連携
森の奥、焚き火のそばで四季の神子たちは小休止を取っていた。
夜の風が涼しく、虫の声が静かに響く。
「さて、明日の巡行に備え、口調の確認を致しましょう。」
春花が三人を見回して言う。
夏輝は、座ったまま小袖の袖口を整えながら、口を開く。
「……本日も、神の御加護がございますように。」
声を少し張りすぎて、火の明かりで顔が赤くなる。
「……よい。次は私です。」
千秋が地面に膝をつき、手を組む。
「天は、我らに道を示されます。今日も、正しき道を守らん。」
春花がにっこり笑う。
「……いいですね、秋の神子殿。」
冬彦は空を仰ぎ、風を感じながら言う。
「我らの歩みが、天の意志と人の願いとを繋ぐものでありますよう。」
春花は手を胸に当て、小さく息を吸う。
「……人々の願いを、真摯に受け止めます。」
千秋がくすくす笑いながら言う。
「少しは様になってきたね。でも、火の加減で顔真っ赤になってるよ、夏の神子殿。」
夏輝が小さく舌を出して笑う。
「……それも御加護のひとつ、ということで。」
冬彦が静かに微笑む。
「口調は形だけでなく、心も伴わねばなりません。人々はそれを見抜きます。」
千秋が火のそばに置いた小枝を、軽く揺らしながら言う。
「……じゃあ、今日の練習はここまで。明日からも頑張ろう!」
四人は夜風に当たりながら、火の温かさで冷えた身体を温める。
小袖で肩を寄せ合う姿は、昼間の堂々とした姿とはうってかわり、年相応に見える。
焚き火が静かに燃え、薪のはぜる音だけが残った。
そのとき、
闇の向こうで草を踏む音がする。
四人の空気がわずかに変わり、姿勢を正す。
冬彦が、そっと顔を上げた。
「……人の気配が、ひとつ。」
春花は頷き、焚き火の前に立つ。
「夜道は危険です。どなたか、迷われましたか。」
昼と同じ、堂々とした神子の声。
少し間があり、やがて影が火明かりの縁に現れる。
年配の男だった。
旅装というには質素で、しかし、腰の袋には小さな御幣が覗いている。
男は深く頭を下げた。
「……突然の無礼、お許しください。
私は、東の里の社に仕えるものです。」
夏輝が、自然に一歩横へ出る。
「東の里……水神を祀る社ですね。」
男は目を見開いた。
「……ご存じで。」
「噂は、風よりも早いものです。」
夏輝はそう告げ、表情を崩さない。
男は、膝をつき、焚き火越しに四人を見上げた。
「噂で聞きました。
四季を名乗る、若き神子たちが巡っていると。
人を助け、諭し、祈りを繋ぐ者たちだと。」
春花が、静かに答える。
「我らは、季を預かるのみ。
名を高めるために巡っているわけではありません。」
「承知しております。」
男はそう言って、拳を胸に当てた。
「だからこそ……お願いがございます。」
千秋が、思わず一歩前に出そうになり、春花の袖がわずかに揺れる。
春花は首を横に振り、続きを促した。
「申してください。」
男は、言葉を選ぶように、ゆっくりと語った。
「我らの社は、小さく、力もありません。
雨を願い、病を祈り、人を繋ぐ――
その志だけで、ここまで守ってきました。」
顔を上げる。
「ですが最近は、“英雄”を名乗る大国の噂ばかりが広まり、
……古い祈りは、軽んじられつつあります。」
冬彦が、低く言う。
「信仰が、力に塗り替えられている。」
男は、深く頷いた。
「はい。だからこそ――」
再び、頭を下げる。
「四季の神子様。
我ら小さき社と、志を共にしていただけませんでしょうか。」
焚き火が、ぱちりと音を立てる。
千秋が、春花を見る。
夏輝も、冬彦も、何も言わない。
春花は、しばらく沈黙し――
それから、静かに口を開いた。
「……我らは、守られる側ではありません。」
男が息を呑む。
「ですが。」
春花は、視線をまっすぐ向ける。
「志を同じくする者を、切り捨てる理由も持ちません。」
千秋が、穏やかに続ける。
「共に巡り、祈る、それぞれの社が、それぞれの土地を守る。
上下の関係ではありません。」
冬彦が、締めるように言う。
「それが、天の理に叶う形でしょう。」
男の目に、涙が浮かんだ。
「……ありがとうございます。」
深く、深く、頭を下げる。
その夜、焚き火のそばには、
四季の神子と、小さな社の氏子が並んで座った。
そして互いの信仰、儀礼などを話し合い、その夜は更けていった。




