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志木原

室町時代後期、数多の大名が天下取りを目指し、

幾多の命が消えていった時代。

その城は争いを好まず、

周辺の国々と堅い同盟を結び、平和を保っていた。


「此度はこのような所までよく来てくださった!」


出迎えた家臣が、満面の笑みで深々と頭を下げる。


「いやいや、この志木原(しきはら)はいつ来ても美しいですなぁ。」


使者達はそう言って目を細めた。

眼下には穀物がたわわに実る田畑と、春を待つ山の稜線。

穏やかで豊かな景色が広がっている。


為春(ためはる)殿も、お元気でいらっしゃるとか。」


「はい。殿も、皆さまのお力添えあってこそでございます。」


柔らかな挨拶が交わされ、

客人をもてなすための席がにぎやかに整えられていく。

庭には桃の枝が風に揺れ、

座敷では侍女たちが器を並べ、

香の煙がほのかに立ち上った。



その喧騒から少し離れた御殿の一室。

志木原家の当主の家族が暮らす静かな場所で、

幼姫君、春花(はるか)が、小さな眉をぎゅっと寄せていた。


「ははうえ、わたくしは、()()()には でられないのですか……?」


唇を尖らせた春花の声は、どこか涙を含んでいる。


隣では、年頃の姉姫、千春(ちはる)が鮮やかな衣を整えながら、

困ったように、しかし優しく笑った。


()、あなたはまだ小さいのだから、

宴に出るのは、来年になってから。

私もそうだったのよ?」


その言葉に合わせるように、

母の桔梗(ききょう)も静かに微笑み、

春花の肩を抱く。


「ええ。今年は無理でも、すぐ来年。

立派に皆の前に出られる日は、

あっという間に来ますよ。」


七つ前は神の子とされることから、志木原家の子は、

七つになるまで同盟国含め

他国には知られぬように育てられていた。


「……ほんとう?」


うるんだ瞳で母を見上げる春花。

桔梗はその頬をそっと優しく撫でる。


「姉上!準備は終わりましたか!?」


騒がしく襖が開き、甲高い声が飛び込んでくる。


現れたのは、まだ少年と呼ぶにふさわしい年頃で、

春花にとっては兄にあたる志木原家の次男、春政(はるまさ)である。


()、声が大きいわよ。」

千春が苦笑しながら注意する。


「す、すみません姉上……。でも父上が呼んでます!

客人が着座なさった。姉上も顔を出してほしいと!」


「わかりました。すぐ行きます。」


そう言って立ち上がる千春の袖を、

春花がきゅっと掴んだ。


「せんねえさま……」


千春はしゃがみ込み、妹の小さな手を包み込む。


「ねえ花。この宴は今日中に終わるから、

明日、父上もお誘いして、

小さな宴をするのはどうかしら?」


春花はじっと姉の目を見つめ、言葉の意味を飲み込むと、嬉しそうにこくこくと頷いた。


「花のおかげで、美味しいものが明日も食べれる!」

春政が嬉しそうに春花の頭を撫でる。


桔梗も愛おしそうに子供たちを抱き寄せ、

静かな御殿に、柔らかな笑い声が広がった。

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