雪山のご先祖様
短編第2弾。ほっこりする話?
最初は少し初期イメージのせいかダンジョン物っぽい。
でも最初の少しだけ。後はほっこりイメージです。
風を感じて目が覚める。
「ここ、は?」
起きてみると洞窟の前にいた。
なんでこんな所にいるのだろうか?
洞窟の前に紙が置いてあるがあれに何か書いているのだろうか?
紙を拾って読んでみる。
1、お前のやる事:生物を創れ。
2、自身の事が知りたければステータスを見ろ。念じれば出る。
3、一定数生物創るまで死ぬな。
4、お前は他世界の魂を使って創った存在だから多少の知識が残っているかもしれないが記憶があると思うな。産まれたばかりの赤子に記憶がないのと同じだ。
5、服くらいはくれてやる。武器は自分で何とかしろ。
6、50年くらいは何も食べなくても生きていけるから安心しろ。その間に自身の食べられるものを知っとけ。
7、一応それぞれに合う場所に生まれたはずだ。後は適当に住処を作れ。
8、ここまでしてやったんだからそれなりに成果を見せろよ。5000年後に俺の望んだ世界になっていなかったら、転生していようが何しようが魂捕まえて消滅させるからな。
理不尽な内容なのだが、おそらくこれを書いたのは私の創造主なのだろう。
親……とは言いたくないが創造主の願いだ、やる事もないし叶えても良いだろう。
生物をどう創るかは良く分からないが、とにかくステータスと言うのを見てみよう。
―――
名前:
種族:水氷の化身
属性:水 氷
称号:水氷を生みし者 水氷を統べる者
スキル:水属性生物創造 氷属性生物創造 水氷操作
―――
水氷操作は水や氷を自由に操る技。
一通りステータスを見たけどやはり使い方が良く分からない。
どうやって創れば良いのか?
悩んでいてもいい案は浮かばない。
先に自身の名前を決めてしまおう。
私は一応水氷を統べる者らしいので名前もそれっぽいものが良いだろう。
「雪……だと氷だけっぽい。雪解け水って雪代と言った気がする。ぴったりかもしれない」
そう思うとステータスの自身の名前が雪代になっていた。
名前、決まってしまった。ぴったりとは思ったけど決定した気はなかったのに。
まぁ、いい。
住む所はこの洞窟でいいだろう。
風は凌げないが雨は凌げる。寒さを感じないしおそらく大丈夫。
さて、これからどうするか?
1ヶ月。
生まれてからかれこれ1ヶ月くらいたった。正確な時間が分からないからもっと経っているかもしれないが、今の私に知る手段はない。
この1ヶ月だが、何もなかった。
いや、何もしなかったわけじゃないが成果がなかったのだ。
スキルの使い方が全く分からず、ついに不器用という称号を手に入れてしまった。
この称号を手に入れるとさらに不器用になるらしい。なんとも嫌な称号だ。
何時になったらスキルを使える日がくるのか……
この山から出られない事も分かったが……出られたとしてもスキルを使えるようになるまで出ないだろう。今は関係ないから忘れておこう。
1年後。
生まれてから1年くらいか?未だスキルが使えず。
不器用のレベルを超えている気がする。そもそもこれは不器用なのか?とも思ってしまう。
不器用の称号以来、自身に変化はない。
しかし環境は変わった。
私の住んでいる山は私が生まれたせいか徐々に雪が降るようになり、現在吹雪が吹き荒れている。
それでも全く寒さを感じず、それどころか心地良いくらいだ。
しかし精神的には最悪な状態だ。
何時までもスキルが使えず、一人洞窟で生活を続けて1年も経つのだから。
せめて誰か一人でもいいから一緒にいて欲しい。
気分転換に吹雪の中外に出て、適当に何故か吹雪の中で青々とした樹から綺麗な葉と赤い実を数個採り、雪を少し持って洞窟に戻る。
吹雪の中でも不思議と視界は良いから迷う事無く洞窟に戻れた。
洞窟で持ち帰った雪を整えて、葉を刺し、実を付け雪兎を作った。
とてつもなく空しく、寂しい。
自分は予想以上にひどい精神状態だと思った。
ぽろりと自身の目から一雫落ちて雪兎の額の部分に当たる。
手の甲で頬をぬぐって涙を止めるが、空しく寂しい感じは消えない。
そっと雪兎の額の部分に触れてお前が生きていたら良いのにと言うと雪兎が光り始めた。
今までになかった変化に驚く。
光が収まると雪兎はぴょこんと跳ねた。
それを見てようやくスキルが使えたのだと分かる。
いったい何が条件だったのか分からないが今はただ嬉しい。
自身に擦り寄る雪兎をそっと抱き上げ頬を寄せる。
「生まれてくれて、ありがとう……」
また雪兎に雫が当たる。
雪兎は頬に擦り寄ってくれる。
雪なのに温かさを感じてしばらく涙が止まらなかった。
数日後。
今思えば涙で雪兎が解けなくて良かったと思っている。
本人は水に浸かっても大丈夫のようだが、湖に飛び込んだ時は心臓が止まると思った。
しかし雪兎のおかげで精神が安定した。
それと同時に山の気候は落ち着き、今は青空が広がり雪はきらきらと日の光を反射している。
どうにも私の精神状態とこの山の周辺の気候はリンクしているらしい。
それと雪兎だが、灯里と名付けた。
話せずとも大切な存在となったのだから名前くらいは付けたかった。
私が生み出したのだから娘?になるだろうか?
