似ている
客室に通されたあと、
しばらくして、襖がもう一度、控えめに叩かれた。
「……失礼します。」
声の主に、冬彦がわずかに身構える。
襖が開き、そこに立っていたのは――夏輝だった。
「ここ……で、いいって言われた。」
どこか言い訳がましい口調で、視線を泳がせる。
春花は、ぱっと表情を明るくした。
「夏輝。」
「……うん。」
だが、その声には、喜びよりも困惑が混じっている。
黄雀が、後ろからそっと現れた。
「この部屋は……」
言葉を選ぶように、一拍置いてから続ける。
「“正式な客”用の離れ、という扱いにはなっています。
……夏輝も、同席という形で。」
その言い回しに、千秋が眉をひそめた。
「“同席”ね。」
黄雀は、苦笑にもならない笑みを浮かべる。
「……城内には、色々と声が……。申し訳ありません。」
夏輝は、部屋の隅に座り、膝の上で手を組んだ。
「いつものことだよ。」
ぽつり、と言う。
「妾の子ってだけで、
城の中じゃ、ちゃんとした“席”なんてないんだ。」
冬彦が、静かに問いかける。
「それでも、薫家の血には違いないはずですが。」
夏輝は、肩をすくめた。
「正室の子じゃない。それだけで、十分だよ。」
春花は、何か言いかけて、言葉を飲み込んだ。
黄雀は、視線を落とす。
「……私が、もっと強く言えればよいのですが。」
「叔父上は悪くない。」
夏輝は、少しだけ早口になる。
「庇えば庇うほど、立場が悪くなる。
母さんの時も、そうだった。」
その言葉に、空気がぴんと張る。
黄雀はゆっくり頷き、深く頭を下げた。
「私は……薫家に忠を尽くす者です。
ですが同時に、あなた達の身内でもある。」
拳を握りしめ、声がわずかに震える。
「春花様を追い返せ、という声も……受け入れろ、という声も……
どちらも、無視はできません。」
冬彦が、低く言う。
「つまり――」
「ええ。」
黄雀は、顔を上げた。
「私は今、どちらか一方に踏み出せば、
もう一方を失う位置に立っております。」
しばしの沈黙の後、春花が静かに口を開いた。
「……それでも、大叔父上。」
黄雀は、はっとして春花を見る。
「わたしは、ここにいさせていただけるだけで、十分です。」
「春花様……」
「夏輝さんが、ここにいる。」
春花は、隣を見る。
「それだけで、わたしは救われています。」
夏輝は、驚いたように春花を見て、
慌てて視線を逸らした。
「……なんで、そんなこと言えるんだよ。」
春花は、微笑んだ。
「だって、似ている人が、ここに二人もいるんですもの。」
その言葉に、
黄雀は目を伏せ、そっと息を吐いた。
――この子は、やはり桔梗の娘だ。




