぜ?契約違反は駄目でしょ〜?」

「そんな話は聞いていない」

「お前が聞かなかっただけだろ?」

アレキサンドライトはぴらぴらと見せられる契約書を目にも留まらぬ速さで斬った。

しかし、その直後胸に痛みが走り、膝をついた。

心臓を何かに握り締められるような痛みがアレキサンドライトを襲う。

「契約書破ったら死んじまうだろ?何やってんだお前」

苦しさに倒れ込むアレキサンドライトを見下げるようにルシファーは言う。

「なーんちゃって♪本物はこっちでした〜!レプリカで良かったな、本物だったらせっかく助かったのにぽっくり逝ってたぞ?」

楽しそうに懐からもう一枚書類を出すと、アレクの胸の痛みが止まった。

だが、まだうまく呼吸ができず咳き込みながら肩で息をする。

「まぁ初めは納得できないかもしんねぇけどさ、自分の運命だと思って諦めようぜ、な!」

明るくポンと肩を叩くルシファーの手をアレキサンドライトは思い切り跳ね除けた。

可愛くねーなとごちるルシファーは、懐から一枚の黒い封筒を取り出しアレキサンドライトに放る。

「キャスリングは明日夜十二時。迎えに来るからそれまで準備しとけよ。時間厳守でよろしくな」

「何故私がネフライトと戦わねばならない!?お前の言いなりになるつもりはない!」

「今更ワガママ言うなよ〜もう向こうの死神も聞いて段取りしてるだろ?それにおかしくねぇか?お前、国同士で戦してるのに、なんで決闘は駄目なんだよ?」

死神の言葉にアレキサンドライトは言葉を詰まらせた。

「昼間のおっさんとこの国と何度も戦してるんだろ?毎回たくさんの兵士と殺し合いしてるのに、明らかにゲームでケリ付けた方が話早いだろ?それともアレか?一人殺るだけじゃ物足りないってか?」

下品な笑いをする死神にアレキサンドライトは再度斬りかかった。

死神の姿は影のように変わらずそこにある。

「だから効かねぇって。学習しろよ」

「どの世界に好んで戦をする馬鹿がいる!?皆、平和を求め戦っているだけだ!」

「理由はどうあれやってることは一緒だろ?」

アレキサンドライトは返す言葉が見当たらなかった。

「違う……私は……!!」

「ま、そんなことどうでもいいや。とにかく明日の夜十二時、迎えに来るからちゃんと待ってろよ?ゲームに参戦しない時点で負けだからな」

「……もし私が負ければ、どうなる?」

「さぁな?あのおっさんに聞いてみな」

そう告げるとルシファーは暗闇に溶けるように姿を消した。

未だ整わない呼吸。

全身を伝う冷たい汗。

信じられない現実と悔しさにアレキサンドライトは絨毯に爪を立てた。

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