表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

羊飼いの夢

作者: あんたのわたし

 草原を一陣の風が吹き抜ける。


 遠くから、一台のトラックが、丘を目指してやってきた。トラックには、村の長老が乗っている。


 そして、トラックの荷台には、スルスルという名の男と彼の妻で、コトコトという名の女が乗っている。


 三人は、囲いの前でトラックから降りると、丘に続く道を登っていった。


 コトコトという女は、三人で一番先を歩きながら、両手を頭の上にかざして、なにかのジェスチャーをしている。また、飛び跳ねてみたりもする。


 風が、丘の上の一本の大きな木に吹き付ける。木のそばには、ベンチがありそのに誰かが座っている。


 それで、この羊飼い少年は、ブカブカの大人用のくたびれたシャツを着ている。そして、尻の部分の穴に当て布を当てて、修理した大人用のズボンをはいて、荒縄のベルトでズボンが落ちないようにしている。この羊飼いは、これまた自分には大きすぎる二足の靴を互いに丈夫な靴ひもで結び、肩に担いで、裸足で歩いている。それぞれの靴の底には、どでかい穴があきとても使えたものでない靴である。しかし、羊飼いは、サイズが合うように成長したら、靴底を新しいのに交換してもらおうと考えている。いまのところは、はだしでがまんだ。


 それは、村の人間たちが『羊飼い少年』と呼ぶやつである。


 羊飼いの少年というには随分年とっている。



 その羊飼いの前に、この村の長老が立っている。


 そして、スルスルの妻のコトコトが何かを長老に訴えている。

 長老は、羊飼いのほんの鼻先まで顔を近づけて、その顔をしさいに調べ回した。


 長老には、かすかに聞こえてくる羊飼いの息づかいに神経を集中した。羊飼いの瞼を持ち上げて、その瞳の奥にあるものを見極めようとした。


 すると、長老は鼻にむずがゆさを感じた。そして、長老は歯を食いしばった。必死にくしゃみを我慢しようとした。


「ううううっ……」


 長老は、うなった。うなった。うなり続けた。


「どうでしょうか? 私には、確実に思えたんですがねぇ。まもなくですよね。長老は、いまこの羊飼いのこと心を同期シンクロさせて、深い眠りについた羊飼いの頭の中に生じるとても緩やかな波紋を感じ取ろうとしているのですよね。そして、その波紋に導かれて、子羊たちが天の世界から地上へと送り込まれて行く。その出来事をこの羊飼いの子から感じ取っているのですよね」


 長老は、彼女の声が聞こえないかのように、羊飼いの顔のチェックに集中している。


 旦那も、一緒にのぞき込む。


「今日は、いつもと違っているはずです。そうですよね」


「ハーーハーーハクショーーーン!」


 長老は、大きなくしゃみをした。


「……」


 詳しくに調べ上げた長老は、ため息をついた。


「なんとも言えんなぁ」


「そんなこと、でも、このままじゃ。村は、とんでもないことになってしまう……。村の人たちはこの問題でいらだっていますよ。あれを見てください」


 ベンチから離れたところで、絞首台が組み立てられつつあった。


 村の人間は、この何年か、この村に子羊が一匹も生まれなくなったことに苛立っていた。そして、怒りっぽくなっていた。その怒りが一人の詐欺師に向けられつつあった。


 子羊が生まれないという村人の悩みを利用して、一儲けしようとしたその詐欺師が逮捕された。彼は、村のホテルで名物の羊のミルクからとったチーズとワインで食事をしていたころを逮捕された。彼は、カバンいっぱいの怪しげな薬を持っていた。彼は、それを羊のえさに混ぜると次から次へと子羊が生まれるといってその薬を売り歩いていた。しかし、その薬の効果はまったく現れなかった。にもかかわらず、今年も、彼が同じ薬を売ろうとして村に現れたので、元来、お人よしの村人もついに切れてしまった。


 この詐欺師の男には、ここで最後の弁明の機会が与えられることになっていた。村人がその弁明に納得いかなかった場合には、今組み立てられつつある絞首台が活用されるだろう。


