記録
牟岐宗清の居城。
ようやく青空を見た旅人は、すでに言葉を失っていた。
だが、宗清が欲しかったのは“悲鳴”ではない。
「……もう一度、最初から話せ。」
静かな声に、配下が記録を読み上げる。
「こちらの関へ向かう山道で、兄妹を名乗る三人連れを見た、と。
年若い男が一人と幼い娘が二人。その幼い娘のうち片方の喋り方が――」
宗清の指が、ぴたりと止まる。
「喋り方?」
「はい。
言葉遣いが丁寧で、柔らかいが、どこか“命令に慣れている”ようだったと。」
宗清は、目を細めた。
「……育ちが出る、というやつだな。」
「ええ。旅人は“商家の娘ではない”と感じたそうです。」
宗清は、ゆっくりと椅子に身を預ける。
「それだけなら、偶然で済む。」
配下は、次の紙をめくる。
「ですが、その旅人がその後耳にした噂が――」
「四季の神子、そして志木原の姫だな。」
宗清が、先に言った。
「はい。その一行を旅人が見た山道から、薫家の領地にかけて。
“争いを静める娘がいる”、“季節の名で呼ばれる三人組がいる”
……そうした話が、点々と。」
宗清は、低く笑った。
「点が、線になり始めたわけだ。」
「さらに――」
配下は、一拍置く。
「薫家は、志木原の同盟国。
そして、先代当主為春の妻、桔梗の実家でございます。」
宗清の視線が、ゆっくりと上がる。
「……志木原の姫は、死んだ。志木原は滅んだ。
そう、我々は“そういう話”を流した。」
「はい。」
「だが、“似ている娘”が現れ、高い身分の喋り方をし、
四季の神子と呼ばれ、桔梗の実家の領地に近づいている。」
宗清は、立ち上がった。
「偶然にしては、出来すぎだ。」
配下が、息を呑む。
「……確認、なさいますか。」
「無論。」
だが宗清は、すぐに首を振った。
「正面からは行かん。」
宗清の声は、冷静だった。
「薫家が何を隠し、何を恐れているかを見る。」
「探り、ですか。」
「そうだ。」
宗清は、窓の外を見た。
「“姫がいる”という前提で動けば、薫は警戒する。
だから――」
「“四季の神子の噂が気になる”という体で、使者を出せ。」
配下は、深く頭を下げる。
「は。」
宗清は、呟くように言った。
「為春。お前の血は、まだこの世に残っているのか。」
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