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(00)序章:なんでも相談課へようこそ

 ようこそ、『なんでも相談課』へ! 


 今日から月に一度の面談を最長六回行います、それまでにお嬢さんのお困りごとが解消されますよう頑張りますので、よろしくお願いしますね。


 まあまあまあまあ、そんな興奮しないで下さい。え? ふざけた名前の課だって? あー、まあ、そうなんですけど、ちゃんと仕事はしてますから!


 困ったこと、心配なこと、不安なこと、頭にくること、色々ありますよね。でも、大丈夫です。まずはそれをひとつずつ話して下さい。はい、私がちゃんとお聞きします。


 お聞きした上で対処できることは対処しますし、対処できないことはできる限り希望に沿うような形に持っていけるようにします。まずは現状の確認と、不安や不満や気になることの確認をいたしましょう。


 はい、ここはそういう課ですからね。


 はいはい、落ち着いてここにお座りになって……なにか飲みますか? えっと、コーヒー、紅茶、麦茶がありますよ。あー……カフェオレはないので、コーヒーにクリームをたっぷり入れるとカフェオレっぽくなりますから、それでどうです? カロリー爆上がりですけどね!


 あ、はい。どうぞどうぞ。お砂糖も入用でしたらお好きなだけ入れて下さいね。


 さて、お嬢さん……書類を拝見いたします。ああ、うーん…………前世の記憶を思いだされたんですねぇ、ふむふむ。


 え? 重要度ランクが低い? え? せっかくの異世界転生なのにヒロインじゃない? チートがない? 魔法が使えない? 錬金術も刺繍もできないし、薬も作れない?


 ああ、はいはい。そういうことですか。ときどきいらっしゃるんですよね、お嬢さんと同じようなことをおっしゃる方が。


 要するにですね、お嬢さんはこう言いたいのですよね? ここは乙女が楽しむ物語かゲームの世界で、自分はその主人公として前世の記憶を持って生まれ変わったのだと。だというのに、自分には特別な力が何もないのはおかしいではないかと。


 はいはい、落ち着いて下さい。心を穏やかにして聞いて下さいね? 


 まず、あなたはヒロインという立場ではないのです。この世は物語の世界でも、ゲームの世界でもありません。全く、一切、全然、関係ありません。


 そしてこの世では、あなたのように前世の記憶を持っている人が大勢います。はい、沢山いるんです。あなただけではないんですよ。ですので、特別な技能や知識を持っていた方だけが重要度ランクが高いと認定されます。


 お嬢さん、あなたの持つ前世の記憶は学生から社会人として生きたもの……ですね? 一般的な国民として、平和に暮らした幸せな記憶がある。でも、それ以上でもそれ以下でもありません。


 特別な技術や知識はお持ちではないですよね? え? 特別な技術や知識ですか? そうですね、例えば医療技術や看護・介護の技術だとか、建築・土木技術。あとは炎の球や雷の槍などを作り出したりできる魔法技術、土や岩、木で出来た人形を作り操る傀儡技術、土や石を金に換える錬金術、失った手足を再生できる薬を作成できる魔法薬技術などがあります。


 ああ、料理や調味料に関してはすでに世の中に広がって定着しておりますので、料理が得意であることは特別な技術とはいえません。ですが、料理が得意な方が結婚相手としては好まれますので、できた方がいい……かもしれません! できないよりできる方がいいですからね。


 え? ここが物語やゲームの世界ではなく、自分がヒロインでもないのならどうして前世の記憶があるのか、ですか? うーん、それは自分にはお答えできません。だって、わかりませんもん。


 この世界には他の世界で生まれて生きた記憶を持って生まれてきたり、ある日突然思い出したりする人が大勢います。そういう世の中なのだ、としかいいようがありません。


 そういうわけで、あなたの記憶は重要度が低いものです。ですから、〝前の人生はこうだったんだ〟と割り切って必要上に前世の記憶や感情に引っ張られることなく、今世を生きることをお勧めします。だって、前世の記憶ですよ? 前世のあなたはすでに亡くなっていて、今この世界で現実を生きているんですから。


 ええっと……あなたは現在中等学校に通う学生さんですよね、平民という身分の。ならば、将来のことを考えてしっかり真面目に勉強したらいいと思いますよ。はい、学校の成績と生活態度は就職先に直結しますからね。


