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《26》謎の特殊仕事の内容は……?

 二月の繁華街はバレンタインデー関係のモチーフで溢れ返っている。

 

 ピンクやオレンジ色のハートに、カカオ色の〝ハッピーバレンタインデー〟の文字。製菓会社の作ったバレンタインチョコギフトは山積み、手づくりチョコセットも板チョコと共に並ぶ。


「……汐里、アンタ会社で配る用と自分のしか買ってないんじゃないの?」


「買ってないよ、それがどうかしたの」


 バレンタインデー一週間前の週末にデパートの特設会場で開かれた、チョコレートの祭典に姉妹で参加した。混んでいることは覚悟していたけれど、予想以上に人が多くてのんびりチョコレートを見て試食なんかしながら買おうなんて……甘かった。


 まるで新アトラクション公開直後の東京ワンダラーランドに行ったかのように、揉みくちゃにされた。それでも、なんとかチョコレートを買ったものの……もう姉妹揃ってヘトヘトだ。


 休憩しようと入ったカフェで二番目の姉、美咲に呆れたように言われた。


「どうかしたのって、彼氏の分は? あ、手作りする予定なら余計なコトいってごめんだけど」


「手作りなんてしないってば」


「じゃあ、なんで彼氏のチョコ買わないの? 本命でしょうが」


 美咲姉はチョコ味のバームクーヘンとカフェオレをテーブルの端に寄せて、私の方へと体を乗り出してきた。その顔には〝早く話せ、話すまで帰さない〟と書いてあるように見える。


 私たちは三姉妹だ、長女・真弓、次女・美咲、三女・汐里。真弓姉と私は父親似、美咲姉は母親似で……二番目の姉は母と同じくしつこい女なのだ。


「今月いっぱい会わないから。チョコレートって日持ちするけど、さすがに……三週間前の生チョコ使ったトリュフとか食べたいとか思えないじゃない?」


「はぁ? なにそれ、今月いっぱい会わないとか」


「よく知らないけど、仕事なんだって。十二月から二月いっぱいまでの三ヶ月が彼のご担当期間で、三月からは別の人に代わるから、それまでは忙しくて会えないって言われた」


 去年の十一月半ばくらいにいわれたのだ、なにやら職場で特殊な仕事をしなくてはならなくなった、期間は一人三ヶ月間。畑中くんの担当は十二月から二月で、その間は会えないしほとんど連絡もできないだろう……と。三月に入ったら次の人に仕事を交代するから今まで通りだし、ちゃんと説明するから待っていてほしいとも。


「それって、どういう仕事?」


「さあ、知らない」


 美咲姉の疑問ももっともだ、私も知りたい。三月になってその特殊な仕事から解放されたら、教えて貰える……まで待つしかない。


「……なんだか、妙だよね。三ヶ月間って結構長い期間ずっと社員を拘束するような特殊な仕事って、そんなのある?」


「だから、知らないってば」


 私はため息を零しながら、自分のブレンドコーヒーに口をつける。そういえば自宅に買い置いていたコーヒー豆が少ない、どこかで買って帰ろう。なかなかこのコーヒーが美味しいから、お会計のときここのブレンドを買っていくのもいいかもしれない。


「それ、本当に仕事?」


「……なんだって?」


 コーヒーのことを考えていた私は、美咲姉の言葉をちゃんと聞いていなかった。聞き返せば、姉はムウッと不満そうな顔をする。


「だ、か、ら! 仕事じゃないんじゃないかっていってるの」


「仕事じゃないならなんだっていうの?」


「浮気よ、浮気」


 美咲姉はそういって、バームクーヘンとカフェオレをテーブル中央に戻すと、勢いよくフォークをバームクーヘンに突き立てた。


 そして自分の夫が浮気したときのことを語り始めた。美咲姉と義兄のトラブルは数年前のできごとだったはずなのに、まるで昨日のことのように姉は語ってくれる。


 仕事の付き合いだの残業だのと言い訳をして、取引先の受付嬢と男女の親しい関係になる寸前……であったという話だ。


 ある日曜日のお昼前、職場関係の人を接待するゴルフだといって出かけたはずの義兄とラブホテル街に続く交差点でバッタリ遭遇。その時美咲姉は長女の真弓姉とその子どもたちと共に買い物中で、義兄は腕に二十歳そこそこだろう若くて愛らしい女の子をぶら下げていたとか。