 長老は、羊飼いの立場も微妙なものであるということを感じ取っていた。


「羊飼いのせいというわけじゃないんだ。たぶんそうだと、私はそう思う」


 長老は、スルスルの鋭い視線を感じたので羊飼いのために弁解した。


「たぶん、俺たちみんなが、なんて呪われているんだろう。しかし、こうなったら、呪われている原因をはっきりとさせるべきだろう。俺の言っている意味がわかるか」


 スルスルは、ふてくされ長老に噛み付いた。



 丘の上からは、たくさんの人が自分たちのところへ集まってくるのが見えた。村の人間たち皆が集まってくるように見えた。


 皆は、最後の答えを知りたがっていた。それも今すぐ知る必要があった。それが、やってくる目的のひとつであった。


「くそったれ、一年に一度! それも一週間しかチャンスはないんだ。この一週間の間に、羊飼いがきちんと夢を見て、そして、それをきっかけに羊たちが身ごもることが出来るのだ。しかし、この五年間というもの、つまり、この羊飼いが子羊をこの世界にいざなう役割についてからというもの、一匹の子羊もこの村には生まれていない。何もかも、この村に起こる不幸は、みんなこいつ、つまり、この羊飼いのせいだと言い出しているんだがな」


「そうだ。このままこの羊飼いが、今年も羊をいざなえないなどということが起こるならば、それはとんでもないことだ」


 男たちは、長老にまともな答えを要求した。


 もちろん、詐欺師が弁明に失敗して、絞首台につるされるのを見に来た連中も少なからずいた。



 スルスルの妻のコトコトは、長老を促した。


「今年は、子羊はきちんと生まれるよね。羊飼いの夢の中にその兆候は現れているよね」


「はっきりとはいえないが、ある気配が、羊飼いの頭の中から感じ取れてはいるのだが、それが、子羊たちが生まれ出てくる予兆かどうかははっきりとはいえない。それは、正直なところだ」


「でも、希望はあるのでしょう」


「……」


「今年は、子羊は生まれてくるよね。長老! そうだよね」


「……。わしも、そうであってほしいと思うのだが、でも、そうはならないかもしれないな。しかし、あいつが現れたところを見ると、今年も、子羊は期待できないかもしれないな」



 長老は、遠くからこちらの丘を目指してかけてくる山巨人の姿を見つけていたのだ。



 山巨人は、この何年間かこの時期になると山を降りてきた。山を降りて、村に文句を言いに来るのだ。


『この空がゴロゴロなってうるさくてしょうがない。どうにかしてくれ!』


 山巨人は、村人に文句を言った。山巨人に言わせると、このゴロゴロは、生まれ出るために天から地上に向かおうとしている子羊たちが、道をふさがれて山頂のさらに上の天上でじたばたしているために、聞こえてくる騒音だという。


 そして、『この空のゴロゴロを押さえて、俺が毎日安心して眠れるようにするか、オレの斧で役立たずの長老の首をワビとして差し出すか、どちらかに今すぐ決めろよ!』などという無理難題をいいだすのだ。


 そういうということだから、山巨人が現れたということは、今年も子羊が生まれることはないということを意味していた。


 それで、長老の気持ちは羊飼いの立場と自分のことを思うと暗くなったのだ。



 *      *



「村長はいないか? 村長はどこだ? 俺は、村長と約束してあるんだ。」


 山巨人は、丘の上から四方に向かって怒鳴り散らしていた。


 山巨人は、こんかいは生まれてこれない子羊が空の雲の上あたりで暴れて困るという苦情ではなかったようだ。


 山巨人は、村長に何かの用件があって、この丘の上で待ち合わせしているようだった。


 山巨人は、すごい剣幕で怒っている様子なので、村長が今姿を現すのは危険ではないかと、その場にいた村民や長老は思った。


 しかし、村長はまもなく山巨人の前に姿を現した。というか、村長はしばらく前に到着していた。そして、村長は、丘の食堂でコーヒーを飲みながら、山巨人と対面する際にどのように対応すべきか。じっくりと考えをめぐらしていたのだ。


 村長は、食堂を出てくる際に、山巨人に対して自分が言うべきことと、そして、山巨人にたいして決して言ってはならないことを頭の中で整理した。そして、言うまでもなく村長は、決して忘れてはならない問題を村人と共有していた。


