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第0066撃「僕はこの瞳で嘘をつく」の巻


平成3年1992年、1月、中学3年の冬休み。


元旦。

小生の家では、大晦日に母と祖母が拵えるおせち料理が、

とりわけ美味しかったです。


母は朝から起きていました。

祖母も同様です。

そして小生も、もちろん早くから目を覚ましていました。


理由は、冬休みの宿題に取りかかるため――

と、言いたいところですが。


NO! NO!

おせちが食べたいのと、

母と祖母からお年玉を貰うためです。


もっとも、

そんな小生の魂胆など、とっくに見透かされていたようで、

二人から、ずしりと膨らんだポチ袋を手渡されました。

「大切につかいなさいよ」と、母は言います。


祖母は、なんと一万円も入れてくれていました。

五千円だった母は、

「そんなにあげなくていいのに。

直時! おばあちゃんに感謝しいや!」

と、少し慌て気味に言いました。


その頃の小生は、

祖母をからかうように「ばあや!」と呼ぶことがあり、

祖母からすれば、

さぞかし憎たらしい孫だったに違いありません。


それでも祖母にとって、

住む場所はこの家しかなく、

母への義理から高額な万札を入れてくれたのか。

それとも、赤ん坊の頃から十五年も可愛がってきた孫だから、

最近「ばあや」などと呼ばれても、

憎らしさの奥に、

少しばかりの愛情が残っていたのだろうか。


「ばあや!」と声に出すと、

祖母は露骨に不愉快な顔をしました。

小生はそれを、内心で愉しんでいました。

まったく、嫌味な孫です。


祖母が部屋でお年玉を準備する物音を立て始めたときなど、

少しでも増額を狙おうと、

態度をくるりと変え、

「おばあちゃん〜♪」と、妙に甘えた声を出したりもしました。

本当に、嫌味な孫です。


おせちを食べ尽くした三日目あたりからは、

祖母が台所でお雑煮を作ってくれました。


正月も五日目くらいになると、

泡嶋本町商店街の店々が、

ようやくシャッターを開け始めます。

小生はお年玉をぎゅっと握りしめ、

自転車でレコード店『エコーズ』へ向かいました。


槇原敬之がこれまでに出したアルバムを、

じっくり味わってみたいと思ったからです。


他のアーティストのアルバムについては、

東京少年のCDをレンタル店で借りたり、

大江千里のアルバムをカセットで買ったことはありました。

しかし、

邦楽でCD盤のアルバムを自分で買うのは、

これが初めてでした。

※イタリアンミュージック(サンレモ系カンツォーネ)を含めれば、

他にアルバムのCDは買っています。


幸運なことに、

槇原の過去のアルバムが二枚、棚に並んでいました。

『君が笑うとき君の胸が痛まないように』

そして、

『君は誰と幸せなあくびをしますか。』

小生は迷わず二枚とも購入しました。


帰宅するなり、

CDラジカセで再生します。

買って大正解でした。

ごろりと横になりながら、

二枚のCDを交互に入れ替えるという、

実に贅沢な聴き方をしました。


そんなとき、電話が鳴りました。

甲村からです。

「家に遊びに来いよ〜」

それが第一声でした。


三号館にある甲村の家は、

小生の家より、二部屋ほど広い。

正月ということもあり、ご両親が在宅だったので、

丁寧にお辞儀をして、年始の挨拶をしました。


甲村の部屋に入ると、

彼は決まって流すCD、

CHAGE and ASKAのアルバム『TREE』を再生しました。


小生がチャゲアスを聴き始めたのも、

彼がこの『TREE』をカセットに録音してくれてからです。


当時、

テレビドラマ『101回目のプロポーズ』で流れていた

『SAY YES』の影響もあり、

チャゲアスは人気絶頂でした。

甲村が録音してくれたそのカセットテープを、

A面、B面、A面、B面、A面、B面……と、

毎日何度も何度も繰り返し聴いていたものです。


