保護
牟岐の城は、昼なお薄暗かった。
高い天井。重い柱。
英雄を讃えるために集められたはずの品々が、今はただ沈黙を重ねている。
跪いた使者が、額を床につけたまま告げた。
「――報告にございます。」
牟岐家の当主である宗清は、肘掛に身を預けたまま、答えない。
「“四季の神子”の噂が、各地で……大きくなっております。」
一瞬、空気が張り詰める。
「薫の領にて流れていた噂――四季の神子は、
『神子などではなく、争いを裁いたのは土地土地の長老や古老。』
……そのように、収束したと存じておりましたが」
牟岐の指が、肘掛を叩いた。
「……収束、だと?」
低い声だった。
使者は、息を呑む。
「は。むしろ逆に……“神の代理人”として、信仰が――」
「黙れ。」
牟岐は、立ち上がった。
鎧は着ていない。
だが、その背には、幾度も語られてきた“英雄”の影がある。
「薫の連中は、“神子は偶然そこにいた”とも言っていたはずだ。」
「……はい。」
「それで終わると思ったのだな。」
牟岐は、笑った。
だが、それは愉悦ではない。
使者の背に、冷たい汗が伝う。
牟岐は、ゆっくりと歩き、窓の外を見下ろした。
「四季を名乗る。祈りを奪わぬ。善行を求め、血を求めぬ。」
低く、吐き捨てるように。
「――厄介だ。」
振り返る。
その顔は、再び“英雄”のそれだった。
「命じる。」
使者が、身を強張らせる。
「“四季の神子”を探し出して――保護せよ。」
「討つな。捕らえるな。“守っている”という形で、囲え。」
声は、朗々としていた。
まるで民を想う将の言葉のように。
「英雄たる我が身が、幼き神子を野に放つなど、あってはならぬ。」
使者は、頭を深く下げる。
「は……!」
牟岐は、満足そうに頷いた。
「噂は、力だ。」
静かに言う。
「ならば、我が力で――その行き先を、定めてやろう。」




