帰郷
寄進は、いつの間にか、当たり前のように集まるようになっていた。
最初は、薫から。次に、牟岐から。
それが噂を呼び、名もなき者たちが銭や米を携えて、社の門を叩く。
四季の神子は、寄進を断らなかった。
ただし、受け取るたびに必ず言った。
「この銭は、巡ります」
「この米は、留まりません」
東の社を拠点に、彼らは各地を巡った。
火で焼かれた村。水に沈んだ畑。
争いの跡が残る境。
すべてを救えるわけではない。
それでも、季の儀を行い、祈りの形を整え、
人が立ち上がる“きっかけ”を残していった。
そんな折だった。
志木原の名を名乗る者たちが、社を訪れた。
衣は古く、歩き疲れた様子だったが、
その目には、はっきりとした意志があった。
「……志木原の、神社の氏子でございます。」
年嵩の男が、深く頭を下げる。
「大火で、すべてを失いました。社も、家も、記録も……」
言葉が、少し震える。
「どうか。立て直すための力を、お貸しください。」
その後ろには、
同じように火に焼かれた、他の土地の者たちもいた。
春花は、一歩前に出る。
「願いは、等しく聞きます。」
その声は、いつもの神官口調だったが、
ほんのわずかに――揺れがあった。
冬彦が、空を仰ぐ。
「風は、まだ熱を含んでいます。
火は去りましたが、傷は残っている。」
夏輝が、地図を広げる。
「巡礼の順を組み替えよう。志木原は……帰り道にある。」
その言葉に、春花は一瞬だけ目を伏せた。
春花が志木原に足を踏み入れたのは、
城が焼け落ちてから、初めてだった。
黒く焦げた柱の跡。
石段に残る、すすの匂い。
だが――
人は、いた。
瓦礫を片付け、仮の屋根を張り、
小さな祠を守るように立っている。
春花は、その場で、深く息を吸った。
「……ここは。」
視線を上げる。
「私と、縁のある土地です。」
氏子たちが、息を呑み、
冬彦が、深く頭を下げる。
「この地を、四季の循環の要といたします。」
千秋は、焼け跡を見つめながら、ぽつりと言った。
「……やっと帰ってこれた、って感じだね。」
春花は、小さく微笑んだ。