 村長は、やまんばを満面の笑みを持って迎えた。



「山巨人さん、お久しぶりで! まったくあなたの大活躍のニュースは私たちの村役場でも大いに話題になっていますよ。本当に立派な働くぶりに私たちも、紹介者として鼻が高いですよ。ところで、今日は、どのような御用でしょうか。あなたのためには、村役場一丸となりまして、力になりたいと思います。ご要望がありましたら、何なりとおっしゃってくださいね。エーエーえっ!! なんですって、報酬がまだ届いてはいないですって? そんな! 考えられませんね。いえいえ、私たちにはあなたをだまして、あなたから正当な報酬を得る権利を奪い取ろうだなんてそんな考えはまったくありません。そして、あなたが契約しているライネルリッチ商会さんというのは、本当に誠実で信頼の置ける会社であります。それが何よりの証拠には、ライネルリッチ商会の社長さんは、この町のために今日音楽会を開いてくださることになっているんです。もちろん、もちろん、ライネルリッチ商会の社長さんはあなた方と是非に会って日ごろの感謝を伝えたいとおっしゃっているのですが、急に本社から連絡が入りまして、泣く泣く今朝、この村を出られてしまったという次第であります。あなたには、くれぐれもよろしくとの伝言を賜っております。え? え? もちろん、問題はありません。今すぐにでも、あなた方、山巨人様のお役に立ちますように、貯蔵庫から十分の食料を発送することにいたします。もちろん、食料が重複して届きましたとしても、一方を返送するとかのお気遣いはまったくいりません。日ごろの熱心なお仕事へのボーナスとして両方ともお受け取りください。よろしくお願いいたします」



 山巨人は、村長の話を聞くとにんまりと笑った。


 まずひとつには、報酬の交渉に来たのだが、なんと、二倍の報酬を受け取れるだろうという点が非常に気に入った。そして、ライネルリッチ商会での自分たちの評判がよさそうだというのがまた喜ばしかった。


 もともと、山巨人たちとライネルリッチ商会の関係はよかった。ライネルリッチ商会は、世界に名だたる大企業であった。山巨人たちも、ライネルリッチ商会には一目置いていたし、その会社と仕事していることに誇りを持っていた。


 *      *


 しかし、実際には、山巨人とライネルリッチ商会の契約はごまかしだらけの内容であった。ときおり、契約の内容の問題点に気づき山巨人たちは、鉱山で働いていたときに、不穏な動きが見せていた。


「あんな、戦車の百両や二百両、鋼鉄の金棒をヒト振りで、吹き飛ばして見せますよ。あいつらのことなど、なにを恐れることがありましょうか」


 そうふうにライネルリッチ商会の社員に山巨人たちがすごんで見せる場面が見られたのだが、すぐに丸め込まれていた。山巨人たちは、力持ちではあるが、お人よしなのである。



 しかし、今度の問題は深刻であった。村長は、それを知っていた。そして、とても不安な気持ちになっていた。ライネルリッチ商会から山巨人たちに届けられるはずの報酬は、いちど、村の貯蔵庫に保管されていた。


 それが、貯蔵庫の食物やらワインやらが理由もなくなくなっているのであった。そして、ついには山巨人たちに払うべき報酬が払えなくなってしまったのだ。


 村長は、報酬の問題に関してライネルリッチ商会などと話し合ってみたが、いろんなところに責任を転嫁して問題解決のめどさえたたぬまに、山巨人たちの不信が募って行ったのだ。



 しかし、ほんのちょっとの時間ではあるが、村長は、時間を稼ぐことに成功した。


 山巨人は、納得して鉱山のある山へ帰ろうとしている。


 村長は、彼をほっとして見送っていた。


『山巨人が、社長に会わなかったのは幸いだったな。山巨人のようなやつらに、スーツを汚されることがとてもたまらなく嫌っていたからな。それよりもなによりも、いろんな意味で俺の嘘がばれてしまっては、俺のみの破滅だから……。これでひとまず山巨人の問題が片付いたわけだ。あとは、羊飼いを間違って選んでしまった責任を、村の連中は俺にかぶせようとしている。これをなんとか、逃れる方法を考えなきゃ』


