10話 「…………出ます」
今回おちなし、中途半端で長いです。
夜。他国の王族を歓迎する、盛大なパーティーが開かれた。それはもう、私にとって地獄のパーティーでしかない。そして私は油断していた。侍女として、パーティーに参加するのだと。なのに…
「どうして私が!」
「エルシアちゃんもリストに入ってるんだってば」
「リストから消せばいいじゃないですか!」
「無理なんだって」
「大丈夫です!私がネファリス様に言ってきます!!」
何故か私はリストに入っていて、侍女ではなく、国民として参加させられることになった。今回のパーティーを管理しているのはネファリス様なのでネファリス様に掛け合えば!!
「ネファリーが楽しそうにリストに入れてたんだけど?」
もうやだ。
「…意地でも出ません」
「そう言われても…」
そう言って苦笑するシタリス様は、何かを思いついたように言った。
「アイサちゃんも来るよ?」
「アイサと私は別です」
「美味しい食事もいっぱい出るよ?」
「…………出ます」
結局、食べ物に負けた。…いや、城に出る食べ物はやっぱり美味しいのよ。私が言うとシタリス様はニコッと笑い、部屋を出ていった。私が今いるのはサリー様の部屋。今サリー様は、お着替え中である。暫くしてシタリス様が真っ赤なドレスを持って来た。そして満面の笑みで私に言った。
「こんなドレスでどう?」
「拒否します」
「どうして!?」
物凄い驚いた顔をしているシタリス様。え?何?私の返事に何か問題でも?
「私は派手な色が嫌いです」
「じゃあピンクとか?」
「…シタリス様の派手の基準はどうなっているのですか?普通、若草色とか、黄緑とかでしょう」
私が言うとシタリス様は不思議そうな顔をした。…ものすごく頭にくるんですけど。そりゃ、シタリス様からすれば地味で、眼中になかったかもしれないけど、私にとったら一番落ち着く色なのよ。私が顔をしかめるとシタリス様は苦笑して言った。
「せめて青とか…」
「…水色なら」
私がそう言うとシタリス様は楽しそうに部屋を出ていく。それとすれ違いに、サリー様がそれはそれは可愛らしい格好で走ってきた。
「エルー!どうかしら!」
そう言ってくるりと一回転するサリー様。サリー様はピンクのフリフリのドレスを来て、髪に綺麗な髪飾りをつけている。私はニコリと笑っていった。
「よくお似合いですよ」
「本当?よかった。エルーもパーティーに出るんでしょ?」
「…はい。出ますよ」
「じゃあ、サフィア様と踊れるわね!」
サリー様は何を期待なさっているのか、ワクワクしている。まぁ踊れるよ。絶対に令嬢様達に睨まれるでしょうけどね。その後、何故かこちらもワクワクしながらドレスを持ってきたシタリス様に、何故かワクワクしている侍女さん達に私は飾られた。そして数分後。
「まぁ!よくお似合いですわ!!」
「見違えましたわねぇ」
「はぁ…」
何故か褒められた私は何を思ったかというと…全体的に重いわ!何か、ネックレスやら、髪飾りやら、ブレスレットやら…元々つけていたものを合わせると凄い重い。この場で数個外したいんだけど侍女さん達が怖いので、また後でにする。侍女さん達は何を思ったのか、香水を持ち出してきた。
「え?」
「これもつけないと」
「そうよね」
「いや、あの、香水は止めてください」
それから少し、私と侍女さんの攻防戦が続く。が、最終的には付けられた。もう嫌だ。私の体の周りに匂いが充満している。その匂いが爽やかな匂いだった事が唯一の救いね。どうしてパーティー前に疲れたのかしら。意味がわからないわ。私がサリー様の部屋を開けようとすると、中がやけに騒がしい。不思議に思って扉を開けるとそこには国王様と王妃様がいた。…もう何でもありだわ。
「おぉエルシアか。入れ入れ」
「エルーちゃんじゃない!あらー可愛くなったものねぇ」
「国王様に王妃様…」
