第四話
「あの…送るって…」
家に送るってこと…?
あれ…そう言えば、仙崎先輩って…何度か見てる…。
あ…思い出した。
「あの…仙崎先輩って、風紀委員ですよね?毎朝校門でチェックをしてますよね。大丈夫ですよ。私、ちゃんと家に帰りますから」
私はそう言って笑顔を見せると、家に向かおうとする。
でも、仙崎先輩は私の腕を離さない。
「俺が送ると言ったのは、そんなことのためではない」
じゃぁ…何で?
訊こうとしたけれど、それよりも先に仙崎先輩が答えた。
「桜、そんな熱で一人で帰れると思うのか?足取りも…少しだが覚束無い。俺にはとても、一人で家に帰れる状態には見えないがな」
「っ!!?」
何で…何でこの人はわかったの?
そんなに少しだけのヒントで…。
「何でそんなに少しのヒントでわかったんですか?」
私はそう訊ねたけれど、返答はなかった。
ただ
「行くぞ」
その言葉だけを発した。
「あ、はい」
私は返事を返すと、仙崎先輩の隣で歩き始めた。
―――――ピンポーン
私は自分の家のインターホンを鳴らした。
すると、恐ろしいほどの音が聞こえてきた。
―――――ガタンッ ゴトゴトゴトンッ ガッシャーンッ
『!!?』
私たちが驚いていると、勢い良く扉が開いた。
「桜っ!!」
「お、おにぃ(ガバッ)きゃっ」
扉を開けてすぐにお兄ちゃんが出てきたと思ったら、私に抱きついた。
私を離すと、ものすごい顔をして私に訊ねる。
「桜、大丈夫か?どこか怪我をしてないか?何ともないか?」
「え、あの…お兄ちゃん…」
私が返答に困っていると、仙崎先輩が私の代わりに答えてくれた。
「桜は、外傷はない。だが、触れてわかるように、熱がある。休ませてやれ、真」
すると、お兄ちゃんは仙崎先輩の方を向いた。
「祐一!!お前、やっぱり俺の妹を探し出してくれたんだな!」
お兄ちゃんは嬉しそうに笑った。
でも、仙崎先輩は小さく溜め息をついた。
「俺は帰り道にたまたま見かけただけだ。探した訳ではない」
嘘だ。
だって、あの病院は周りに家なんかない。
あるのは、お店とかビルとかばかり。
仙崎先輩…お兄ちゃんに頼まれたから来てくれたんだ。
でも、お兄ちゃんは笑顔のまま。
「そうか、でも俺の妹を家まで連れてきてくれたのに変わりはないさ。ありがとな」
お兄ちゃんがニッコリ笑うと、仙崎先輩も微笑んで「ああ」と言ってくれた。
「でも…」
お兄ちゃんはそう言うと、再びものすごい顔になる。
「何で、桜って呼んでるんだ」
どうでもいいでしょ!
誰が「桜」って呼んだって!
私はお兄ちゃんに突っ込みを入れたくなったけど、やめておいた。
と言うよりも、私が言うよりも先に仙崎先輩が答えた。
「桜が…、桜と呼んでくれと言ったからだ」
顔色一つ変えずに。
「桜が?」
お兄ちゃんはそう言って、私の方を向いた。
私は迷わずに頷いた。
するとお兄ちゃんは「ふぅ…」と溜め息をつくと、仙崎先輩に向き直る。
「桜がそう言ったなら仕方ない。ただ、桜は天使だからな。覚えておいてくれ」
お兄ちゃんはそう言って、親指を立てる。
って、いやいやいや…天使じゃないよ!
私天使なんかじゃないから!
「ああ、わかっている」
先輩!
何でそこで頷くの?
天使じゃないのに!
寧ろ…悪魔だよ…。
私は俯いた。
そんな私に気づいたのか、仙崎先輩は口を開いた。
「俺はそろそろ帰る。桜を早く休ませてやれ」
「おう!ありがとな」
「ありがとうございました」
「ああ」
先輩はそう言って、夜の闇に姿を消した。
先輩…約束、守ってくれてありがとうございました。