 村長は、そうつぶやくと、再び、食堂に戻っていった。




 ちょうどそのとき、山巨人と入れ替わりに、ライネルリッチ商会の社長の車が丘に近づきつつあった。


 社長は、村のホテルにもどってきた。村のすべての人たちが、自分のところの音楽界へは来ないで、羊飼いのいる丘に続々と集まることだろう情報を社長の元に届けられたからである。『うちの会社が主催する音楽会はどうなるのだ』彼は、切れてしまった。つまりは、大いに憤慨したのだ。


 そして、社長は急遽村のホテルにもどることにした。ホテルの部屋のテーブルの上には、号外の新聞が届けられていた。


 社長は、号外の新聞を見てまた、納得した。そこには、自分がこの町で企画している本日の音楽会の記事はなく、詐欺師の裁判と絞首刑の予想と、羊飼いの選考疑惑への村長のかかわりについての記事がすべてであった。


 社長は、新聞社へ電話した。新聞社にはそのとき、折り悪く、ライネルリッチ商会について批判的な記事を連載している記者がいるだけであった。


「『このような土地は、音楽会と言うより、酒宴の席がよく似合う』そういって、音楽会の企画に賛成したのは、あなたの新聞社ではないのか。それにしては、まったく粗末なあつかいしかしてくれないのだな」


 社長は、記者を厳しく問い詰めた。


「音楽会とかやってられませんね。生まれそこなった子羊が、天空で暴れいるせいで、こんなにひどい、雷鳴と地響きが村を覆っています。これでは、全く音楽家たちの演奏する音楽が聞こえてきませんからね。それもこれも、あの羊飼いの責任です。うちの社に当たるのはまったくの筋違いではないでしょうか?」


 社長は、記者に返事せずに、ガシャンと電話を切った。


『食事も酒も、みんな俺が苦労して集めてきたものだ。これだけの会場の準備をするために俺は大勢の人間をやとったのだ。そして、彼らに大金の賃金を払って音楽会やら、パーティやら、催しを開くことができたのだ』


 社長は、ふたたび、号外の新聞を読みなおした。そして、社長は、この記事に書いてある丘がこの近くであることを理解した。社長は、新聞にでている羊飼いの少年のところへ行ってみようと考えた。


「まだ、日が暮れるまでには、時間があるからな」


 社長は、車で羊飼いがいる草原にやってきた。羊飼いの居場所を尋ねると、人だかりがしている丘がその場所であると教えてくれた。そこには、社長が思ったよりもずっと多くの人間がいた。おそらくは、村だけでは、これだけ多くの人間は集まらないはずだ。


「これは、何か金儲けの予感すらするぞ」


 社長は、つぶやいた。


 社長は、丘の上にやってきた。そこには、多くの見物客に囲まれて、羊飼いが眠っていた。


『我々が、このように苦しい目に遭っているというのに、この小僧は、居眠りなんかしておって、いったいこいつはなにを考えているのだ』と、社長は思った。そしたら、今までこらえていた怒りが社長の胸の中から噴出した。


 社長は、一気にまくし立てたのだった。



 羊飼いは、社長の言葉は全く聞こえていないかのように、何の反応も示さなかった。ただ、じーっと座っているだけであった。


 社長の大声に、貯蔵庫の管理人たちが走って集まってきた。


 彼らは、自分たちの横領が、発覚したと思ったからである。


 管理人たちは、社長に謝った。そして、本当の問題点は、羊飼いの少年にあり、やつこそが倉庫のチーズをごっそりと盗み食いしている犯人だと告げた。


「どうやったら、こんなにごっそりチーズを食えるのだ……?」と、社長が驚くほど、大量の食料を羊飼いは貯蔵庫から盗み食いしていたのだ。


「しかし、貯蔵庫にはしっかりした鍵がかかっていたと心得ていたのだが……」


 多くのヒトは、同じような疑念というか、理解できない点があった。それだけの横領のすべてが羊飼いの少年の責任であるとはなかなか考えずらかった。ところが、そのような人々さえも納得させてしまう証人が現れたのだった。


