十重人格サバイバル?
山も谷もない、男女の友情? ほのぼのです。
「漫才のネタを考えてんのや」
春人は突拍子もないことを口走るタイプだ。
「なにそのエセ関西弁」
「しかたないだろ、俺は関西人じゃない」
「いや、知ってるし。てか漫才師志望だっけ?」
晶子は幼馴染。ふたりは高校生だ。家が近所で、同い年。ほぼ親戚のようなつきあいだ。
芝生に座る春人に声をかけたのも、顔だけでモテて告白され、つきあってすぐ「思ってたのと違う」とふられるルーティーンをこなしたばかりだと知っていたからだ。約一ヶ月ぶり、n回め。
「そやった、晶子はんは知ってはったな」
「エセ関西弁やめてもろて? なんや伝染する」
「今のは俺の中の関西人……実は俺、多重人格だったみたいなんだ。しかも、十重」
はぁ? と晶子は思った。
「ジュウジュウてなに、焼肉の鉄板か」
「ええツッコミや。僕の相方になってくれへん?」
「エセ関西弁やめぇ、いうとるやろ!」
やはり伝染する。
「俺の中の関西人が強くてな、今……」
「それは『くっ、封印された左腕が!』的な?」
「封印できねぇんだなぁ、これが!」
変えた声色を元に戻して、解説が入る。
「今のは俺の中の江戸っ子」
「……江戸っ子って三代住んでないと資格ないらしいよ? 春人は条件満たしてない……。よし、その人格には消えてもらお? 十人もいたら鬱陶しいし、どんどん消そ? 関西人もアウトね」
「そんな殺生な! 堪忍してや」
「だからそれやめい。はい次」
晶子は、次々と春人の人格を削ぎ落とした。ラッパー、アメリカ人、宇宙人、武士、アイドル、非実在妹、アインシュタイン――声色の使い分けは評価したいが、発言内容はまるで駄目だ。語彙がオーマイガッのみのアメリカ人はもちろん、E=MC二乗を知らないアインシュタインがいるか!
必然的に勝ち残った本来の春人は、しょんぼりしている。
「人はストレスフルな場面に置かれたとき、心を守るために別人格を作ることで、多重人格になるんだよ……」
「ショックだったの、今回の失恋?」
「…………うん」
「今回の子は好みだった、ってか」
「……告られる前から、チョットいいなって思ってたんだ」
「なんか奢ろうか」
「うん」
「返事早ぇー」
哀れなので、晶子は少しお高いアイスを奢るつもりだったが、コンビニに向かう途上エセ関西人が復活して鬱陶しかったので、安いのにした。




