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錬金術師の依頼4

 目的の遺跡に到着したのは、次の日の夕暮れ時だった。


 計画では、昼頃には到着する予定だったが、深い森の中というのもあり、かなりの数のモンスターに襲われてしまったのだ。


 基本的に、警邏隊が戦いを受け持ってくれたが、最後尾を行くエリナ達は積極的に狙われており、対処せざるを得なかった。


「ふっ」


 ソフィアの二丁魔銃が火を吹き、弱いモンスターを倒して行く。

 ハウンドドッグなどの生命力の強いモンスターには、ショットガンに魔弾を込めて対処する。


 バンッ! と乾いた音が鳴り、二体のハウンドドッグを弾き飛ばす。

 続くハウンドドッグも同様に始末して、あっという間に脅威は消え去った。


「やっぱり狙われてる」


 ソフィアは呟くが、誰の耳にも届かない。

 狙われていると言ったのは、この調査隊を指している。

 これだけの大人数で、それも一定の場所に止まっているのなら、それはモンスターから狙ってくれと言っているような物だった。


「いやはやお強いですな。是非、警邏隊で働いてろしいくらいですよ」


 そうソフィアに話し掛けて来たのは、警邏隊のミックだった。

 小太りという体型だが、部下に指示を出している姿や、ミック自身がモンスターを屠っている姿を見ており、やはり強いと確信する。


 ただし、その強さは小隊の中にいるからこそ発揮されている。

 ミック個人としても、それなりに強いのだが、最も目を見張るのはその適切な指示だった。

 モンスターの習性を頭の中に入れているようで、それに合った作戦を瞬時に立て、対応していた。


 流石は、小隊長を任されるだけはある。


 そうソフィアは評価した。


「ミー……ミートもかなりやる。戦い慣れてる」


 ミックの名前を忘れて、ミートボールのミートで誤魔化してみる。

 それを察してか、ミックは改めて自己紹介してくれた。


「ああ、自己紹介がまだでしたな、私はミックだ。気軽にミックさんと呼んでくれ」


 こちとら歳上だぞこの野郎と、ミックから圧が入る。

 だけど、それを気にしないソフィアは普通に返す。


「ソフィア、よろしくミート」


「覚える気がないのは、よく分かった。まあ、短い間だがよろしく頼む」


 握手を求められ、その手を握る。

 よく鍛えられている。

 小太りなのは見た目だけで、その下の筋肉は素晴らしい物だった。


 離れて行くミックの後ろ姿を眺めながら、背後に迫って来た生き残りのモンスターを始末する。





 キャンプする場所は、遺跡があるという洞窟から少し離れた開けた場所だった。

 周辺のモンスターの一掃が終わると、簡易結界を起動する。

 これは、キャサリ自治区の魔法部隊が使っていた物よりも、性能は上の物だ。と言っても、魔力消費が向上しているのと、小型化に成功しているという事くらいだが。


「明朝より遺跡の探索を行う。先頭と最後尾は警邏隊の者を配置した縦列で進む。エリナ、君達は前方を魔道バイクで照らしてほしい。頼めるか?」


「はい、それは構いませんが、モンスターに襲われたら、荷が傷付く恐れがありますけど……」


「その対策もしているのだろう? あの魔道バイク、普通の装備でない事くらい、私の目から見ても明らかだ」


 そう言われて反論が出来なかった。

 エリナの愛車であるミネルヴァには、錬金術師として学んだ知恵を活用して、様々な機能を施している。その上、先月の報酬で更に装備を追加しており、防御能力は大きく向上していた。


「次に調査班は二つに分ける。おい、黒髪の娘! 話を聞いているのか!」


 ジース教授は突然怒鳴り、黒髪の娘、ヤンを見ていた。


「す、すみません。少し、気になる事がありまして……」


「何だ、言ってみろ」


「その……班を分けて、調査の効率が落ちる恐れはないのかと思いまして」


 歯切れが悪く質問するヤン。

 その内容も、まるで無理矢理引き出したかのような物だった。


 どうしたんだろう?

 そう友人の心配をするエリナ。

 いつもの凛とした姿はなく、まるで自信が無いように見えてしまった。


「ふむ、その心配は無い。中にある物は先にも話た通り、前時代の研究施設だ。主に義手や義足、欠損した五感の代用品の開発を主に行っていたようだ。今とは違う技術により生み出された物を持ち帰るのが、この調査チームの目的だ。人数を分けなければ、むしろ捜索する効率が落ちるだけだ」


