早馬
風が、木々を揺らす。
夏の名残を含んだ、湿った空気。
牟岐の使者の姿が、社の石段の向こうに消え、
四人は息を吐き出した。
「……行きましたね。」
「ええ。」
冬彦の言葉に、春花は小さく頷く。
「四季の神子にしか、用事は無かったみたいだね。」
夏輝がホッとしたと胸を撫で下ろす。
「……でも、金も物資も、必要だよね。送ってくるかな?」
千秋が腕を組み、頭を捻る。
「必要です。それに送ってきます。だからこそ--」
春花は懐から、折り畳んだ紙を取り出す。
「この手紙を、薫へ。」
冬彦が目を細める。
「黄雀殿へ、ですか。」
「はい。
“最初の支援者”は、あの方にお願いしようと思います。」
千秋が、その紙をひょいと取った。
「それ、あたしが行く。」
三人が振り返る。
「道は知ってるし、馬にも乗れる。何より――」
にっと笑う。
「顔が売れてない。」
春花は一瞬迷い、それから、静かに頷いた。
「……ありがとう、千秋。」
次の日の明け方。
薫家の一角、黄雀の私室では、小さな寝息が聞こえていた。
届けられた文を開いた黄雀は、
読み進めるうちに、ゆっくりと目を閉じる。
「……やはり、か。」
机の上には、すでに帳簿が広げられていた。
米、布、銭。
名目を分け、経路を複数用意した資金計画。
傍らの者がそれを横目に尋ねる。
「既に、支援の準備を?」
「芽のうちに水をやらねば、綺麗には咲かないんだ。」
黄雀は衝立の裏を覗き、静かに微笑んだ。
黄雀からの資金が届き、社の修復が行われた。
以前より少し大きくなったそこを、
戦火によって家を失った子供の寄る辺とし、
人々の学びの舎にもした。
「祈りの場」であり、「居場所」でもある空間。
人々は大いに喜び、その度に善い行いをした。
ほどなくして――
牟岐からも、援助が届いた。
金。米。
名目は「英雄による庇護」。
噂は、すぐに広まった。
「四季の神子には、大名家の後ろ盾があるらしい」
「薫も、牟岐も、動いている」
牟岐の思惑とは裏腹に、
その支援は、神子たちの独立性を強めた。
やがて、東の社の周りだけでなく、
各地の小さな神社の氏子たちが集まり始める。
「我々も、志は同じです」
「季を守り、人を守りたい」
神子たちは、すべてを受け入れることはできなかった。
だが祈りの形、祭の手順、御札の意味を伝えた。
銭を分け、有事の際は支え合える仕組みを作った。
四季の神子は、誰のものでもない。
だが、誰にも無視できない存在になっていく。