『僕はこの瞳で嘘をつく』が流れ始めると、

甲村のやつ急に上機嫌になり、

ASKAになりきって、身ぶり手ぶりで歌い出します。

先にASKA役を取られてしまうと、

小生までASKAをやるのは、

さすがに間抜けです。

しようがないので、

小生はCHAGE役に回るしかありません。


二人で大声を張り上げていると、

ほどなく、

甲村の優しいお母さんが、

小生のぶんまで温かいお雑煮を持ってきてくれました。


歌をひと休みし、

お雑煮を啜っていると、

甲村が楽しそうに顔を覗き込みます。

「なあ、おれたちもバンド組もうや!」

「おぅ! やろうや!」

小生は即答でした。


まずは、バンド名です。

CHAGE and ASKAの影響を受けすぎた我々は、

第一候補として、

『鬱&ナオ』を挙げました。

「鬱」の字は画数が多く、

その複雑さに甲村は惹かれたようです。

あるいは、

彼の内面にも、

憂鬱な何かが流れていたのかもしれません。


とはいえ、

さすがに「鬱」では運気が暗そうだ、ということで、

英字表記に変更し、

『UTU&NAO』に落ち着きました。


こうして小生たちは、まさに今、

ツインボーカルのデュオを結成したのだ!


さて、

甲村の家には、

乾電池でも動くカラオケ用スピーカーがありました。

音量MAXで歌っていると、

彼のお父さんが殴り込みのように現れ、

「あほか!

家の中で大音量で歌うな!

外でやれ!」

と、一喝されました。


そこで思い出したのが、

二号館のマンション一階の駐輪場の柱にある、

清掃員たちが掃除機を使うためのコンセントです。

我々はスピーカーとマイクを持ち出し、

無断で電源を取り、

もちろん大音量で歌い始めました。


通りかかる住民は、

「何が起きているんだ」という顔で去っていきます。

上の階あたりの不寛容な住民が通報したのだろうか(!)

やがて管理組合の警備兵が押し寄せ、

あっけなくコンセントを引き抜かれ、

「ここで歌うな! よそでやれ!」

と怒鳴られました。


しかし、

それくらいで歌をやめる我々ではありません。


単1乾電池を八本調達し、

スピーカーを自転車の荷台にくくりつけ、

マイクをかごに突っ込み、

淀川の河川敷へ向かいました。


一月の極寒の淀川。

ときおりボディーブローを食らわしてくる容赦のない北風に転がされつつ、

二人はローソンでコピーした歌詞カードを必死に押さえ、

『僕はこの瞳で嘘をつく』『SAY YES』を熱唱します。


対岸の北区のマンションのベランダから、

住民が身を乗り出すほどの爆音でした。


二曲歌い終えただけで、

小生たちは、

ぽわん、と意識が抜けました。

三曲目からは、

曲だけが虚しく鳴っていました。

汗が冷え、

寒さが骨に沁みます。


「そろそろ帰るか」

暖房の効いた家が恋しくなり、

自転車を急いで漕いで帰路につきました。


こうして我々は、

無観客の野外ゲリラライブで、

華々しく(?)デビューしたことにしたのです。


その頃、

小生の強迫性障害は、

物の輪郭の角が異様に気になる段階に入り、

手の甲をわざとぶつけて、

その痛みを確かめずにはいられなくなっていました。


CHAGE and ASKA「僕はこの瞳で嘘をつく」(1991年)

YouTubeで視聴する https://youtu.be/UFWT8IzDlMI?si=6Si1_zcWEhSXPvgJ


CHAGE and ASKA「SAY YES」(1991年)

YouTubeで視聴する https://youtu.be/Q9qAyt0G-jM?si=eCmo9ImNWJvVVoiK


続く。果てしなく続く……。



いつもお読みくださり、

無限の無限のありがとうございまする☆

ブックマーク(フォロー)していただけますと嬉しいです。

では、ご氣元よう‼️

( ⸝⸝•ᴗ•⸝⸝ )੭⁾⁾

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