 そこまで聞いて、部外者のエリナがおずおずと手を上げる。


「どうした?」


「はい、部外者で恐縮なのですが。あの、遺跡の中って何があるのか分かっているんですか?」


 てっきり、新しく発見されていて、そこに初めて足を踏み入れるのだとばかり思っていた。

 そうでないのなら、何も残っていないのではないかと考えてしまったのだ。


「それはな、この遺跡の発見した経緯にまで遡る。ラルトル、お前が説明しなさい。ここを発見したのは、お前なんだからな……」


「はい!」


 緑の髪の青年が前に出て、得意げに話を始める。


 曰く、いつも勉強熱心な僕は、資料室で昔の文献を発見したそうな。

 その中には、前時代の地図の一部が残っており、もしやこれは……と気付いてしまったらしい。

 そう、世紀の大発見ではないかと。

 この事をジース教授に相談すると、地図の場所を特定する作業に入り、可能性がある場所を五箇所まで絞り込んだそうな。

 そこに、人を雇い行かせてみると、見事に遺跡を発見したのだとか。しかし、中に入ろうにも、扉は頑丈に閉まっており、動力がなければ動かない構造になっていた。

 この報告を受けて、錬金術師理事会に調査してくれと掛け合った所、「君が見つけたんでしょ? 資金は出すから君達が行って来て」と軽くあしらわれたそうな。


 そして、現在に至るという。


 遺跡の中が何なのかは、調べて行く内に判明したそうだ。


 ここまでを、長々と得意げに話をしていた。


 カタストロフィに手を掛けたソフィアは、いつでも撃てるよとエリナを見る。


「……撃っていい?」


「駄目、イライラするのは分かるけど、ここは我慢して」


 エリナはそれを静止するが、ラルトルが勝ち誇ったかのように見て来るので、撃って良いよと口が滑りそうになっていた。


 この後は班分けを行い、片方はジース教授がリーダーの組みと、リンダ教授という腰を痛めていたおばちゃんがリーダーの組みが出来上がった。


 これで話しは終わりとなり、解散となる。


 友人の様子が気になったエリナは、心配して声を掛けに向かう。


「ヤン、どうかしたの?」


「え? ああ、大丈夫。少し疲れて、ボウとしただけだから……」


 二日間掛けた長距離移動は、確かに大変だった。旅に慣れていない人達は疲れるのも、納得がいく。

 だけど、それだけではないような気がしてしまった。


「それにしても、エリナは凄いね」


「え?」


「ジース教授に名前を覚えてもらっている」


「それが凄い事なの?」


「そうだよ。ジース教授は、自分が認めた人の名前しか覚えないで有名な人なんだ」


「そうなんだ……」


 それは凄い事なのだろうか?

 ラルトルでも名前を呼ばれていたので、そう大した事ではないような気がしてしまう。それに、エリナとしては興味が無いので、それ以外の言葉が出て来なかった。


 そんなエリナの態度にヤンは苦笑して、「エリナは変わらないね」と言って離れて行ってしまった。


 その背中に、何も声を掛けられなくて、エリナは見送る事しか出来なかった。



 胸にモヤモヤを残しつつも、エリナ達もキャンプの準備を始める。

 一応、運び屋として参加しているので、自分達で寝床や夕食を準備しなければならない。昨日は普通のテントを張って休んだが、明日からは本格的に調査が始まるので、疲れを抜いておきたい。


「じゃあやるよ」


「あーい」


「うん」


 エリナは棒の束に向かって魔力を流す。

 すると、棒はひとりでに動き出し、それぞれが伸びて繋がって行き、横十メートル、縦三メートル、高さ二.五メートルの立方体を作り出す。そこで動きが止まると、蚊帳を降ろしたかのように鉛色の布で覆われた。


