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薫風

春花(はるか)冬彦(ふゆひこ)、そして千秋(ちあき)は、志木原(しきはら)家当主の妻であり、

春花にとっては母にあたる、桔梗(ききょう)の実家である(かおる)家に向けて出発した後


遅足ながら各地を巡り、

人々の小さな争いや困りごとを目にし、少しずつ助力してきた。


道中は決して楽ではなく、雨に打たれ、風に晒され、夜には焚き火を囲んで慎重に次の行き先を相談した。


春花はまだ幼いながらも、冬彦の助言に耳を傾け、千秋と共に考えながら歩みを進めた。


三人の存在は、道中の村々でも「四季の神子」と呼ばれ、噂程度に広まり始めていた。


ようやく薫家の一つ目の関所に辿り着いたのは、出発してから三ヶ月ほどたった日の夕暮れ時だった。

街は暖かな橙の光に包まれ、人々はいつもの日常を過ごしている。


ふと、冬彦が視線を止める。


「……あの子供、どこか……」


春花と千秋が冬彦の視線の先を見ると、そこには一人の少年が立っていた。


日に焼けた肌に美しい黒髪がなんとも不自然に、

だがとても美しく見える。


少年はこちらの視線に気がつくと、

にこりと人の良さそうな笑みを見せ、近付いてくる。


「ね、見かけない顔だね。旅の途中?」


春花は少し緊張しながらも、にっこり笑って答える。


「ええ、そうなんです。」


冬彦は少年の動きを警戒していたが、春花と千秋の自然な交流を見て少し安心した様子だ。


「ご飯はもう食べた?よければ一緒に行こうよ。

美味しいお店を知ってるんだ。」


春花は少し戸惑い、千秋の手をそっと握った。


「……ありがとう、でも、私たちは……」


少年は首をかしげ、にっこり笑う。


「大丈夫だよ。強制じゃないから。話をしながら、街を見て回るだけでもいいんだ。」


千秋も安心したように頷く。


「……そうね、少し見て回るのも悪くないかも。」



三人は少年に導かれ、街の狭い路地を抜け、賑やかな広場へと進んだ。


屋台から漂う焼き餅の香り、子供たちの笑い声、大人たちの穏やかな話し声――。

久しく見なかった日常の光景に、春花の胸は少しずつ温かさで満たされていった。


少年は自分の名を夏輝(なつき)と名乗った。


「ここら辺は色んな所から来た人が集まってるんだ。

宿場も手頃なところが多いよ。」


冬彦は少し眉を寄せながらも、春花と千秋の安全を確認するように周囲を見渡した。


「油断はできませんが、ここなら少し休めそうですね。」


春花は小さく頷き、少年に微笑み返した。


「……ありがとう、案内してくれて。」


夏輝は笑みを深め、肩をすくめる。


「別に、困ってる子を助けるのは当然だよ。」


その日、三人は夏輝の導きで街の中の安全な宿に身を落ち着け、

火の香りもなく、穏やかな夜を迎えた


春花は窓から街の明かりを眺め、千秋と冬彦に小さく告げる。


「……薫家のお城まで、もう少し。だね。」


冬彦と、千秋は、小さく頷いた。

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