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妻探偵シリーズ

サレ公爵夫人、村ぐるみで浮気夫を片付ける

作者: 地野千塩
掲載日:2026/05/11

「ねえ、フィリス。アサリオン村で蒼い鳥を見つけたら幸せになれるのかしら? で、夫が私を溺愛する展開ってあると思う?」

「そんな話あるわけないじゃないですか」


 メイドのフィリス、冷静にツッコミを入れ、紅茶を注いでいた。


「そうよねぇ。蒼い鳥伝説なんて迷信よね」


 フローラ・アガターはため息をつき、紅茶をすする。


 フローラは公爵夫人だ。といっても悪役顔のせいで、毒妻とか悪妻と不名誉な二つ名もついていた。その上、夫は浮気の常習犯だった。サレ公爵夫人と酷いあだ名もついていたわけだが、執念で夫の愛人を調べまくっていたら、なぜか殺人事件も解決し、一応夫とも関係修復し、今にいたる。


 そうは言ってもお互い恋愛感情も持てず、子供ができる兆候は全くない。フローラはもうすぐ三十歳だったが、そのあたりは将来養子を入れようかとも考えていた。


 最近は周辺国の孤児院などを周り、子供と面談するようになっていたが、その帰り、汽車のトラブルで足止めにあい、結局アサリオン村という田舎に拘束されていた。


 メイドのフィリスがいるのは救いだが、田舎のホテルは退屈。そんな時、村の蒼い鳥伝説を知り、興味深々だった。


「でも奥さん、一応外に蒼い鳥を探しにいきません? このあたり、森が多くて空気はいいですし」

「そうねぇ。まあ、伝説なんて本気で信じちゃいないけど、行ってみますか」


 村を散策することに。一応観光地らしく、蒼い鳥伝説で集客もしているらしい。お土産も売っていたし、散策コースや看板もある。蒼い鳥を見つけたら幸せになれるらしいが、現在まで誰も見つけていないという。


「へぇ、バードカフェとかもあるのね。隣のバーはなぜか閉まってるけど」

「意外と村の中心部は栄えてますね、奥さん」

「ええ」


 元々田舎出身のフィリス。アサリオン村でも躊躇なく歩き回り、バードカフェにも入ってみようという。


「可愛いカフェじゃない? いいわ、行きましょう」


 バンガロー風の外観のカフェだったが、中も木の温もりを感じるカフェだ。椅子やテーブルも切り株風で可愛らしい。大きな窓からは森の野鳥も観察できるらしい。看板鳥もいた。色は地味な小鳥だったが、ピッピと騒がしい。


 そんなカフェなのに、カウンター席はお葬式みたいに暗い。


 カウンター内のカフェ店長らしき女性、客の相談に乗っているようだった。フローラやフィリスが入店しても全く気づいていないぐらいだ。客の悩みを熱心に聞いていた。


「そうなんです、コレット店長。夫がどうやら浮気しているみたいで。でも証拠は何も出てこない。その上、逆ギレしてきて、絶対に養育費も出さないし離婚には応じないって言ってきて……」


 だんだんと涙声になっていく客。


 それに夫の浮気って?


 フローラは聞き捨てならない。フローラも夫の不貞には苦しめられた。それに愛人調査もお手お物。何か協力できるかもしれない。フィリスと顔を見合わせると、客に話しかけた。


「え? まさかフローラ夫人ですか! サレ妻界隈では有名ですよ。確か殺人事件も解決したんですよね?」


 客に自己紹介しただけだが、なぜか名前が知れ渡っていた。店長のコレットも同様だった。これなら話が早い。


 客の名前はダニエラという。村のホテルで清掃の仕事をしていたが、それも夫の指示で辞めさせられたという。年齢は四十すぎぐらいか。フローラとは年齢差があったが、それだけで仲間意識を持ってしまう。


「ダニエラ、浮気夫の証拠を探すのよ! 泣き寝入りはやめましょう!」


 涙目のダニエラをはげます。


「そうですよ、ダニエラさん。不倫は心の殺人です。浮気夫は殺人犯みたいなもんですよ。負けないで!」


 フィリスもはげます。


「そうよ。浮気夫の証拠なんて私らのゴシップ網があればすぐ見つかるって!」


 店長のコレットもはげます。


 といってもコレット店長は楽しんでいるように笑っていたが。この中で一番年上の六十代だったが、目は子供のよう。


「まずは浮気夫を尾行しましょ。本当に浮気しているのか調べるわ!」


 フローラも楽しくなってきた。どんと胸をはり、調査を始めることに。


 まずは浮気夫が勤めている村役場に張り込んだ。ここでは慎重にフィリスと二人だけで調査開始。コレットは残念がっていたが、カフェ店長という立場を利用し、村の噂の収集を依頼。