「よし、ヒーちゃん魔力流して固定して」


「うん」


 それに、ヒスルが手を付けて魔力を流して行く。

 今度は鉛色の布が枠に張り付き、まるで金属のように光沢を得る。それをコンコンとエリナが叩いて確かめ、「もういいよ」と声を掛けた。


「疲れた?」


「大丈夫」


 ソフィアの問いに、ヒスルは全然平気だといつも通りの顔で返す。

 だけれど、本番はここからだった。


「あとは、維持する魔力を流すだけなんだけれど……ヒーちゃん行ける?」


「うん、頑張る」


 グッと手を握って、私できるとアピールする。

 それに、心配はしていない。魔力を流すのは、ヒスルだけでなくエリナも一緒なのだから。


 この魔造型簡易住居である通称ポッターは、市販でも売られていた物だ。

 だが、これを建てるのに大人一人分の魔力を必要としており、半日維持するのに、大人四人分の魔力が必要と、燃費最悪な商品だったのだ。

 当然の事ながら売れなかった。

 興味本位で購入する人はいたが、一度使っただけで倉庫に眠るハメになった。

 これは、そんな倉庫で眠っていた物を、エリナが改良して何とか使えるようにした物だ。


「じゃあ、一緒に流そうか」


「うん」


 ポッターに手をつき、同時に魔力を流して行く。

 予め取り付けていたメーターから、十時間は形を維持できるように調整する。


「はあ、はあ」


「キツくなったら、手を離していいからね」


「大丈夫……」


 初めて大量の魔力消費を経験して、息が上がるヒスル。

 幼い体に、この現象は辛く感じるだろう。

 それでも、歯を食いしばって送り続けるのは、二人の役に立ちたいからだ。

 エリナに引き取られなければ、また孤児院に戻らなければならなかった。

 ソフィアに守られなければ、あの森でモンスターに殺されていた。

 だから、私もと幼いながらに考えて、必死になっていた。


 エリナはその気持ちを察して、この簡易住居を持って来いた。

 貴女は守られているだけの存在じゃなくて、私達の仲間なのよと、そう教えて上げるために活躍の場を用意しようとしたのだ。


 無償の愛。


 それを信じてくれたのなら良かったのだが、母を亡くして、孤児院でいじめられたヒスルは、そう簡単に信じてはくれない。

 徐々に心を開いて来てくれているが、まだまだ時間が掛かるだろう。


 だからこそ、エリナは一層魔力を流す。

 ヒスルの負担を減らす為に、一気に流して行く。


 魔力量を示すメモリが上がっていき、もう十分だとブザーが鳴る。


「よし、おしまい!」


「っは! ……はぁ」


 ヒスルは魔力の供給を止めると、体から力が抜けて腰を落としてしまった。


「お疲れ様。ヒーちゃん頑張ったね」


「……役に立った?」


「うん! ヒーちゃんのおかげで助かったよ! 私一人でやってたら、今頃倒れていたからね!」


 満面の笑みを浮かべて、ヒスルに告げると「やった」と嬉しそうに呟いていた。


「これはまた、大層な物を用意したものだ」


「ジース教授……」


 興味深そうに、ジース教授とラルトルがやって来た。


「すいません。もしかして、邪魔でした?」


「いや、構わん。これには、私も覚えがある。キャップ社の商品だったか?」


「そうです。少し手は加えてますけど、外装は変わっていません」


「とすると、改良したのは内装の方か」


「はい」


「中を覗いてみても良いか?」


「どうぞ」


 エリナがそう言うと、何故だか楽しそうにジース教授はポッターの扉を開いて中に入って行った。


「あんなに楽しそうな教授を見るのは久しぶりだ」


 ジース教授を見送ると、何故かラルトルが話し掛けて来た。

 別に興味は無いので、「そうなんだ」と返しておく。


「気に入られているようだな、エリナ。流石は僕のライバルだ!」


 ビシッとエリナを指差すラルトル。

 それを見て、「ライバル?」とヒスルが小首を傾げる。

「気にしなくていいからね」とエリナはヒスルの視界を遮って、ラルトルを見えなくする。


 こいつは、子供の教育に悪そうだ。

 そう判断したのだ。


「さっ、馬鹿はほっといて、夕飯の準備をしようね」


「誰が馬鹿だ! 待て、話はまだ終わってないぞ!」


 何なのよと、振り返ってラルトルの顔を睨む。

 すると、うっと声を上げてたじろいでいた。


「それで、なに? ご飯の準備しないといけないんだけど」


 不機嫌そうに、邪魔すんなこの野郎といった態度で応じる。


「ああ、えっと……エリナ、僕の助手にならないか?」


「…………は?」


 言っている意味が分からなかった。

 ラルトルが働いているのは、セントールの錬金術師会だ。

 セントールでは、錬金術師会に所属しなければ、錬金術師として働くのは許されていない。その所属条件も厳しく、錬金術師を育てる学校を卒業しなくてはならない。また、その学校に入学するのもハードルが高く、毎年二十名しか入学出来ない程の難関なのだ。

 それほどの狭き門を潜らなければ、セントールの錬金術師会には所属出来ない。


 だから、ここにいる錬金術師達は、セントールのエリートに当たる人達だった。


 そんな所に、何の資格もないエリナが参加していいはずがなかった。


「ラルトル、貴方は何を言っているの? そんな事出来るはずないでしょう」


 その質問に対して、首を振って否定するラルトル。


「出来るんだ。あくまで、研究室を待つ者が所属している必要があるだけで、雇う人物は、そこの室長に任されている」


「……そうなんだ」


「エリナは、ひとりで錬金術の研究をしているんだろう? だったら、僕の所に……」


「待って。先に言っておくけど、私は貴方の下につく気は無いよ。今の私は運び屋であって、錬金術の研究は使えるからやっているだけ。そもそも、ラルトルは自分の研究室を持っているの?」


 そう尋ねると、ラルトルは口を閉じてエリナを真っ直ぐに見る。


「この調査が終われば、ジース教授が推薦してくれる予定になっている。どうだ、僕の所に来てくれたら、君もまた錬金術師として研究が出来るんだ。こんな、運び屋なんて仕事っ⁉︎」


「それ以上はやめて」


 ラルトルを冷たく睨み、ピシャリと言葉を遮る。


「前にも言ったけど、私は運び屋の仕事を選んだの。そりゃ、最初は嫌々だったけど、今ではこの仕事をしていて良かったと思ってるのよ。運び屋をやってなかったら、ヒーちゃんにも会えなかったしね〜」


 笑みを浮かべてヒスルを見る。

 そして最後に、


「それに、私がラルトルの助手になったら、もうライバルって言えないんじゃないの?」


「うっ⁉︎」


 笑みを浮かべたままラルトルに言うと、図星をつかれたのか顔を赤くして胸を押さえていた。


 そんなラルトルを残して、三人は晩御飯の準備に取り掛かる。

 予め作っていただろうカレーの匂いが、多くの人の食欲を刺激した。

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