決意
ある村で、誰かが言った。
「そういえば、山で妙な家族連れを見たって奴がいたな。
姫の噂を聞いた後で、青くなってた。」
「ああ、あいつか。
牟岐様のところに連れていかれたよ。」
「へえ、牟岐様、志木原様と仲良かったらしいものな。……それでその後、どうなったんだ?」
「さあな。戻ってこなかった。」
言葉は、それきりだった。
朝の光が柔らかく山を染める。
春花は焚き火の跡に立ち、遠くの稜線を見つめた。
千秋と冬彦も、まだ目覚めたばかりの森の静けさに身を任せている。
春花は小さく息を吸い、静かに口を開く。
「……母上のご実家に行こうと思います。」
冬彦がハッとして春花の方に体を向ける。
「春花様のお母上のご実家というと、薫家でしょうか?」
春花は頷く。
「はい。ここからは少し遠いですが、薫家は志木原の同盟国。
きっと手助けしてくださるでしょう。」
冬彦は少しためらい、言葉を選ぶように口を開く。
「……姫様、例の噂もございます。今目立てば、逆に志木原が遠のく可能性もあるかと。」
「でも、行かなかったら、志木原を取り戻せもしないんじゃない?」
千秋が伸びをしながら冬彦の目を見る。
「春花が行くなら、あたしも行く。面白そうじゃん。」
冬彦は少し俯き、決意を固めるように口を開いた。
「……承知いたしました。春花様、千秋殿、私が必ず、無事に薫家までお連れいたします。」
春花は軽く微笑んだ。
「ありがとう、冬彦。信じています。」
千秋がにやりと笑う。
「よーし、じゃあ出発だ!山を越えて、薫家へ!」
春花は荷物を整え、背中の布袋を確認する。
森の空気は冷たく、光に照らされて木々の影が揺れる。
鳥の声が静かに響く中、三人は山道を進み始めた。