余計に名前が必要である。
いつも見える範囲にはいて、ぴょこぴょこ跳ねている。
呼ぶとすぐに来て擦り寄ってくれる。
……誰かがいるのは良い事だ。
1ヵ月後。
スキルを使い、新たな生物を作る事に成功。
今度は氷の角を持つ鹿だ。
スキルは熟練度があるらしく、熟練度が低いうちは何かしらの媒体と自身の一部……灯里の場合は涙だったが髪でも血でも良いが必要のようだ。
鹿を作った翌日、コツを覚えたため湖の水を使って作るとイルカのような生物ができた。
これなら創造主の願いを叶えられそうだ。
しばらくの間は生物を創り続けよう。
生まれてから25年後。
色々な種類の生物を創り、増えた生物達は世界中に旅立っていった。
子を送り出す親の気持ちとでも言うのだろうか?
すごく複雑な気分だが、山に残った生物もいるので寂しくはない。
全ての生物が山には入りきらないし、子供達の子孫が世界中に増えていくのだしこれで良かったのだ。
……たまに子孫が会いに来てくれると嬉しい。
子孫を送り出して残ってくれた灯里を抱き上げながら思った。
生まれてから50年後。
生まれてから初めて空腹を感じるようになった。
それで50年が経ったのだと思う。
灯里と一緒に雪でできたかき氷を食べた事を思い出し、食べてみると空腹が収まるので自身の主食が水と氷だと分かる。
他のものも食べられるが空腹は収まらない。
食事事情も問題なくなり、平和に過ごす。
生まれてから150年後。
たまに旅立った子の子孫が山に訪れるようになる。
様々な種類がいて、移動がしにくい子もいるから全ての種族が来られるわけじゃないが、それでも嬉しい。
生まれてから500年。
子孫から新たな種族が派生して生まれていた事が発覚。
何と雪族と魚人族と言う人種になっていた。
初めて言葉を話せる子が生まれた事に喜ぶが、残念ながら言語が違っていた。
どうにも私の言葉は古いようだ。
世界には人種が増え、共通言語が生まれているようだった。
話せずとも思いは伝わるから良いのだが……
生まれてから1000年。
少しだが私と話せる者が現れる。
なんと私は先祖として崇められていたようで会う事自体が恐れ多いと思われる存在になっていたらしい。
私と話ができる子孫は、何とか私の言葉を聞いて覚えたらしく、片言ながらも色々な話を聞かせてくれた。
私の使っている言葉が現在古代語とされている事、世界でも数人しか分からないらしいなど。
他にも神と呼ばれる存在がいるとか。
それぞれ火山と天空、地下にいるとされているらしいが本当にいるのだろうか?
それと私と話ができる子孫は巫女や神主と呼ばれているようだが、なにやら綺麗な建物を作って私に祈っているらしい。
祈っても直接会わないと思いは届かないのに。
そんな所で祈ってないで直接会いに来てくれ。
生まれてから3000年。
最近、人型種族になった子孫達が全く来ない。
人型以外の種族の子も少しだけ話せる子孫が生まれたから話し相手はいるのだが……それでも寂しいものである。
話せる子が堅苦しい話し方しかしないのも悩みの一つだ。
灯里が話せたらきっと砕けた話し方をしてくれるだろうに、でも灯里は話せない。
思いは長年の経験ではっきり伝わるものの、やはり話すのとは違う。
それでも灯里が大切な存在には変わりないが。
……話し相手、増えないだろうか?
