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使者

東の里は、まだ夏の匂いを残していた。


小さな社。苔むした石段。

人々の祈りが、ようやく根を張り始めた場所。


その前に、見慣れぬ一行が立った。


しばらくここを拠点とし、

周りの村々へ信仰を広めていた春花達は

その一行が持つ旗の家紋に見覚えがあると気がついた。


その旗を堂々とはためかせると、

使者は深く一礼し、口を開いた。


「――牟岐(むき)家当主、牟岐宗清(むねきよ)様の命により参上いたしました。」


四人の神子は、動揺を悟られぬよう無心を装い、

使者の前に並び立つ。


「御足労、感謝いたします。

 我らは四季を預かる者。用向きを、お聞かせください。」


春花(はるか)が一歩前に進み、声を震わせぬように言う。


使者は、周囲の視線を意識しつつ、声を落とした。


「近頃、“四季の神子”の名が広がっております。

 幼き御身を案じ、牟岐様が――」


一瞬、言葉を区切る。


「我が国でお守りしたい、と。」


空気が、張る。

千秋(ちあき)が、ほんの一瞬だけ春花を見た。


春花は、誰にも悟られぬよう息を吸い込むと、

深く一礼した。


「その御心――

 季節の理に叶うものと、確かに受け取りました。」


声は静かで、揺れがない。


「人を守ろうとする心は、いずれの神にも背きませぬ。」


一拍、間を置く。


「ただ――」


視線を上げ、真っ直ぐに告げる。


(わたくし)たちが、いずれか一つの地に留まれば、

 季節の声は、次第に遠のきましょう。」


「四季は一国のものではなく、水もまた、境を知りませぬ。」


その言葉に、周囲の空気が引き締まる。


「もし、我らが一国の庇護に入れば、

 人々は、こう思うでしょう。」


声を低く、しかし明瞭に。


「――『季節までもが、一国のものとなった』と。」


春花は、首を横に振る。


「それは、理に背きます。」


そして、穏やかに続けた。


「ですが。季節を守ろうとする御心は、

 形として、この世に残すことができます。」


「社を修め、水路を直し、祭を絶やさぬこと。」


「それらは、どこの国に属さずとも、

 確かに季節に従う行いにございます。」


最後に、静かに、しかし確かに告げる。


「私は、どこの国の者でもありません。」


「されど――」


わずかに微笑む。


「季節を粗末にせぬ国の名は、人の口に、長く残りましょう。」


深く一礼する。

それは柔らかな、だがしっかりとした拒絶であった。


使者は、それ以上踏み込めず、頭を下げた。


「……承りました。」


その背が、社を後にする。

残された四人は、しばし黙っていた。

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