 義兄は現行犯確保され、浮気相手の女の子は「既婚者だったなんて!」と義兄に往復平手を喰らわせてから姉に謝罪して去って行った……そして始まる家庭内裁判。


「……浮気、ねぇ」


 畑中くんが他の女の子と一緒に出かけて、ご飯を食べて買い物して……夜を共にする。少し想像しただけで胸の奥が重たくなってとても痛んだ。恋をするって、本当に苦しい。好きであればあるほど、苦しい気持ちになる。


「汐里、そんなのは自分と関係ないって思って、ドラマや映画みたいな話みたいに受け取ってたらダメなんだからね。浮気っていうのは、そこらへんにいっぱい落ちてるものなのよ。男なんてそんなもの。姉さんだって一度騒ぎになったじゃない」


「まあ、ね」


 私の二人いる姉、先日の石川さん(旧姓牧田さん)のこともある……可能性はゼロじゃない。


「まあ、来月になって話しを聞いてみないことにはわからないからね。今は仕事だって思っとくよ」


「私は娘のことがあったから、前回の浮気のことは許したけど、次やったら許さない。汐里、あんたは結婚してるわけじゃないから、もしそうだったら……即切りなさいよ」


「浮気だったら、ね」


「一度浮気した男は、二度も三度もするものよ」


 私は姉のバークムーヘンにフォークを刺し、一切れ貰うと口に運ぶ。チョコ味のバームクーヘンはカカオが香り、コクと僅かな苦みのある大人味……でも、今の私には苦過ぎていつまでもその苦い後味が残り続けていた。



 ***



 二月が終わり、三月に入った。


 畑中くんがいうには、二月いっぱいで特殊な仕事は終わって通常の仕事に戻る……予定。


 十二月に入ってからほとんど連絡のなかったスマホに連絡が入ったのは、三月最初の週末を控えた木曜日。〝話していた特殊な仕事が終わって、後任者への引継ぎも済ませた。週末、美味しいものを食べにでかけないか?〟という内容。


 三か月ぶりに貰った連絡だっていうのに、もうちょっとなにかいってきてもいいんじゃないの? と思わなくもなかった。けれど、そこに〝会ってから話す〟という意味が込められているような気がして、私は了解の返事を送った。




 待ち合わせの約束場所は駅前にある駅前南広場だ。駅の南口にある小さな噴水のある公園風の広場は待ち合わせスポットとしては定番で、土曜日のお昼前という時間もあって大勢の人が集まっている。


 高校生たち五、六人のグループ、大学のサークルだろう十人くらいのグループ、恋人か友人を待っているだろう人はスマホにメッセージを打ち込む。見慣れた景色だ。


 待ち合わせの数分前、畑中くんの姿はまだない。


 私は側にあった石製のベンチに座り、スマホの通話アプリを起動させる。数分前に届いた未読のメッセージがあり、もしやと思うも案の定畑中くんからで、〝もうじき到着する〟とあった。


 数分前に送ったメッセージなのだから、もう到着するだろう。私は側にあって石製のベンチに座り彼を待つ。こんな風に待ち合わせをするなんて、随分と久しぶりだ。


「汐里! 悪い、待たせた」


「畑中くん」


 春物のジャケット姿の畑中くんは小走りに私の前までやってくると、にこりと笑った。


「ようやく、汐里の顔が見られた」


 差し出された手を取ろうとした瞬間「見―つけたっ!」という声が聞こえ、私よりも先に彼の手に両手を絡ませた人物がいた。


「え?」


「……はぁ?」


 私の目の前で、淡いピンク色のスプリングコ―トと栗色の髪がフワッと揺れた。

お読み下さりありがとうございます。

イイネやブックマーク、評価などの応援をして下さった皆様、ありがとうございます!!

とても嬉しいですし、続きを書くモチベーションに繋がっております。

本当に本当に、ありがとうございます。

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