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深夜

城全体が静まり返り、

灯火はほとんどが消えていた。


だが――


志木原城の外、

森の奥で揺れる“別の灯り”に、

まだ誰も気づいていない。


低く、うなるように響く“鉄のきしみ”。

その奥で、誰かが押し殺した声を出す。


「……まだだ。

 合図があるまで――決して動くな。」




志木原城の屋根をかすめるように、

夜風が低く鳴った。


その風に混じる、

かすかな――だが確かな“焦げた臭い”。


まだ誰も言葉にできず、

眠りの淵でただ胸の奥がざわつくような、そんな違和感。


家族が寝静まる静かな部屋、

春道(はるみち)だけが、微かに眉をひそめていた。


(……今の、音は)


耳慣れぬ、鉄が土を踏みしめるような音。

遠いはずなのに、どうしてか胸に刺さるような金属の響き。


そっと片目を開けた、その時――


ふっ…… と、

部屋の障子越しに“赤い光”が一瞬、揺れた。


まるで誰かが外に火をともしたかのように。


(……灯火? この時間に?)


春道は寝具から静かに身を起こす。

動きはひどく慎重で、

隣で眠る母や妹、弟を起こさぬように。


障子に耳を寄せた瞬間。


ぼっ……


かすかに木が燃える音がした。


(まずい……)


だが、まだ確信は持てない。

志木原は木造が多く、夜の湿りで薪がはぜることもある。


しかし耳を澄ますと――


ザッ…… ザッ…… ザッ……


と、何十もの足音が土を踏みしめる気配。


それらすべてが、志木原城の内側へ

“ゆっくり、ゆっくり” 近づいてきている。


春道は喉の奥が冷え、皮膚が粟立つのを感じた。


(……敵だ)


その結論まで一瞬だった。


春道は昼間の宴で見た

牟岐(むき)宗清(むねきよ)の笑みを思い出す。


――あれは、ただの笑顔ではなかった。

底に潜む計りごと。

志木原の“何か”を測るような目。


これは……あの男が……?だがまさか……。


春道は振り返り、

眠る家族の姿を一つひとつ目に焼き付けた。


千春(ちはる)も、春政(はるまさ)も、春花(はるか)も、母、桔梗(ききょう)も。

皆、あまりにも安らかに眠っている。


(……守らねば)


春道は静かに刀に手を伸ばし、

鞘に触れた指先が震えるほどの緊張を押し殺しながら、

小声で母を呼んだ。


「……母上。」


かすかな声。

桔梗の睫毛が揺れ――ゆっくり目を開く。


「……春道? どうしたの……?」


囁くような声。

だがその響きに、すぐに気づいた。


――これは、ただ事ではない。


春道は障子の方を見つめたまま、低く告げた。


「……外に火の手。

 敵……恐らく、夜襲です。」


桔梗の瞳が一瞬で覚醒し、

子を抱き寄せる腕に力がこもる。


隣で千春がむくりと起き上がり、

春政も寝ぼけた目をこすって状況を理解しようとする。


春道の目線の先に赤い光を見つけ、春政の顔が青ざめた。


「……兄上、これは……!」


その瞬間。


どおん!!!


激しい破壊音が大地を揺らし、

部屋の障子が震えた。


遠くで上がる叫び声。


「敵襲――っ!!」


そして、城全体を赤く染める炎の光が

じわりと障子の隙間から流れ込む。


志木原の平穏な夜は、

確かに終わりを告げた。


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