一緒に
翌朝。
まだ街が完全に目覚めきる前、宿の戸を叩く音がした。
とん、とん。
規則正しく、遠慮がちな音。
冬彦が先に気づき、静かに立ち上がる。
「……誰だ。」
戸の向こうから、昨日の声がした。
「おはよう。起きてる? 昨日の――」
「夏輝、です。」
春花はその名に、ぱっと顔を上げた。
冬彦が戸を少しだけ開くと、朝の光と一緒に夏輝の姿が現れる。
昨日と同じ笑顔だが、どこか落ち着かない様子で、手には包みを抱えていた。
「朝早くからごめん。これ……差し入れ。」
包みの中から、湯気の残る握り飯の香りが立ちのぼる。
後ろから覗いた千秋が目を丸くした。
「わ、気が利くじゃん。」
「旅人って言ってたでしょ。朝飯、ちゃんと食べないと歩けないからさ。」
そう言いながらも、夏輝の視線は自然と春花に向いていた。
春花は一礼し、丁寧に受け取る。
「ありがとうございます。とても、助かります。」
その言葉に、夏輝は一瞬だけ目を細めた。
――昨日から、ずっと感じていた違和感。
言葉遣い。立ち居振る舞い。
年相応ではない落ち着き。
「……ねえ。」
三人が包みを丁寧に受け取ると、
不意に夏輝が口を開く。
「今日はどこへ行く予定なの?」
冬彦が答えようとしたが、春花が一歩前に出た。
「薫家のお城へ向かおうと思っています。」
その名を聞いた瞬間、夏輝の表情が、はっきりと変わった。
「……お城?」
声が、少し低くなる。
「どうして?観光とかじゃ、無さそうだよね。」
空気が張りつめる。
千秋が春花をちらりと見て、口を挟もうとするが、春花は首を横に振った。
「大切な人に、会いに行くためです。」
夏輝はしばらく黙り込んだまま、春花の顔を見つめていた。
そして、ゆっくりと息を吐く。
「……そっか。」
その声には、どこか諦めにも似た響きがあった。
「じゃあさ。」
夏輝は少しだけ笑い、言った。
「僕も、一緒に行っていい?」
千秋が目を見開く。
「え?」
冬彦は即座に警戒を強める。
「理由を聞かせてもらえますか。」
夏輝は視線を逸らし、街の方を見る。
「……薫家には、僕も用がある。」
一拍置いて、続けた。
「正確には――“帰る”用が。」
春花の胸が、かすかにざわめいた。
「あなたは……」
夏輝は、はっきりと春花を見た。
「まだ言えない。でも、一緒に行ってくれるなら……ちゃんと話す。」
冬彦は春花の様子をうかがう。
春花は少し考え、そして小さく頷いた。
「……わかりました。」
その即答に、夏輝が驚く。
「え、いいの?」
「うん。あなたは悪い人では無さそうですし。」
夏輝は、照れたように頭をかいた。
「……参ったな。」
千秋がくすっと笑う。
「なんか、面白いことになってきたじゃん。」
こうして四人は、
それぞれ胸に抱えた事情を伏せたまま、
薫家へと続く道を歩き出した。