 証人は意外なところから現れた。それは、羊飼いの耳の穴の中から現れた。彼は、羊飼いの耳の穴の中で暮らしている妖精で、コビートという名前だった。


 コビートは、羊飼いが貯蔵庫から食料などを盗み出すのを目撃していたのだ。


 コビートの証言を確認するために、管理人たちが貯蔵庫に行って、そして、社長に報告するために戻ってきた。


「搾り立てのミルクまでごっそり持って行かれました」


 貯蔵所の在庫を調査した管理人が残念そうにつぶやいた。


 管理人は、社長の耳につぶやいた。


「これは、小人こびと が、羊飼いをそそのかしてやらせた犯行にちがいありません。羊飼いは、ある意味濡れ衣を着せられているのです。羊飼いが眠りに入っていたのは、小人こびとが羊飼いの耳の穴に、小人の歌姫、コルビーニャを連れ込んでいたせいであります。コルビーニャは今度の音楽会のために彼氏のコビートが留守の間もずーっと子守唄の練習を続けていたせいで、羊飼いが間違った眠りに入ってしまったんです。そして、子羊の出産を台無しにしてしまったというわけです」


 すると、羊飼いの少年の耳から、コビートが姿を現した。


「私は、おまえたちが呼ぶような小人ではない。コビートという名前の妖精だ。もちろん、人間よりは数段優れているがな……」


 コビートは、つづけた。


「おまえたち人間どもは、所詮、劣等感の固まりのような存在である」


「おまえたちは、自分より優れた存在を見つけてしまうと、すぐに軽蔑した態度をそれに向けるくせがある。まあ、尊敬という言葉の意味は、君たちには一生理解できないようにできている。君たちは哀れな存在である」


「俺たち妖精は、君たちより優れている証拠に、私は君たちの歴史について、君たちよりもずーっと詳しく、深い知識を持っている。もちろん、そのような知識に基づいて、君たちの未来を正確に予想することもできるのだ」


 ちょうどそこまで、コビート氏が、話したところで村人のついくしゃみをしてしまった。そのくしゃみは、とても大きな音を立てたので、皆、びっくりししてしまった。そして、そのことで、村人たちは、コビート氏の話に注意が向かなくなった。


「君たちは、本当に集中力というものが足りないなぁ!私が大切な話をしているというのに、君たちは、くしゃみぐらいで、集中力を切らしている。私が話していたことを忘れてしまっている。君たちは、所詮それだけの生き物でしかないのだ」


 一人の村民が、にがりきった表情をして見せた。


「先生! 小人のコビート先生。私は、今一目見たときから、あなたがとんでもない存在であることを理解しました。それ以来、わたしはあんたのことを尊敬の目で見ていました。あんたが話を始めると、どんな新しい知識をこのコビート氏から得られるのだろうと、わくわくしていました。つまりは、私たちみんなが、あんたの言うようなくずではないのです。くしゃみの後でも、わたしのように、コビート氏がさっきの話の続きを聞かしてくれるのをまっている人間はたしかにいるのです。ただ……」


「ただ?」


 コビート氏は、この男の『ただ』という言い方がひっかかった。


「いえ、ただですね。私たちは、あなたのお仲間について、いろいろと伝説でよくない話を伝え聞いているということなのです」


 そこへ、誰かがおならをした。


「だれだ。おならをしたのは、私たちの仲間の間でおならをすると言うことがどういうことを意味するのか、その伝説とやらは伝えておらないのか。これは、我々とつきあう上では、非常に大切な情報だと思うが……」


 コビート氏は大いに憤慨した。


 こまったことに、コビート氏自身もつられて、最後におならをしてしまった。コビート氏はさすがに人間より優れていると自負するだけあって、おならも上品であった。しかし、同じチーズのにおいがした。


 その上品なおならの中に、隠しようもないチーズ臭が漂ってきたのである。


「こりゃ、おらんちのチーズの臭いだが……だれが、どろぼうだか、これではっきりしたぞ!」


 一人の村民が言った。


 おならは、どんどんと連鎖していった。そして、丘いったいが、同じチーズの匂いに包まれた。



 *      *


 そして、数日のときが過ぎた。


 横領の罪で、牢屋に入れられた羊飼いは、静かに眠ることができた。羊飼いの夢の中に、これから生まれ出てくる子羊たちが現れた。羊飼いは、羊たちを一匹、一匹数え始めた。


羊が一匹!


羊が二匹!


羊が三匹!


……


……


 すると、羊飼いはますます深い眠りに落ちていくのでした。


 了


2ちゃんねる創作発表板「『小説家になろう』で企画競作するスレでも、皆さんのお越しをお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