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錬金術師の依頼5

 じめっとした洞窟の中を進む。

 洞窟の中には、弱い昆虫型のモンスターはいるが、ミネルヴァのライトを当てると洞窟の奥へと逃げて行った。


 そんな洞窟の中間辺り、そこにはこの場所に似つかわしくない金属の扉が設置されていた。


「これか……エリナ、魔力変換装置を」


「はい」


 ミネルヴァがフィーンと音を立てながら前進し、荷台に乗せている木箱を前に出す。

 木箱を解体した中には、まるで砂時計の形をした物が入っていた。ただし、ボディの色は白で統一されており、繋ぎ目の黒のラインが秀逸で「か、かっこいい……」とエリナの口から感想が漏れていた。


「あら、分かる。これデザインしたの私なのよ」


 そう言ったのは、腰を痛めていたおばさん事、リンダ教授だ。


「はい! この黒の走り方とか、シンメトリーになっていて芸術点高過ぎです! このボタンの位置も、女性が腰に手を当てているように見えて素晴らしいですね! もしかして、貴婦人をモデルにしているんですか⁉︎」


「ええ! 理解者がいてくれて嬉しいわぁ。大抵の人達は、デザインなんてどうでもいいって言うのよ……。せっかく生み出した子供達なのに、無骨な姿で世に出そうだなんて、可哀想だと思わない?」


「思います! 店頭に並んでいる物を見ると、私だったらこうしたのにって思う物があって、ヤキモキしちゃうんですよね。そんな時は買って、ガワだけ変えちゃったりしてます!」


「貴女……私と気が合うわね! センスも高そうだし、私の研究室に遊びに来なさいな! 寧ろ、うちに来ない? お給料弾むわよー」


「いいんですか⁉︎ 是非、遊びに行かせて頂きます!」


 おいおい、僕の時とは大違いじゃないか。

 そんなラルトルから視線を送られるが、エリナはガン無視で対応する。

 そうしているうちにケーブルを繋ぎ終えて、扉に送電する準備が整った。


「遊んでないで始めるぞ、魔力を流せ」


 ジース教授が指示を出すと、若い錬金術師が魔力変換装置に魔力を流す。

 すると、扉が反応してヴンと音を立てて起動した。

 ゆっくりと自動で開く鉄の扉。

 その先には、暗い空間が広がっていた。


「……ミック隊長、先頭を頼めるか?」


「罠とか無いですかね? こんな場所の探索なんて、俺達には知識が無いですよ」


 ジース教授の申し出に難色を示すミック。

 危険な場所に行くのは構わない。だがそれは、対処法がある場合のみだ。

 警邏隊小隊長であるミックの肩には、部下達の命も掛かっている。無謀な行動は出来ないのだ。


 それを理解してか、ジース教授はそれ以上何も言わない。

 ならば、責任者である私が先に行くかと一歩を踏み出そうとする。しかし、それよりも先に銀髪の女性が前に出た。


「私が行く」


「ソフィ?」


「まかせて」


 何が?

 その声が音になる前にソフィアは遺跡の中に入ってしまった。


「ちょっ、ソフィ⁉︎」


 真っ暗闇に消えて行く相棒を追って、エリナも中に入る。

 携帯しているライトで正面を照らすと、壁に触れているソフィアの姿があった。


「ソフィ?」


「あった」


 何かを見つけたソフィアは、それを押すと天井の照明が点いた。


「え? 明かりが、点いた?」


 動力は無いんじゃないの?

 明かりが点くって事は、生きてるんだよね?

 でも、どうして明かりが点いたの?

 ソフィが点けた?

 どうやって?


「ソフィは、この遺跡を知ってるの?」


「知らない」


「じゃあ、どうやって明かりを点けたの?」


「似た所を知ってるから」


「似た所……それってどこ?」


「……………ん? ……………どこ? …………………どこだろう?」


「ええ〜」


 頭を捻りに捻って出した答えは、結局分からないという物だった。


「でも、役に立ったでしょ」


 腰に手を当てて告げるソフィア。

 そんなソフィアに向かって、


「うん、流石は私の相棒だね!」


 と、喜んで自慢した。





 正直、ソフィアの行動に釈然としない物はありつつも、危険が低下したのは事実だった。

 ソフィアの知識は後で確認するとして、今は遺跡の探索に集中しようという事になった。


「……ここが、前時代の建物……壁は何で出来ているのかな?」


 ミネルヴァで徐行しつつ、一行の先頭をエリナ達が行く。

 何故、エリナ達が先頭なのかというと、ミネルヴァに防御壁を発生させる能力があると知られているからだ。


 この機能が搭載していると話したのは、エリナ自身だ。


 一昨日の夜、ジース教授と雑談している時に聞かれて、素直に答えてしまった。

 これを、別に失敗だとは思っていない。

 その分、有益な話しは聞けたし、ジース教授がやっている『欠損した四肢の再生』という研究の内容も聞けた。


 むしろ、得をした気分だった。


 エリナが使っている、様々なグローブにも流用出来る上、更なる可能性を見出していた。


「早く帰って、研究したいなぁー」


 ついつい、本音が口から漏れてしまう。

 それも小声なので、後ろのソフィアにしか聞かれていないからセーフだ。


 遺跡の探索は順調に進んだ。

 これは、遺跡がほぼ当時のまま残っていたというのが大きい。

 所々、ヒビが入り埃が溜まっているが、それだけで他に目立った損傷は無い。


「まさか、これほど完全な状態で残っているとは……」


 と感心しているのは、ジース教授だ。

 それに同意するように、周囲も頷いており、よほど珍しい事なのだろう。


「ここ以外の遺跡って、どうなってるのかな?」


「教えてやろう」


 そう首を傾げたエリナに話し掛けて来たのは、緑髪のラルトルだ。

 近くに寄って来ていたラルトルに視線を向けると、得意げに話し始めた。


「大抵の遺跡は、荒廃して朽ちる寸前だ。その原因は、世界が改変した際に発生した魔力に抵抗出来なかったからだと言われている。残っている物の殆どは、自然の中に建築された物か、魔力に適応した物だけだ」


