表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/59

異変

牟岐の城は、相変わらず整っていた。


石畳は磨かれ、

庭は刈り込まれ、

兵は規律正しく立っている。


「英雄の城」に、乱れはない。


それでも――


牟岐は、机に置かれた報告書から、しばらく目を離せずにいた。


「……もう一度、言え。」


低い声だった。


使者は、背筋を伸ばしたまま答える。


「志木原に、人が戻り始めております。

 社が再建され、季節の祭が行われているとのことです。」


「……志木原、だと?」


牟岐の指が、脇息を叩く。音は、思ったよりも軽かった。


「馬鹿な。あの地は……不毛の地に、なったはずだ。」


牟岐は、誰よりも志木原を知っている。

焼けた土地。水の巡らぬ畑。人の戻らぬ家々。

かつての美しかった志木原は、もう無くなった。


牟岐の問いに、使者は喉を鳴らす。


「祭のたびに、人が集まり……

 子供の声が戻り、畑が耕され始めたと。」


「作物は。」


「……少しずつですが、育っております。」


「俺が、何年かけても――戻らなかったものが?」


声が、わずかに掠れる。


「神子どもが、来ただけで?」


牟岐は、立ち上がった。


「……おかしい。」


誰に言うでもなく、呟く。


「俺が守っていた時は、祟りだ、呪いだと皆が言った。」


歩きながら、続ける。


()を討ち、秩序を敷き、土地を“静か”にした。」


その“静かさ”が、今になって、胸に刺さる。


「なのに――」


牟岐は、振り返った。


「俺が去り、神子が来た途端、人が戻り、草が生えた?」


使者は、恐る恐る言う。


「……“英雄様が祟りを鎮めたからこそ、

 今、季節が巡っている”と……そう言う者も、おりますが。」


牟岐は、笑わなかった。

むしろ、その言葉が、一番、腹の底を冷やした。


「……それでは、私は。」


ゆっくりと言う。


「“何も育たぬ地”を、育つ前に見捨てた男になる。」


牟岐は、拳をきつく握りしめる。


「……調べろ。」


静かな命令。


「志木原で、何が起きているのか。

 誰が集まり、誰が動き、誰が利益を得ているのか。」


そして、低く、付け足す。


「“英雄の時代”よりも、今のほうが豊かだなどと――

誰にも、言わせるな。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