生まれてから4000年。
人型種族の子孫との繋がりは完全に絶たれたようだ。
他の子孫の話によると私は伝説の存在となっているようで、実際に会えない者とされているらしい。
子孫から忘れられるのはとても寂しい。
それでも元気にしているなら良いのだ。
年々、会いにくる子孫が減っているが、子孫が元気にしているとは伝わってくる。
毎年通ってくれる子孫もいるのだから、これ以上子孫に望んではいけないだろう。
灯里とのんびり子孫の来訪を待とう。
生まれてから5000年。
私の住処に奇妙な来訪者が訪れた。
光が人型を取った様な姿をした来訪者は、突然私によくやったと言った。
はて?この人は誰だろうか?
子孫ではない事はすぐに分かる。
「なんだ?俺の事を忘れたのか?」
会った事はないが懐かしい感じがする光の人型。
「もしかして創造主、ですか?」
「そうだ。あ、敬語はいらねぇぞ。堅苦しいのは嫌いだ」
「私もだ」
会った事もないのに忘れたもないと思うのだが……
創造主が現れたと言う事は生まれてから5000年経ったのだろう。
5000年……長いようで短かった気もする。
「お前は5000年で俺の満足いく世界を作った。他の奴も一応作りはしたが、ありゃだめだ。神と名乗るは、欲深いは、自身が気に入らなければ自分が創った生物ですら平気で殺すわ。放っておけば世界を壊しかねないかったから、仕方なく殺した」
私の他にも生物を創る事を頼んでいたのか……
それにしても自分で創った子を殺すとは許せんな。
創造主が殺してなかったら私が殺していただろう。
子孫が暮らす愛しい世界を壊されたくない。
「ま、あんな奴らの事なんてそこらに放っておいて、だ。5000年の仕事をやり遂げたお前には褒美をやろうと思うが……俺の補佐の神になって外の世界に行かんか?」
創造主の補佐の神、か……
創造主には感謝している。自身を創ってこの世界に連れてきてくれた事を。
なるべく創造主の願いを叶えたい、が……
「お断りする。私は、子孫達の暮らすこの世界が好きだから……離れる事はできない」
「忘れられてもか?」
「それでも子孫が忘れても私の子孫である事に変わりはない。私はずっとこの世界で子孫を見守りたい」
子孫が忘れても、私が忘れる事はない。
絶対、忘れない。
「ったく。優秀そうな奴は皆こうだ。お前の好きにすると良い、どちらにしろこの世界の守護者は必要だったしお前は守護者に適任だ」
「ありがとうございます」
「堅苦しいのは嫌いだって言ったろ?」
「それだけ創造主に感謝していると言う事だ」
「それなら良い」
そう言った後この世界を任せたと言い、おそらく笑いながら創造主は消えた。
創造主がいる間どこかへ行っていた灯里は、創造主が消えたのを見計らったかのように近寄り擦り寄った。
私はそんな灯里を抱き上げる。
外に出ると雪化粧した山の斜面と地平線に広がる緑が見える。
今までは山から出られなかったが、創造主からこの世界の守護者を任されたのだからきっと山の外に出られるようになっただろう。
これを機に子孫達に会いに行ってみるのも良いかも知れない。
今までは会いに来てくれるのを待つだけだったが、これからは会いに行こう。
世界と子孫を巡る旅だ。
時間はおそらく沢山ある。
次に子孫の子が来たら旅の事を伝えて旅に出よう。
灯里を連れて、愛しい世界と子孫達に会いに行こう。
「必ず、会いに行く。たとえ子孫達が私の事を分からなくとも、私は子孫の事が分かるのだから」
実は最初のイメージでは長編物でした。でも書いてたら何時の間にか短編化。(他にも初期は主人公が俺と言っていたり色々変更しました)
最初のイメージと大分ずれました。その影響が前半部分に出ているかもしれません。
だけど後半は温かい感じが出てるといいなーと思いながら書きました。
少しほっこりしてもらえると嬉しいです。
では、感想お待ちしております。