「魔力に適応って?」


「今判明しているのは、木造の建築物とかだな。加工されているにも関わらず、魔力が宿っていた。植物として死んでいるはずなのに、どうして宿ったのかは、未だに判明していない。興味が湧いたか?」


「少しは湧いたかな」


 遺跡という物に大して興味はなかったが、実際に触れてみると、どうしてそうなっているのか知りたくなってしまう。

 

 まあ、それも長く続くかは分からない。

 それだけ、やらないといけない事が多いから。


 広い廊下を進んでいると、幾つか扉が見えて来る。

 一つずつ扉を開いて中を覗くと、そこには手付かずの設備が残っており、興味がそそられる物が多く並んでいた。


「ここからは別れて調査する。何かあれば、近くの者に知らせるように。ではリンダ教授、そちらは任せましたよ」


 ジース教授が告げると、「ええ」とリンダ教授が頷く。表情はやる気に満ちており、それは他の調査員も同じだった。


 二グループに別れて行く調査員達。

 それに続いて、護衛の警邏隊も着いて行き、エリナ達だけがその場に取り残された。


「どうしようか?」


「うん?」


「寝よう」


「駄目。一応、今も仕事中なんだからね」


「ちぇ」


 唇を尖らせるソフィア。

 それを気にせずに、エリナはミネルヴァから降りて、遺跡の中を見回す。

 清潔感のある白に、繋ぎ目の見えない壁。その一部には真っ黒なパネルがあり、これに何かの映像を映していたのだと推測する。


「それ、たぶん動くよ」


「え?」


 今度はソフィアが降りて、黒いパネルに触れる。すると、画面に映像が流れ、図面のような物が表示された。


「これは……この遺跡よね? この赤い点が現在地かな?」


 それは、この遺跡の地図のような物だった。

 このフロアには六つの大きな部屋があり、研究施設に開発施設、倉庫に資料室、休憩スペースにリハビリ用のスペースが設けられていた。


「下もあるみたいね……あっ」


 地下には、実験施設と宿泊施設のような場所があるようだった。

 ふむふむと見ていると、突然画面が消えて黒いパネルに戻ってしまう。


「んー……ダメね、もう動きそうもないわ」


 黒いパネルに触れてみても、何も反応しなくなってしまった。


 これ、持って帰れないかな?

 そんな事を考えていると、ヒスルから声が上がった。


「あっ」


「ん? どうかしたの?」


「あそこ、男の子がいた」


 ヒスルが指差しているのは、この廊下の突き当たり。

 そんな場所に誰かがいるはずもなく、ましてや子供がいるとは思えなかった。


「もしかして、ゴースト?」


「え?」


「それは無い」


 モンスターの中には、実体を持たないゴーストと呼ばれるモンスターが存在する。

 様々な形を取り人を惑わすが、実体が無いというのもあり、攻撃力は皆無なのだ。そのゴーストなら、子供の姿を取る事も可能だった。


「ここに、モンスター化した亡者はいない」


 だけどそれは、ソフィアに否定された。


「じゃあ、見間違い?」


 そう尋ねると、ヒスルはフルフルと頭を振ってちゃんと見たと主張する。


 なら、行って確かめようと移動しようとすると、部屋を調べ終わったジース教授率いる調査班が出て来た。リンダ教授の方は、まだ時間が掛かっているみたいだ。


「どうした? 何かを見つけのか?」


「その、あの先に子供がいたみたいなんです」


「なに?」


 ジース教授が突き当たりを見ると、そちらに向かって歩き出す。それに着いて行くと、行き止まりに辿り着いた。


「何もいないが?」


 そう訝しんだ視線を向けて来るジース教授。

 それに対して返答しなければならないのだが、エリナはそれどころではなかった。


 どうして行き止まり?

 あの黒いパネルに映し出された物には、ここを曲がった所に階段があったはずだ。


「エリナ、どうかしたのか?」


 驚いているエリナを心配したラルトルが尋ねて来る。

 それに対して、壁を指差して答える。


「そこ……階段があるはずなのよ」


「……何も無いぞ」


 エリナが指差した先を見ても、そこにあるのは何の変哲もない壁。それは分かっているのだが、どうしてか違和感を感じた。

 全体の図面を見たというのもそうだが、その壁だけ妙に薄く感じたのだ。


「どいて」


 壁の前に突っ立っていたラルトルを押し退けて、壁の前に出るソフィア。

 そして、拳に魔力を込めると、「ふっ」と息を吐き出しながら拳を振り抜き、ドゴッ! という打撃音と共に、違和感のある壁を破壊してしまった。


 その先に現れたのは、地下へと続く階段だった。

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