9話 「申し訳ありません。記憶にございません」
今回のエルシア、機嫌悪いです。
どうして、私の周りには面倒事が降り注いでのくるのかしら。嫌がらせですか?神様。今日は朝早く城に出た私。そんな私は意味がわからない光景を目にした。
「どうして皆様、正装ではないのですか」
王族は基本、他国の王族や行事などがある場合は正装を着るのが常識。なのにこの方たちといえば、普段と同じ格好をしている。しかもフレイアル殿下まで。
「今日は正装でなくていいのよ。他国の国王様がそうおっしゃったとお父様が言ったもの」
「…そうでございますか」
私は腑に落ちないような顔を隠して笑顔で言った。他国の国王はそれほど変わり者なのだろうか。
「他国の国王様は何か探し物をなさってるようですわ。私もお手伝いできないかしら」
「どうでしょう。お手伝いできたらいいですね」
サリー様はそう言うと昨日と同じようにはしゃいでいる。私は皆様にお茶を出したりして侍女の仕事をやっていた。そして他国の国王が来るという知らせの鐘が鳴り、私達は急いで城の門の前に集まった。私はサリー様の部屋付きなので、サリー様の後ろに控える。そして鐘が三回鳴った。他国の国王が来たのだろう。私達、侍女は全員体を折り曲げる。王族のサリー様は他国の国王が来たら正式な礼をする。侍女達は他国の王族がすぎるまで顔を上げてはいけない。それが決まりだ。
「お会いできて光栄です。サリーナ・ジェーンと申します」
「こちらこそ会えて嬉しいよ。小さなお姫様」
会話が交わされる中、私は少し顔を歪めた。小さなお姫様って。暫くしてまた三回の鐘が鳴る。他国の国王が城にはいられた。そういう知らせだ。私は顔を上げて、小さく悲鳴を上げた。誰だってあげるわ!行ったと思った人が間近に居たら!!他国の国王は私を見ていった。
「エルシアかな?」
私は驚いた。というか、知らない人間が、いきなり自分の名前を呼んだらびっくりするに決まってる。私は驚きを表に出さずに言った。
「そうですが」
私が言うと目の前の人間はにこりと笑った。違う。この人は国王じゃない。改めて周りを確認すると、違う場所にこちらを見ている中年男性を発見した。じゃあ、この人は?
「僕はサフィア・バージル。覚えてない?」
サフィア・バージル…?私は記憶を探り、出た結論は。
「申し訳ありません。記憶にございません」
いや正直あった。それらしき名前の人に昔あったことある気がした。が、今、そんな事を言ったらまた面倒なことに巻き込まれるに違いない。じゃあ隠していよう。そういう結論にたどり着いた。まぁ会った事ある気がしただけで、本当に会ったかは覚えてないんだけど。
「そうなの?…残念。それじゃあサリーナちゃん、エルシア、また会おう」
そう言ってその人は城の中に消えた。サリー様は驚いて声が出ないらしく、私の顔を凝視していた。それは他の皆も同じで、唯一、ネファリス様だけは興味深そうな顔をしていた。
――――――――――――
「エルシアちゃん。さっきの人知り合い?」
「知り合いじゃありません。何回言ったら分かっていただけるんですか」
私は少し怒り気味で言った。この会話、さっきから何回目。しかも相手がその度に違う。ネファリス様から始まり、フレイアル殿下、サリー様、侍女さん達、侍女頭、女官頭、騎士、国王様、王妃様、そしてシタリス様。というか、国王様と王妃様が来た時は正直焦った。嫌という感情が表に出てないかとか、なんで来るんだとか。で、最後のシタリス様は困った顔で聞いてくるからまた頭に来て。冷静でよかった。
「一国の王子が話しかけたからビックリして…」
「私も驚きました」
安心したように言った言葉に私は言った。私だって驚いた。そしてムカついた。サリー様はさっきから落ち着きがない。フレイアル殿下も。というか、皆ソワソワしている。それがまた、イライラするというかなんというか…
「え、エルー。そろそろ王子様はお話し終わったかしら」
「どうでしょうね」
サリー様があの方を相当気に入ったのか王子様と呼ぶようになった。王子様って…まぁそういう年頃なのかもしれないわね。
「サリー様、少し落ち着いてください」
「そ、そうね。落ち着きましょう」
そう言って深呼吸するサリー様。と、フレイアル殿下。フレイアル殿下には行ってませんけど。と、思ったらシタリス様も深呼吸をしていた。…もう勝手にやってください。私がそんなことを思っていると、部屋の中にノック音が響いた。その音でサリー様が少し固まった。私は扉の前へ行き、開ける。するとそこにはサフィア・バージル様が立ってた。
「や。お邪魔しても?」
「どうぞ」
私は脇に退いて、道を開けた。
「サリーナちゃん、フレイアル殿下、シタリス君。待ったかな?」
「いえ、大丈夫です。お座りください」
サリー様が言うとバージル様はニコリと微笑んで座った。その前にはサリー様、フレイアル殿下、シタリス様。そしてその後ろにネファリス様が立っていて、私はお茶をいれている。そのお茶を出して、扉の傍へ立つと、直立不動。指示があるまで動かない。
「この度はお越しいただきありがとうございます」
そう言ってフレイアル殿下が挨拶をすると、ほかの三人も頭を下げた。そんな四人を前ににバージル様は困ったような声を出した。
「頭上げて。僕、そんなに改まるの好きじゃないんだ。だから敬語もなしでお願いしたいんだけど」
「…そちらがいいのなら」
「うん。じゃあそうして。僕の事はサフィアでいいよ」
その瞬間、サリー様の顔が輝いた。
「サフィア様はエルーと知り合いなんですか!?」
「え」
え、ちょ、何で私が出てくるのよ。私が戸惑ってるとバージル様は言った。
「うん。エルシアは覚えてないみたいだけど。子供の頃から知ってるよ」
「子供の頃のエルー!!どんな感じですの?」
「そうだねぇ。可愛かったよ。なにをやるのも素直で」
「お二人とも」
「なぁに?」
「他人の事を喋らず、ご自身の事をお話なさってください」
私はそう言った。あまり、自分の事を人にばらされるのは良く思わない。良く思う人なんているのかどうかもわからない。そんな雰囲気を感じ取ったのか、お二人ともその話題ではなく自分たちの話題に切り替えた。
うん。
やっぱエルシアは面倒ごとに巻き込まれますね(;^ω^)
締りのない終わり方になりましたが…
次回、頑張ります