今私の前にいる国王様と王妃様が世間に衝撃を与えたお方。それは凄い身分差婚で、ラブラブっぷりが半端ないのだとか。まぁ今も手を繋いでらっしゃるのだけど、せめて子供の前では控えて欲しいと思うのは私だけかしら。
「…お父様とお母様はなかがよくてこまります」
国王様と王妃様を見てそういうサリー様は苦笑していた。8歳にここまで言われてそれでもイチャイチャする親って…私は苦笑してから言った。
「国王様に王妃様。そろそろパーティーが始まるのではないですか?」
「あら?もうそんな時間かしら」
「もうそんな時間か?」
「…もうそんな時間ですよお母様、お父様」
子供に呆れられながら注意される親ってどうなのだろうか…
――――――――――
「はぁ…」
「溜息つちゃダメよ。エルー」
私が溜息をつくと隣で声を潜めてアイサにそう言われる。私だって溜息なんてついちゃいけないって分かってるのよ。ええ。分かっているわ。けどね。
「この状態で溜息をつくなというの?」
「…無理ね」
何故か先程から令嬢達に嫌味をグチグチ言われていたら溜息もつきたくなるでしょう!苦笑するアイサはさっきから令嬢達を見てビクビクしている。前に言ったと思うのだけど、アイサは令嬢達が苦手なのよ。私だって苦手。けど、部類が違うの。私は面倒だから関わりたくないだけ。アイサはこういう嫌味を言われるから怖い。という風に、私は怖くはない。アイサは怖い。さっきからアイサの顔が引き攣っている。
「あら、庶民の小娘が頑張ったわねぇ」
「そうね。目立ちもしないのを頑張って着飾ったものだわ」
おほほと口元に手を当て上品かもわからないように笑う令嬢達に私はうんざりといった感じで答える。
「すみません。他国の国王様が来ていると知り、気合が入りすぎてしまいましたわ。そちらは私達に言うだけあって綺麗なお姿をしておりますわね。元々の顔がわからないくらいですわ」
にこっと笑って私は言う。すると令嬢達の顔が笑顔で引き攣った。アイサは慌てた様子で私を見ている。何を言っているかというと、厚化粧ですわねと言っている。そして香水くさい。鼻が痛いくらいに。
「あ、あなた何を言っているのかしら?」
「私は褒めただけですが?どう聞こえたのでしょうか?」
「…い、いいわ。ご機嫌よう」
そう言って去る令嬢達に心の中で思う。弱いなーと。令嬢達は迫力はあるものの、何故か私の返しに簡単に負けるので面白くない。退屈だ。
「流石エルーだわ。また丸め込んだのね」
「弱すぎる。全然楽しくないわ」
「それにしても、どうしてこんなに沢山の令嬢様達が私達に話しかけてくるのかしら」
そう、それなのよね。この前のパーティーでは話しかけてすらこなかった。なのにどうして、今日に限ってこんなにも嫌味を言われるのかしら。そしてその会話の全部に着飾って、という単語が入っている。そりゃ今回はシタリス様から貸していただいた城のドレスだから質がいいし、色もきれい。でもそれだけでしょう?どうして…私が先程までの令嬢達の嫌味を思い返していると一つ引っ掛かった。
「…アイサ。原因が分かったわ」
「え?うそ。何?」
「行けばわかるわ」
私はそう言って一歩踏み出す。アイサもその後に慌てた様子で続き、私達は歩き出す。会場の中央部へ。私達二人が中央部へたどり着くと、嫌味の原因達が雑談していた。
「あ!エルーじゃない!」
「エルシアちゃん!来てくれたんだね!」
「やぁエルシア。楽しんでいるかい?」
私達二人を笑顔でむかえるお三方。その他にもフレイアル殿下にネファリス様、後知らない人がその三人を保護者的な目で見ていた。いや、二人というべきだ。一人は私の後ろに熱い視線を送り、その送られた方も熱い視線を返している。
「…アイサちょっと」
私はアイサに振り向いて小声で話す。
「あなたの恋人って城で働いてるってどうして言わなかったの」
