穢れ
止めて、聞きたくないし見たくない。こんな毎日が続くなら、いっそのこと、耳も目も要らない。何も聞きたくない。見たくない。綺麗なものも、楽しい話ももう私には必要ないから、いっそのこと何も感じなくなりたい。そうしたら、もう何も怖くないし、痛くないのに。
教室から見える海を見ていた。水平線が滲んでいる。あの先まで行けば、何か変わるだろうか…。
相変わらず、晴れているのに曇っている。怖い痛いしんどい。どうして、いつから、私の目から色が消えたのだろう。どうして世界はこんなに薄暗いのだろう。何がそんなに悲しいのだろう。
もう疲れた。もう疲れたよ。
女の園に入学して、僅か半年。たったそれだけの期間で、私は見事に病んだ。教室から聞こえる嗤い声は、全て私を嗤っているように聞こえるし、噂話はいつも私の話に聞こえる。
「飛鳥が…。」
「飛鳥だよね…。」
いつも声に怯えている。怖い怖い怖い。
いっそのこと、真正面から向かって来てくれればいい。そうすれば、私だって言い返せるのに。陰で聞こえるように言うなんて、なんて卑怯なのだろう。
本人に文句を言う度胸がないなら、いっそのこと黙っていて欲しい。ほっといて欲しい。
こんな奴らと同じ空気を吸っている私が穢れる。
ウォークマンの音量を上げる。周りの音なんか聞きたくない。穢れた声なんて、気にしたくない。
低音のダミ声が、いつも私を救う。この時間は、超越至極。私が私でいられる、たった一つの居場所。
音楽は裏切らない。
私の魂よ、どうか穢れませんように。
穢れた人間達よ、どうか地獄に落ちますように。
ダミ声は言う。
「お前も卑怯な人間なんだ!」