小袖
露の残る草を踏み、四人は並んで歩いていた。
「……本日の道行きは、東へ。」
冬彦が静かに告げる。
声は低く、整っている。
意識して、選んだ口調だった。
春花は、小さく頷く。
「水の気配が強い。村は近いでしょう。」
千秋は少しだけ間を置き、からかうような癖を抑えて言う。
「……ならば、祈りの準備を。」
夏輝は一瞬、言葉を探し、
それから、真似ではない声で続けた。
「……人の声が、聞こえます。」
四人の歩調は揃っていた。
その村は、小さかった。
畑は干上がり、井戸の水位は低い。
人々の顔には、焦りよりも、疲労が滲んでいる。
最初に声をかけてきたのは、年嵩の女だった。
「……旅の方、ですか。」
春花は、自然に一歩前へ出る。
「道を借りております。私は、春です。」
名を名乗るのではなく、役を差し出す。
それだけで空気が変わった。
「四季の……神子様?」
誰かが、息を呑む。
冬彦が、静かに補足する。
「我らは、季を預かり、
人の願いと、天の理を繋ぐ者。」
千秋は、口角を上げない。声を張らない。
「必要であれば、祈りの形を、整えます。」
村人たちは、顔を見合わせた。
疑いはあった。だが、同時に――
この子供たちは、軽くない。
「……雨を、呼べるのですか。」
春花は、首を振る。
「天は、命じるものではありません。
ただ――耳を澄ますだけです。」
それが、決定打だった。
冬彦が空を読み、
千秋が場を整え、
春花が祈り、
夏輝が人の輪を繋いだ。
夕刻、
雲が集まり始めたのは、偶然だった。
だが――
村人たちは、そうは受け取らない。
「……神の、代理人だ。」
誰かが、そう呟いた。
否定する者はいなかった。
その噂は、早かった。
「四季の神子が巡っている」
「諍いを収め、土地を豊かにする」
「子供だが、軽んじてはならぬ」
「神の代理人だ」
名は、いつの間にか揃っていた。
春の神子。
夏の神子。
秋の神子。
冬の神子。
誰も命じていないのに、人々は彼らに従った。
祈りが終わり、村を離れてしばらく。
森に入った途端、千秋が肩の力を抜いた。
「はーーーー……疲れた。」
春花も、ほっと息を吐く。
「神官口調、意外と気を使いますね。」
「舌、噛みそう。」
夏輝が苦笑する。
冬彦は少しだけ微笑んだ。
「ですが。あれは――効いております。」
千秋が振り返る。
「効きすぎじゃない?」
「信仰とは、形から入るものです。」
冬彦は淡々と言う。
「我々は、演じているのではなく――
切り替えているだけ。」
春花は、歩きながら小さく頷く。
「人前では、四季の神子。四人だけの時は……」
少し間を置き、
「仲良し四人組、ですかね。」
千秋が笑う。
「その二重生活、嫌いじゃない。」
夏輝も、少し安心したように言った。
「……ちゃんと戻れる場所があるの、いいね。」
森の奥で、四つの影が並んで揺れる。




