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4話 「…慣れって怖い」

フレイアル殿下にお城へ招かれてから一週間が過ぎた。私は何も起こらない、平和な日常が帰ってくるのだと思っていたのだけれど、現実はそうも簡単に行くはずなく…平和な日常はまだ、帰ってこないようだった。


「エルー。もう朝だよー」


私はその声で朝をむかえた。あの一件からアイサの機嫌は見るからによくなり、いつも通りの優しいアイサに戻っていた。


「おはよーアイサ」

「おはよーエルー。もうすぐできるよ」


私はその言葉に頷いて、いつもの、自分の席に座る。アイサは私のと同い年だけど、お姉ちゃんみたいに面倒見がいい。でも、そんな彼女にはダメな一面もあるわけで…


「おはようエルシアちゃん。今日も可愛いね」


私は目の前で優雅にコーヒーを飲むシタリス様を見て、失礼ながら溜息をついてしまう。アイサのダメな一面はこういうところだ。私を心配してくれるのはいいのだが、少し、やりすぎるところがある。


「おはようございますシタリス様。相変わらず、このような場所にフラフラ来るほどお暇なんですね」

「エルー!ダメでしょ」


ダメでしょって…私が嫌味を言う原因は全てあなたにあるのよアイサ。何でアイサは私の家に勝手に人を上げるのよ…私は今度は遠慮なく溜息をついた。シタリス様は一週間前、私がフレイアル殿下に招かれ、一日経った朝、私が起きるとアイサと楽しそうに話していた。私ははじめはビックリしていたもののシタリス様が家に来るたびに驚いていたので一週間たった今ではまたか、という反応になってしまっている。


「…慣れって怖い」


私は誰に聞かせるわけでもなく、そっと呟いた。それでも聞こえていたのか、シタリス様はニコリと笑った。アイサはいつも通りの反応で、ニコニコしながら上機嫌で朝ごはんを作ってゆく。それがシタリス様の分まで当たり前のように用意されているのを見て、私は三度目の溜息をついた。


「溜息付いたら、幸せ逃げちゃうよ?」

「もう逃げているので大丈夫です」


私はシタリス様が言ったのに即答し、目の前の人物にこの一週間、疑問に思っていたことを問うた。


「何故、シタリス様は私の様な庶民の家に毎日毎日、来てくださるのですか?本来ならば、私の様な者がシタリス様ともあろうお方にお聞きするなど、あってはならない事です。しかし、それでは私としても納得できないのでございます。よろしければ、教えていただかないでしょうか?」

「え?兄上のためだけど?」


私はキョトンとして答えるを見て驚くと同時に最悪な気分におちいった。兄上の為。つまりフレイアル殿下の為という事は私を妃候補に入れているという事だろう。私は頭を抱えそうになる。シタリス様は本気で言っているらしく、いつもの嘘くさい笑顔が消えている。…目の端で喜びを体に表し、ガッツポーズしているアイサを見て私は顔を歪める。


「だってさー、兄上って仕事ばかりで女性と関わろうとしなかったわけ。エルシアちゃんの手紙に返信書いたのもネファリーだしさ」

「ネファリー様?もしかしてネファリス様の愛称でございますか?」


横からその言葉に反応したアイサが言った。ネファリス様?…ゴメンナサイ。何言ってるのか全くわかりません。最近になってようやく王子様達の名前を覚えた私にそんなそんな訳の分からない名前で呼ばれても困るわ。


「訳の分からない名前じゃなくてネファリス様はこの国の宰相様よ」

「宰相様?」


私は何故、アイサが私の心の中の言葉が分かったのかは棚上げにし、一番に(正確には二番)疑問に思った事を口に出す。するとアイサは興奮したような、キラキラした目をして話し始めた。


「そう!ネファリス・ロード様。ネファリス様はフレイアル様と幼友達で、その容姿はフレイアル様と並ぶと言われているわ!しかも!フレイアル様とは真逆、シタリス様と似た甘ーい雰囲気を常にかもし出しているお方!!それでいて、とてもお優しい方だと噂になっているのよ!ただ、既に婚約者がいると言う噂があるから、皆、鑑賞用として遠くから見ているわ。分かった?」


私は頷く。力説ご苦労様です。宰相様はシタリス様と同じく、裏側にとても厄介な性格をお持ちだと。私にはそんな噂は信じられないので一応、そう頭の隅に記憶しておいた。


「…取り敢えず、宰相様には注意ね」

「何か言った?」

「いいえ?それより、よくそんなに知ってるわね。アイサ」


私はぼそっと言った言葉を聞かれていないことがわかると、話を逸した。と言っても、元々気になっていた興味のある話題に変えた、というだけなんだけど。


「普通はこれくらい知ってるものよ。エルーが知らなすぎるのよ」

「そうなの?」

「そうよ。聞いてくださいませシタリス様!この前までこの子、貴方様や、王女様、フレイアル様の事を殆ど知らなかったのですわ!!」

「えーエルシアちゃん酷いー僕のこと知らないなんてー」


子供がすねたような真似をするシタリス様を私はちらっと見て、準備できた朝ごはんを食べ始める。二人はそんな私を見て、もう反応しないと思ったのか自分達も朝ごはんを食べ始めた。


