第六話
桜は、俺が俺が校門前でチェックをしていることを知っていた。
覚えていてくれた。
俺は、風紀委員の仕事で登校する生徒のチェックをしている。
俺は、違反者には容赦はないため、生徒は勿論、先生も。
ほとんどの人に怯えられていて、近寄る物好きは、数人しかいなかった。
だが、そんな俺に桜は挨拶をしてくれた。
初めて会ったのは高校の入学式。
うちはエスカレーター式のため、中等部にまで噂が広がっていた俺は、新入生にまで怯えられていた。
まざ、ほとんどが中等部の時から知っているから、噂だけではないのだが…。
とにかく、俺に近寄る新入生は一人もいなかった。
いや、いないはずだった。
~回想~
「おはようございますっ!」
「……は?」
俺は自分の耳を疑った。
今、俺の目の前にいる少女は…俺に、挨拶をしたのか…?
俺が混乱していると、俺と一緒に当番をしている奴(こいつも怯えられている)が笑った。
「僕たちなんかに挨拶をする珍しい子がいると思ったら…。何だ、桜ちゃんか」
「あ、火闇先輩だったんですね。全然気がつきませんでした。おはようございます」
彼女は俺の隣にいる火闇翔に笑いかける。
翔は、彼女の言葉を聞くと、苦笑いをした。
「桜ちゃん、それさりげなく傷つくんだけど…」
「え…?あ、ごめんなさい」
彼女が謝ると、翔は彼女の頭に手を置いた。
「大丈夫だよ。それより、早く行かないと遅刻しちゃうよ?」
翔がそう言うと、彼女は自分の腕時計を見た。
「わっ!もうこんな時間!そ、それじゃあっ!」
彼女は慌てて走り去って行った。
俺その後を、見えなくなるまで見詰めていた。
その様子に気づいた翔が、俺に話しかけてきた。
「気になるの?祐一君。…あの子は真の妹だよ。真に、耳にタコができるくらい聞かされてるでしょ?」
彼女が…真の妹?
花村桜?
「そうか…」
だが、挨拶をしてくれるのも今日だけだろう。
明日からは、彼女も…。
俺はあの時、そう思っていた。
だが、それは違った。
桜は、次の日も…その次の日も…そのまた次の日も…。
毎日
「おはようございます」
笑顔で挨拶をしてくれた。
俺はいつしか、桜を目で追うようになっていた。
そのせいか、桜の笑顔が少しおかしいことに気づいた。
桜はよく笑う。
だがその笑顔は、いつ見ても悲しそうだった。
今の桜は、心からの笑顔は、誰にも見せていない。
真はいつか言っていた。
桜の親友が交通事故に遭って…、まだ目を覚ましていない…と。
桜はそれを、自分のせいだと思っている…と。
桜は毎日、その親友の入院している病院に見舞いに通っていて、それを欠かしたことがない…と。
それを話していた時の真は、すごく悲しそうな顔をしていた。
きっと、桜のことが心配なのだろう。
俺も…理由はわからないが、桜がとても心配だ。
放っておけない。
守ってやりたくなる。
この気持ちは…一体…?