11話 「あ…えっと…」
今回、だいぶ短いです。
すみませんm(__)m
それはあまりにも突然で私に限らず、会場全体の空気が止まった。
パーティー会場に再び陽気な空気が戻ってきて、様々な貴族達がダンスを楽しみ、お喋りを楽しみ、誰もの気分が良くなっていたとき、私は不意に城の外が騒がしい事に気づいた。しかしそれは、窓側の私でも耳を澄まさないと分からないほど小さい音だった。会場内の誰もがそれに気付いていない。私は胸に引っかかりながらもそれを確認しようなどとは思わなかった。やがて、会場内に大きな爆発音が響く。それは内部からなものではなく外部からのもの。その音に会場の誰もがざわめいた。
「…エルー」
隣でアイサが不安な声を出す。私は大丈夫と言い、アイサ微笑んで見せた。少し強ばっていたかもしれない。気づかぬふりをしてくれたのか、本当に気づいていないのかわからないけどアイサはホッとしたような顔をして微笑み返す。
そんな時、会場内に何かを蹴破ったような、大きな音が響き渡った。ざわめきはその音でなくなる。誰もが音の原点を見る。ここからはよく見えない。端から端の距離では見えるはずもない。誰かの怒声だけが聞こえてくる。それも、はっきりとは聞こえず、声だけが聞こえる。一人はフレイアル殿下。もう一人は聞き覚えのない声だった。聞き覚えの声だったはずだ。
ではなぜ、私は懐かしいと感じている?なぜ、嬉しくてたまらない?なぜ、そんな感情が湧き出てくる?気がつくと私は、一歩踏み出していた。
「エルー?」
それを不審に思ったアイサが話しかけてくる。けど、今の私にはそれに答える余裕もなくて、私は小走りに走り出していた。何事かと振り向く貴族達、そんな私を必死に追いかけてくるアイサ。私はただ必死に声の元へと走っていく。私が少し息を上げ、その場にたどり着いた時、私の中には表現できない感情が湧き上がった。
「エルシア!?」
「エルシアちゃん!?」
フレイアル殿下が驚いている声も、シタリス様が驚いている声も、皆が言っている事も、周りの雑音も全て、今の私には聞こえていなかった。この8年間ただただ会いたいと願っていた人が、今私の目の前にいる。その人物は私を見ると、あの頃のようにふっと優しく微笑んだ。
「約束通り探したしたぞエルシア」
その言葉を聞いた瞬間、私の目からぽろっと涙がこぼれた。いつからこの涙が出なくなったのだろうか。私は溢れるその涙を、子供のように拭いながら言う。この8年間、待ち望んでいた人に。
「遅い、です、兄様…」
兄様は困ったように微笑んで頬を掻く。それが兄様の癖で、困った時には出てしまう。それを見て、また涙が溢れる。この8年間、どんなに待っても現れず、もうこの世には居ないものだと思い込んでいた兄様が今、私の目の前にいる。それがどんなに嬉しいことか。
「エルシア」
「は、い」
「立てるか?」
その言葉にこくりと頷き、私は兄様の手を借り立ち上がる。そしてそこでハッと気づく。なんで私は気づいてしまったのだろうか。このまま何も気づかない方がいいに決まっている。なぜ気づいてしまうのか。私はそんな事を頭に巡らせ、考えていると前方から幼さが抜けない声が聞こえた。
「エルー。その人はだぁれ?」
顔を上げると不思議そうな顔をしているサリー様が首を傾げていて、皆の言葉を代表して言ったようだった。少なくとも本人にはその自覚がないはずだが。
「あ…えっと…」
言ってものいいものなのか。私がそう思い、兄様に視線を向けると兄様は微笑んだ。私はパっと笑顔になり、サリー様に向けて言った。
「この方は、私の兄でございます!」
「お兄さん?エルーの?」
「はい!髪の色が同じでしょう?これが家族の印なのです」
私はニコニコ笑いながら言う。サリー様は私と兄様を交互に見てホッと息を吐いた。私は不思議に思ったがそれよりも先に兄様に問いたい事があった。
「兄様、表の騒ぎは兄様の仕業ですね?」
「…何故分かった」
「私を誰だと思っているのですか!兄様の妹ですよ?いくら長年一緒でなかったと言えど、兄様は兄様です。変わっていないでしょう?」
「…安心した」
何を安心したのか。兄様はそれ以上語らなかったかけど、私にはわかる。いくら兄妹といえど、長年一緒でなかったら相手の事は多少わからなくなる。私が私のままでいたことに兄様は安心したのだろう。
「兄様。表で何をなさったかお話願いますか?」
「…はい」
兄様はそう言って私の前に正座する。私はその前に立ち、腕を組む。兄様は今頃になって悪く思っているのか、話ずらそうに私に話す。
「この街にエルシアがいると聞き、俺は一番手っ取り早い城に来ようと思った。城の中に入ろうとすると一人の騎士に止められ、無意識に殴ってしまい、不味いと思った時には既に遅く…騎士達に囲まれ、面倒になったからちょっと魔法ぶっぱなったら追い掛け回され、ここに来るまで足止めにトラップを仕掛けてきた」
「…全面的に兄様が悪いです」
私は呆れた顔で言う。どう考えても兄様が悪い。私は兄様を立ち上がらせ、固まっているフレイアル殿下に向き直る。私がフレイアル殿下を見るとフレイアル殿下はやっと気づいた。
「フレイアル殿下、この度は兄が暴走し、余計な心配事をさせてしまい申し訳ありませんでした」
私は深々とお辞儀をする。兄様も悪いと思っているのか私と同じような体勢を取った。私はフレイアル殿下の声が掛かるまで頭を下げ続けた。
「か、顔を上げてくれ。まず状況を整理したいのだがその方はエルシアの兄で間違いないのか?」
「間違いございません」
「そ、そうか…取り敢えず、パーティは中止だ。色々後処理をしなければ」
私はその時、心底フレイアル殿下に心の中で謝まった。