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炎の赤が障子に滲み、

遠くで上がる叫びと金属のぶつかり合う音が

夜気を震わせていた。


春道は刀の柄を強く握りしめ、

迷いのない眼差しで家族を見渡す。


「母上……皆を連れて急ぎ外へ。この城は、守りに固い。が、

……中に敵がいるならば、すぐにでも落ちてしまうでしょう。」


桔梗は春花を抱きかかえたまま、

息を呑むように春道を見つめた。


「……春道、貴方は……?」


春道は静かに、しかし毅然と首を振った。


「行きません。

 志木原の嫡男として、城と父上を置いて逃げるわけには参りませぬ。」


その横で、まだ少年らしい面影を残す春政も

震える膝を必死に押しとどめながら前へ出た。


「兄上だけを残して行けません!わ、私も戦います……!

 志木原の男子として……!」


「春政……!」


千春の声が震える。

春政はそれに気づいても、決して視線を揺らさなかった。


春道は弟の肩に手を置き、短く、しかし深く頷いた。


「春政……よく言った。だが無理はするな。

 逃げ道を開く、それが我らの役目だ。」


春政は唇を噛み、強く頷いた。


桔梗は三人を見比べ、千春の肩を抱き寄せ、

胸元で眠りの余韻を残す春花をさらに強く抱きしめる。


「……どうして、どうしてこんな……!」


春道は優しい眼差しを母達に戻した。


「母上、大丈夫です。炎さえ消せば、すぐまた城も元に戻ります。」


春政も続く。


「母上、姉上……任せてください。

 春花……宴の約束はもう少し保留にさせてくれ。」


千春の眼に涙が溢れ、必死に首を振る。


「いや……いやです……!皆で逃げましょう……!

 ()()()も、()も……!」


春道はそっと千春の頭に手を添えた。

幼い頃から変わらない、穏やかな動作で。


「……なに、皆の避難が終われば私達もすぐにそちらに向かうさ。

それまで母上と春花はお前が守るんだ。千春、頼めるな?」


桔梗の肩が震えた。

だがその震えは恐怖ではなく――覚悟だった。


桔梗は涙を拭い、顔を上げた。


「……わかりました、行きましょう。

 あなた達の選んだ道を……母として信じます。」


春花は状況がわからず、

ただ桔梗の胸に顔を埋めている。


千春も涙を堪えながら、深く深く頭を下げた。


「……兄上、春政。必ず……必ず戻ってきてください。」


春道と春政は、互いに見つめ合い、そして静かに頷き合った。


「千春、頼んだぞ。」


「母上……どうかご無事で。」


桔梗はふたりの息子の顔を、

忘れぬようにひとりずつ見つめた。


そして――


どどん!!


激しい衝撃が城壁を揺らし、

部屋の障子が大きく震えた。


外ではもう、無数の炎が

夜を真昼のように照らしている。


春道が刀を抜いた。


「行くぞ、春政。」


「はいっ……兄上!」


ふたりの背中が、迷いなく炎の方へ向かう。


その後ろ姿には、

志木原を背負う者の、覚悟の影が伸びていた。


桔梗は千春の手を取り、

春花を抱きしめたまま出口へ駆け出した。

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