「あ、奥さん、見てください。ターゲットの浮気夫が動きましたよ」

「まあ、本当? では尾行開始ね」


 フィリスとともに浮気夫の後をつける。ターゲットは尾行されているとは気づいていないらしく、一度も振り返ることなく、人気のない公園に到着すると、女とイチャイチャし始めた。


「奥さん、あれ、マジもんですよ」

「そうね。浮気しているのは確実ね。でも証拠はどうする?」


 そんな話をしていたからだろうか、あっけなく浮気夫にバレてしまった。


「な、何みてるんだ!」


 逆ギレして詰めてくる浮気夫。案外愛人はおとなしかったが、これはどうしたものかと思った時。


「マジ? あの男、浮気していたの?」


 そこの金髪の中年女性があらわれた。蒼い鳥を探していたのか、首には双眼鏡もかけ、興味深々に浮気夫を見ている。


「うそ、あの男、浮気夫なの? やば、王都のアンナ嬢にも教えようかしら?」


 他にも令嬢が現れた。彼女も首に双眼鏡をかけ、ニヤニヤと笑っている。


「面白い。追わない?」


 そんな提案もしてきるから、フローラも頷き、浮気夫と愛人を追いかけた。


 村中を走っている。コレットやダニエラとも合流。他にも村の主婦、老人、子供も野次馬でついてきた。


「何を追ってるの?」

「楽しそう! うちらも追うよ!」


 気づくとフローラ一行、三十人ぐらいの集団になっていた。陽は暮れかけていたのに、一行の走るスピードが全く遅くならない。むしろどんどんスピードを上げ、浮気夫と愛人を追い詰めていく。


「な、なんだよ! なんだよ、この悪役顔の女たちは!」

「この夫人聞いたことある! サレ公爵夫人っていう有名人よ! なんでも愛人調査スキルで殺人事件を解決したっていう女で」

「やば! なんでそんな変な女がこの村に来ているんだよ! くそ!」


 浮気夫も愛人もそう吠えながら逃げていくが、変な女と言われ、フローラも笑えない。むしろ、自分の夫と重なってみえてきた。さらにスピードをあげて追い詰めた。


「つ、捕まえたわ!」


 気づくと、村の中心部の広場まで来ていたが、集団で浮気夫と愛人を囲い、もう二人は袋のネズミだった。


「見てたわ。ここにいる全員が浮気の現場を目撃している。十分な証拠よね?」

「うっさい! サレ公爵夫人が何をぬかすんだ!」


 浮気夫はギャーギャー喚いていたが、その後の離婚裁判では村人達が浮気の証人となった。それでも浮気夫は不貞を否認し、裁判官の心象は最悪だ。晴れてダニエラの離婚も決まり、子供の養育費や慰謝料も勝ち取ったという。


 その上、アサリオン村のゴシップ網はさらに強化さて、別の浮気夫もすぐに噂になった。浮気夫にとっては非常にやりにくい環境になったという。


「ということで、あなた。あなたも今度浮気をしようものなら、地域ぐるみで片付けようと思う。どう?」

「フローラは相当変な女だ。さすが俺の妻」


 この一件、なぜかフローラの夫・ブラッドリーは大笑い。


「は?」

「俺は作家だし、この話を膨らませてミステリーにしてもいいよな」

「あなた何を言っているのよ?」

「よし、仕事するぜ。今日から原稿書くためにカンヅメだ。村ぐるみで浮気夫を懲らしめるコージーミステリー、いいじゃん?」

「な、何を言ってるの?」


 こんな結果に困惑しかないフローラだったが、ブラッドリーの仕事も多忙になり、今のところ、浮気する暇も無いらしい。


「まあ、奥さん。蒼い鳥は見つからなかったけれど、浮気しないだけで御の字ですよ」

「フィリス、本当にそうかしら? ってあれ? あの鳥は何?」


 窓の外に蒼い鳥が見えた気がしたが、すぐに見えなくなった。勘違いだったのかもしれない。


「そうね。蒼い鳥はいないみたい。でもまあ、いいか?」


 そんなフローラだったが、またアサリオン村に行こうと思う。コレットのゴシップ網によると、新たな浮気夫がいるらしいし、村ぐるみで片付けに行くのも楽しそうだ。



 

ご覧いただきありがとうございます。フローラ主役の「毒妻探偵」の後日談ですが、今作だけでも独立している読み切りです。


英米コージーミステリの村騒動シーンが大好きな作者。本作はそんな雰囲気を目指しました。

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