 ここは架空の世界じゃない、現実なんです。


 魔法や錬金術が使える人たちは存在しますが、そんな人たちは極一部ですし、彼らはみんな王宮や国立の研究所やら特別な施設や学校にいるんです。


 特別な知識も技術もない平民であるあなたが、聖女になるとか王子の妃になるなんてことは絶対にあり得ないのです。だから……しっかり現実を見つめましょう。


 聖女や王子の妃にはなれませんが、勉強すれば希望の職業に就くことはできますよ。官公庁に事務官や文官として就職もできるし、病院に医師や看護師としても就職できるし、シェフやパティシエになって将来自分の店を持つことだってできます。


 これからあなたの努力次第ですよ、だって、あなたはまだ十五歳なんですからね。


 そうだ、あなたと同じような立場にいた女性の人生の一部を綴った本があるのですが……読んでみますか? はい、あなたと同じように前世の記憶はあるけれど、特別な知識も技能も持っていなかった女性です。


 その人がなにをどう考えて、どのように生きていったのか……〝こんな考えをしていた〟とか〝こんな行動をとったのか〟とか知るだけでも、違うと思うのですよ。いうなれば、あなたの先輩になるわけですからね!


 はいはい。ええと……ここらにあったと…………え? ああ、彼女の本はあなたと同じような立場の女性に読んで貰うことが多いんです。はい、去年にいらした女性もあなたと同じようなことを言って混乱していました。その方にも読んでいただきましたよ。


 最初は、私はヒロインで貴族の通う学校に特別入学するんだと言っていました。そこで出会った王子、宰相の息子、騎士団長の息子、魔導士長の息子、医療魔導士長の息子、悪役令嬢の義弟と隠しキャラである隣国の王子という七人と恋をするんだと。悪役令嬢は隣国にある修道院に押し込んで、自分は七人の男性たちに愛されて贅沢三昧して暮らすのが運命なんだって。


 私がこの課に着任してから、似たような話をする女性が今までに五人いました。あなたで六人目です。きっとこの先も定期的に現れるんでしょうね、そんな気がします。その都度、この本をおすすめしていますし、今後もおすすめしていきます。


 あ、もちろん男性もいますよ? 魔法で無双するとか、王女様と結婚して王様になるとか、勇者になって女性ばかりのハーレムパーティーを作るんだとか。そういう方はまた別の本をおすすめしています。


 え? はい、何度も言いますけれど〝前世の記憶〟をお持ちの方は大勢いて、珍しくないのです。あなたは特別な存在ではなく、一般的な中等学校の女子学生さんなのですよ。


 はい、この本です。これは一人の女性が十代半ばから二十代半ばになるまでに書き綴った手記……まあ、手帳の中身を書籍にしたものです。


 あなたと同じ立場だった女性のものですから、どうぞ参考にして下さい。こんな風に考えて行動した人もいたんだな、くらいに受け取って下されはいいかと。


 え? ああ、彼女は今もご存命です。苦労はあったけれど、幸せになった人ですから安心して読んで下さいね。物語的に表現するのなら〝ハッピーエンド〟ですから。


 ええと、こちらの貸し出し帳に名前と本日の日付を書いて下さい。……はい、ありがとうございます。次回の面談時に返却して下さい。


 ……あなたは前世の記憶が戻ったばかりで混乱しているでしょうし、考えることも感じることも様々あるかと思います。ですがまずは落ち着いて、この先自分はどうなりたいかをこれから一か月で考えてみてください。


 ここは物語の世界でもないし、リセットできるゲームの世界でもない、現実なんだということを念頭においてね。




 もしものお話ですけれどね? 自分の前世のこと、今世で生きていくということを六か月間考えて、それでもどうしても〝私はヒロインだから王子の妃になる!〟という想いが全てで、他の未来が全く見えないというのなら……最終面談日にそれを教えてください。


 え? その場合は、それ用の対処方法がありますから。大丈夫です。とにかく、対処方法はありますからね!


 ですから、安心して心のままに考えてみてください。前世の記憶と感情、今世生まれて十五年分の記憶と感情、それらを踏まえて……今世、どう生きていきたいのか。


 では、一か月後に二度目の面台を行いますので、今日と同じ時刻にお待ちしております。

 本日はありがとうございました。

お読み下さりありがとうございます。

完結までお付き合いいただけますと、大変嬉しいです。

後ほどもう1話UPいたしますので、よろしくお願い致します!

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