錬金術師の依頼9
あれから、この遺跡を徹底的に調べて回った。
外で待機している人員も、ジース教授により強制的に参加させられた。
有無を言わせなかった。
断れば、錬金術師としての未来は無いと脅してまで参加させた。今回の調査は、それだけ重要な物になってしまったのだ。
一日掛けて調査して、軍用アンドロイドについて分かったのは、以下の三点である。
1.軍用アンドロイドを作るに至った経緯。
2.軍用アンドロイドの実験結果。
3.軍用アンドロイドの構造。
前時代の末期、世界が激変した。
建物の劣化が早まり、動物だった存在が力を得て人を襲い始めた。どうにか抵抗するが、弾薬や兵器は直ぐに底をついてしまう。
底を突いた理由は、使い切ったからではない。
使う前に、使えなくなってしまったのだ。
劣化していたのは、建物だけでなく、前時代に作られた殆どの物がそうだったのだ。兵器や精密機器はもちろん、大量生産された鍋や包丁、陶器、生活に必要な水道さえも使えなくなってしまった。
住む場所を失い、外で生活するようになり、結果として多くの人達が動物に襲われて亡くなった。
それをどうにかしようと、人を守る新たな武器を作ろうとする動きが活発になって行く。
様々な計画が立ち上がり、その殆どが頓挫する。
この軍用アンドロイドも、そんな頓挫した計画の一つだった。
プロジェクト名は『ガーディアン』
この軍用アンドロイドも元を辿ると、人類を守る為に計画された物だった。
それが途中から、対動物以外にも、人同士の争いへの介入を考慮しての開発に切り替えられてしまった。
研究者達は、変化して行く世界で、奇跡的に原型を留めていた建物に集まり研究する。
その残っていた建物は、元は義手や義足を開発していた建物で、多くの資材や機材が使える状態で残っていた。
当初、この計画は順調だった。
元々、似たような物は開発されており、単に劣化しないように設計すれば良いだけだったのである。
だが、その劣化しない方法が、上手くいかなかった。
ここの研究員達は、調べに調べた。
しかし、その原因が分からない。
分かったのは、この計画が発足して三年の何月が過ぎてからだった。
後に魔力呼ばれるようになる未知の物質を、他所で観測したのである。
その情報が周り、研究は一気に前進する事になる。
そして、多くの悲劇を生み出してしまった。
軍用アンドロイドである人形を用意するのは簡単で、後は劣化しない方法。
それは、この環境に適応した存在を組み込む事だった。
当初は、力を持った動物を解体して、様々な部位に組み込んで行われた。
すると、劣化する事なく動き出し、期待していた以上の成果を上げた。
だが、たとえ動いても、指示を受け付ける事はなかった。
獣の動きで暴れ回り、人を襲おうとしたのだ。
もしも閉じ込めた状態で起動しなかったら、それこそ多くの犠牲が出ていただろう。
研究者達は考える。
どのようにすれば、言う事を聞かせられるのかと。
その答えは、またしても外部からもたらされた。
人の中にも、動物のように力を持った者が現れたと報告を受けたである。
これだ、と誰もが思った。
動物だから命令を聞かないのなら、人で試すしかない。
だが、その力を持った者で実験するわけにはいかなかった。
だから、禁忌に手を出す。
力を持った者のクローンを作り出し、その血肉を軍用アンドロイドに組み込んで行ったのだ。
何十、何百の命が消費されて行く。
千という数を目前にして、研究者の数名が罪悪感に苛まれ自害した。それでも研究は続く。多くの命を奪っておいて、今更止められなかったのだ。
数千という命を消費したこの計画は、ようやく完成する。
そこで、記録は途切れていた。
「ここからは、何があったのかだが、歴史にも残っている通りだ」
そう告げるギース教授の言葉に、皆は頷いて理解を示した。
ヒスルはエリナの袖を引いて、首を傾げていた。
「これは、実際に起こった事なんだけどね……変化した世界に馴染めなかった人類は、ある日を境に形を保てなくなったの」
そう、研究者達が消えたのは、建物が劣化したのと同じように、世界により劣化され崩れるように消えてしまったのだ。
教科書にもそう記されており、セントールの学校に通った経験のある者ならば、全員が知っている歴史的出来事だった。
この話を聞いて、ヒスルはエリナにギュッとしがみ付く。
過去の出来事が怖かったのかな? そう思い、ヒスルを抱っ子して、大丈夫だよと慰めようとする。
だけど、ヒスルがしがみ付いた理由は違っていた。
「私、あの子に悪いことしたのかなぁ? あの子、泣いてたの。痛いって泣いてたの。治してあげようって、魔法使ったら、そしたら、そした、ら……いなく、なっちゃた〜!」
わーんと泣き出したヒスル。
幻影のように見えた子供の姿。
あれを最後に、ヒスルにも見えなくなってしまった。
もしも、使った回復魔法が原因で、あの子を消してしまったのではないかと不安になり、怖くて怖くて仕方なくて泣いてしまったのだろう。
そんなヒスルを抱きしめて、よしよしとあやすエリナ。
泣かせて、泣かせて、少し落ち着き始めた頃に、エリナはヒスルに語りかける。
「ねえ、ヒーちゃん。もしも、ここにヒーちゃんがいなかったら、あの子は、きっと今も苦しんでいたよ」
「……グスッ」
「私達じゃ、あの子の痛みを取り除いてあげられなかった。ううん、そもそも、見付けてもあげられなかった。あの子が、最後にお礼を言ったのも、ヒーちゃんに救われたからなんだよ」
「……うん、グス」
「ヒーちゃんがいてくれて良かった。あの子を救ってくれて、ありがとう」
その言葉を聞いて、またギュッと抱き付く。
落ち着くまで、今はこのままにしておこうと、エリナは集団を離れて移動する。
それに続いてソフィアも移動する。
そして、こちらに悪意ある視線を向ける者を睨み付け、強く強く牽制する。
危害を加えるのなら、誰であろうと容赦しないと牽制する。