「え?あ、だっていう必要ないかなって」
「…いや、あるでしょう」
私はそう言って溜息をついた。どうやらアイサの恋人は城で働いてる人だそうだ。…あぁ鬱陶しい。その熱い視線が。そのやり取りほかの場所でやってくれないかしら。
「…エルー。思ってることがおもいっきり顔に出てるんだけど」
「じゃあちょっとは自重しなさい」
「…はい」
熱い視線はなくなったものの、じっとお互いを見つめ合っているアイサ達。…それって自重しているってなるのかしら。私は小さく溜息をつき、知らない人に向かって挨拶をする。
「初めまして。アイサの友人のエルシア・サマーニと申します。以後お見知りおきを」
「初めまして。フレイアル殿下の護衛と共に騎士団長を勤めているフィリイ・ジャーヴァスでアイサの恋人。よろしく」
「…恋人と発言する時に赤面するの止めてください。アイサも」
私がぼそっと言うと二人は固まって顔を真っ赤にし、俯いた。その動作が面白くて、私は声を殺して笑った。正直、アイサの恋人が騎士団長だったとは驚いたけど、アイサにお似合いの人だったので安心した。
「それよりエルー!どうして私の所に一番に来てくれないの?」
「そうだよ!僕達待ってたんだからね!」
「エルシアの事だから来ようなんて思ってなかったんでしょ?」
「…だからってこんなややこしい事しないでください」
ややこしい事。それは、このお三方が私の特徴やら、何かを言ってそれで令嬢達に嫌味を言わせ、どうしてだろうと私が疑い、そして私が何とかしてココにたどり着くという事だ。…本当にややこしいやり方で呼んでくれたわ。おかげで訳の分からない嫌味を言われてアイサが怖がったじゃない。
私はネファリス様の前に立つと挨拶をする。今日の目的というか、今の目的は令嬢達に言われた嫌味のストレスをこの方にぶつける事だから。元々この方がいけないのよ。
「お久しぶりですわね。ネファリス様。今回はパーティーにお招きいただき《・・・・・・・》ありがとうございます」
私はニコっと笑う。
「いえいえ。エルシアさんにはいつもお世話になっていますから。お気に召して頂けましたか?」
同じくニコッと笑って私に言うネファリス様。私はそれに笑顔で答えた。
「ええとても。お食事は大変美味しいですし、元気のいいご令嬢様達もお話していただきましたから。私が気に食わないのは、どうしてあなたの手にそれ《・・》があるのでしょう?」
私はそう言ってニコっと笑うのを更に深くする。ネファリス様の体がびくっと震え、手に握っているものにより一層力を込める。
「もう一度聞きます。どうしてあなたの手にそれ《・・》があるのでしょう?」
「…あなたを世話した侍女から受け取りました。忘れ物、だと」
「そうですか。それはありがとうございます。では、返していただけますね?」
私がそう言うとネファリス様はこくりと頷き、右手を前に出してきた。私は右手の下に両手をだし、それを受け取る。次に開いた時にはいつも身につけているハズの物があった。私は自分がそれをどんな表情で見ていたかは知らない。私が顔を上げると、皆が固まっていた。
「…あの?」
「え?あ、あぁ。何かな?」
「どうかしましたか?何か失礼なことをしましたでしょうか?」
「別に、なんでもないよ?うん、なんでもない」
ネファリス様はそう言ってニコッと微笑む。私は不思議に思いながらも、そこまで気にしてはいなかったのでネファリス様に挨拶をしてその場を去った。と言っても、用がなくなったので先程居た位置に戻るだけ。
「エルー」
「ん?何?アイサはいいの?あそこにいなくて」
「うん。それよりそれって…大切な人に貰ったものなの?」
私がロケットペンダントを首につけると、アイサが遠慮がちに聞いてきた。私は微笑んで頷く。
「そうなんだ…」
アイサはそれ以上黙って何も聞いてこなかった。
続くと思います!!