城
城へ向かう道は、城下の中央から、ゆるやかに登っていく。
石畳はさらに整い、道幅も広くなる。
だが、人の気配は少なくなっていった。
露店は姿を消し、笑い声も遠のく。
代わりに、無駄のない足音と、揃えられた門扉の並びが続く。
「……静かですね。」
春花の言葉に、冬彦が小さく頷く。
「城に近いほど、生活は外へ追いやられます。
人は集まらず、役目だけが残る。」
千秋が、腕をさすった。
「なんか……寒い。風、吹いてないのに。」
風ではない。
――見えない規律が、ここを覆っている。
夏輝は、歩幅を少しだけ狭めていた。
城壁が視界に入り始めたころ、
彼はぽつりと、前を向いたまま言った。
「……俺の母さんはね、
もともと、この城下の染め物屋の娘だった。」
春花は、黙って耳を傾ける。
「腕が良くてさ。薫家の衣装も、何度か任されてたらしい。」
千秋が口を挟まないのが、珍しかった。
「それで――城に呼ばれて、戻ってこなくなった。」
声は、淡々としている。
「父上に見初められた、って言葉で片付けられたけど……」
夏輝の手が、無意識に拳を作る。
「城の中じゃ、母は“正式な人間”じゃなかった。
宴にも出られない。名前も、記録に薄くしか残らない。」
春花は、胸の奥が、きしむのを感じた。
「それでも、母は俺に言ったんだ。」
夏輝は、城壁を見上げる。
高く、白く、影を落とす城。
「――“ここを憎まないで”って。」
千秋が、思わず言う。
「……無理じゃない?」
夏輝は、かすかに笑った。
「だから、俺は城を好きにも嫌いにもなれない。」
城門が、見えてきた。
門番の視線が、すでにこちらを捉えている。
まるで、数を数えるように。
三人――いや、四人目として夏輝を含めて。
冬彦が、低く息を吸う。
「……ここから先は、言葉一つで運命が変わります。」
春花は、ゆっくりと頷いた。
「大丈夫です。」
自分に言い聞かせるように。
「母は、この場所で生きました。
なら、私は――ここから逃げません。」
夏輝は、その横顔を見つめ、目を伏せる。
「……あんた、本当に似てる。」
「誰に?」
「母さんが、よく話してた人。」
春花は、答えを待った。
夏輝は、静かに言う。
「桔梗様。」
城の影が、四人を包み込んだ。