―――――――


私は今、お城に来ている。何でかって?お手伝い(アルバイト)よ。私はお金が有り余ってるわけじゃないのでこうしてたまーに何かお手伝いをさせてもらうの。いつもは侍女さんのお手伝いをしてるのだけれど、今回は少し違うらしい。なんでも、王女様のお世話をして欲しいとかなんとか。これも侍女さんたちの仕事なんだけど…私は少し嫌な予感をしつつ、前を歩くシタリス様についていく。王女様は現在、8歳。しかし、8歳にしては完璧な立ち振る舞いをするとか。そして王女様もとてもお綺麗で素晴らしいお方だそうで。そう考えているうちに、シタリス様があるひとつの扉の前で止まったので私もその数歩後ろに立ち止まる。私は今、侍女さんが着るような服を着ている。侍女さんにこの服を渡された時、少しだけ目に哀れみが見えたのを私は見逃さなかった。


「エルシアちゃん。冷静にね」


シタリス様はそう言って扉をノックし、少しの間を開けて扉を開いた。声は微かに聞こえたのでそれが合図のようね。私は侍女さんに教えてもらったお辞儀をして部屋に入った。うん。なんだか、侍女さんが私を哀れみの目で見たの、わかった気がするわ。シタリス様が扉を開いた瞬間、小さな女の子がシタリス様を待ち構えていたように立っていた。


「シタリス様。無理だと思います」


私は前にいるシタリス様に向かって小さい声で呟く。私の直感では、とても私には抱える事の出来ない人だと思っているの。雰囲気がそう語っているもの。


「そこをなんとか!エルシアちゃんだったら大丈夫だよ!」


同じように小さく呟くシタリス様に私は小さくした声で主張します。


「私にはあのお方の世話をして冷静でいられる自信がございません。よってこのお仕事は辞退「ダメだよ!サリーがエルシアちゃんを見ちゃったもん。もう、辞退できないよ」…」


シタリス様は必死に私を王女様の世話に付かせようとしている。私は小さく、誰にも聞こえないように溜息をつくと、シタリス様を見て頷いた。シタリス様はホッとしながら放置していた王女様に向き直り言った。


「サリー、新しく君の世話をする侍女を連れてきたよ」

「お兄様は侍女さんと仲がよろしいのですか?」


幼い声でそう問うてきた王女様にシタリス様は笑顔を見せるだけ。


「お兄様。その者と二人で話をしたいのですが」

「ああ、僕は外すよ。部屋の外にいるから終わったら呼んでね」


シタリス様はそう言って部屋の外に出ていった。私は王女様に向き、自分の自己紹介をした。


「お初にお目にかかります、エルシア・サマーニと申します。本日からあなた様の身の回りの世話をするよう、言われております。よろしくお願いします」

「ええ、よろしく。それよりあなた、お兄様とはどういう関係なのかしら」


私は思った。この方はブラコンなのね。私はそんな事を冷静に判断しながら言った。


「私とシタリス様の間には何の関係もございません。王子と一国民にすぎませんが」

「一国民なら何故、お兄様とお言葉を交わしているのかしら?」


私はその言葉に、冷静に(・・・)言葉を返す。


「王子が国民と言葉を交わして何がいけないのでしょうか?あなた様も私と言葉を交わしているでしょう」

「私はお兄様、と言ったはずよ。私と言葉を交わしている事はどうでもいいわ。けど、何故庶民のあなたが、王族であるお兄様とあんなに親しそうに言葉を交わしたのかしら?」


私はその言葉にピクリと反応した。どこにかというと、親しそうに言葉を交わした、というところよ。親しそうに?王族と親しそうに話すわけないじゃないの!


「あなた様には私とシタリス様が親しそうに言葉を交わしたように見えたのですか?」

「ええ。違うのかしら?」

「はい。それは誤解でございます」

「でもお兄様は侍女に笑顔など見せない人よ?」


私は先程のシタリス様を思い出す。確かに私に向かって笑顔で説得しているわ。それかしら?けれど、あれはいつものことよ?もしかして、シタリス様は王女様の目が届くところでは侍女さん達には笑顔ではないのかしら。…シタリス様、余計なことをしてくださいますわね。


「それはあなた様が知らないだけでございます。シタリス様は普段、とても素敵な笑顔(・・・・・)で皆に接しております」

「そうなのかしら?」

「私に聞くより、ご本人様にお聞きした方がいいのではないでしょうか。呼んでまいりましょうか?」

「そうね。お兄様を呼んできてちょうだい」

「かしこまりました」


私がそう言って扉の方に振り向くと王女様は私を呼び止めた。私が王女様の方を向くと王女様は言った。


「あなた様ではなく、サリーと呼びなさい」

「かしこまりました、サリー様」


とにかく、面倒な事はシタリス様に押し付けることにしました。

話が長くなったので一旦、区切ります。


エルシア、面倒なこと(サリー様)をシタリス様に押し付けましたww

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