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散文小説シリーズ

羊水少女

作者: 月迎 百

どうぞよろしくお願いします。

 紫色の淡い光。まぶしい。羊水の向こうに、あなたの顔が見える。


 わたしを見にきたの………。

 あなたはまだあきらめてないの。

 

 あなたに逢うまで、私はずっと夢を見ていたのかも。いいえ、いまが夢なのかも。


 あなたを責めたりはしたくない。

 でも、わたしの存在があなたを苦しめている。


 わたしを生かすということがこんなに苦しいことだとは思っていなかったんでしょ。

 そうだね。あの時、思い出になってしまったほうが、よかったのかもしれない。


 そう、ずっと考えていたの。

 わたしにはおとうさんが3人いるのかもって。


 1人目は私がまだ、ひとつの冷凍受精卵だった時のおとうさん。

 時間はいくらでもあるのにいくら努力しても、けっして思い出せないおとうさんとおかあさん。


 2人目はわたしをこの世に出してくれたおとうさん。

 わたしを本当の娘のように慈しんで育ててくれたおとうさん。


 おとうさん、あなたが最後までわたしに隠し通したこと、わたしを愛していたからと思っていいよね。


 3人目は羊水の向こうにいるあなた。

 あなたが3人目のおとうさんだと思う。


 2人目のおとうさんが死んだ時、すべてをあなたに託したんだよね。その中にわたしがいた。あなたはわたしがなにものなのかを知った。そしてあなたは、おとうさんの意思を裏切って……。

 ごめん、責めているわけじゃないの。


 ただ、あの時、そのままなにも知らずにおとうさんの娘として、人間として、そしてあなたの恋人として……、逝きたかった。


 あなたへのおとうさんへの手紙。思い出すと胸が苦しくなる。






 彼女は厳密に言えば、人間ではありません。彼女の本当の両親、つまり受精卵の提供者である彼らは私の友人でありました。

 彼らには子どもができず、検査したところ遺伝的な異常があり、受精まではできてもこの世には生まれ出ることはできないという結果が出ました。

 彼らの死後、私は冷凍保存されていた受精卵の遺伝子操作に着手しました。

 彼らが生きている時には拒んだ私ですが、彼らが事故死という痛ましい最期を迎え、冷凍受精卵達も処分されるという事態に友人としてどうにかしてやりたかったのです。


 彼女は人間よりも強い生命力を持ちながら、人間よりも脆い存在としてこの世に生を受けました。

 私は彼女が人間として生きることを望みます。

 私の娘として、たとえ短い生涯であっても、人間として幸せな時間を過ごさせてやりたいと思い育ててきました。


 しかし、私にはもう彼女を見守ることすらできないようです。

 どうか、彼女を守ってください。

 君ならばわかるはずです。彼女が人間として生き、そして、死ぬことができるように。


 それが最後の私の願いであり、また心残りでもあります。






 あなたはまだあきらめていないの。

 わたしはもう死んでいるのよ。ねえ、そうでしょう?

 夢のなかでしか、わたしは生きられない。


 あなた……、だんだんおとうさんに似てきた。

 そう、3人目のおとうさん。

 どうぞ、おねがい。あなたが最後のおとうさんに。


 

 愛しているなら、つれていって。

 わたしだって、愛しているのに。

 

読んで下さりありがとうございます。

10~20代の頃はこんな話ばかり書いていました。

暗い……。

ジャンルが難しい。


※ジャンルで迷走しています。

 最初、恋愛にしていましたが、どっちかというか文芸? でも純文学? と悩み……。

 このような短いお話をシリーズにまとめた時に、あ、それぞれ思ったのにすればよくない!? と気づきました。

 私の中では恋愛ものかなぁ。


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