表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/66

第0060撃「メタ氏、呪術養成講座を知る!!」の巻


平成3年1991年、10月、中学3年の2学期。


「日武会」という通販会社がありました。


週刊少年ジャンプの広告ページで知り、

「豪華カタログ、無料進呈!」の謳い文句にすっかり釣られて、

カタログだけなら、と早速申し込んでいたのでした。


年に四回発行される結構分厚めのカタログが、

ある日ふいに郵便受けに投函されているのを発見したときの、

小生の期待度は千%でした。

そして、急いで自宅に持ち帰り、封を開けるのでした。


中身といえば、

プロレスラー推薦の各種トレーニング器具、

金運爆上がりのネックレス、

片思いの女の子が自分にメロメロとなる香水!

どれもこれも、欲望のど真ん中を突いてきます。


そんななかで、ひときわ心を奪ったものがありました。


それが「呪術養成講座」という通信教育のテキストの宣伝。

「じゅじゅつ」と読むのを知らなかった小生は、

「のろいじゅつ」と読み違え、

もうどうしても欲しくてたまらなかったのです。


是非とも習得して、

いじめてきた奴らをことごとく呪い倒してやる。

そう思うと胸の奥からワクワクがあふれて止まりませんでした。


小生は四ページにもわたる広告を切り取り、

学校にまで持ち込み、

休み時間にひとりで食い入るように眺めました。


鬼気迫る陰気なオーラを纏った小生を、

ひょうきんな同級生たちが見逃すはずもなく、

「夢野ー、さっきから何読んでんねん?」と首を突っ込みます。


愚かにも、小生は自慢げに広告を広げて見せました。

「『のろいじゅつ』を勉強し始めたんだ」


こういうのは黙っておけばよいものを……、

まだ講座を入手してもいないのにも関わらずです。


同級生たちはすぐにドン引きし、

「こいつ危ない、関わるのやめとこ」

とばかりに離れていきました。


小生に畏れをなしたものだと勝手に思い、

それだけでも快感でした。


いよいよ通信講座を注文しようと、

母に相談、というより「買います宣告」をしました。


「バカか、おまえは」

母は一笑に付し、

くだらんものに金を使うなと叱りつけました。


勝手に注文したら支払い時にこっぴどく叱責され、

数日間はまともに飯を食わせてもらえないでしょう。


消化不良気分のままカタログをめくると、

リストウエイトなるものが目にとまりました。

片腕で五キロまで重さを増やせるという、

なんとも屈強そうな代物。


金属の延べ棒を一本いっぽん出し入れすることで、

重量を調節出来るのです。

筋骨隆々の格闘家が逞ましい前腕に装着している見栄えのする写真を見て、

将来の自分を重ね合わせました。


「呪術養成講座」ほどの魅力は感じませんでしたが、

しようがないからこれでも買っとこうか、と思いました。

母に告げると、しぶしぶ了承。


小生は多坂(仮名)に暴行を受けて以来、

数年ぶりに再び、

マンションの地下ショッピングセンターの文化教室にある、

糸東流空手の道場に通い始めていました。


そこには中学の同級生たちも数人通っているようで、

彼らはすでに茶帯とかになっているのでした。

小生はその空手道場に片腕五キロのごついリストウエイトを、

目一杯最大重量の負荷にして道場に入りました。

門下生たちが笑っていました。


いざ、稽古が始まり、正拳突きなど反復するのですが、

重た過ぎてスローモーションのような動きとなり、

挙げ句、リストウエイトを締めるマジックテープが、

重さに耐えかねてバリバリッと音を立てて剥がれ、

ドシン! と床に落下しました。


それまで黙認していた師範はとうとう堪忍袋の緒が切れたようで、

リストウエイトを道場の隅っこに置くよう怒鳴りました。

門下生たちにいっそう笑われました。


さて、そういう秘密道具というものは、

本来こっそり鍛錬するのが美学のはず。

ところが小生は中学の教室にまで持ち込みました。

「すげえ!」と驚きの声に、

小生は無意味な満悦にひたりました。


まだ何もしていないのに、

自分がさも強くなったかのような馬鹿な勘違いを犯したのです。


下校するとき郷平(仮名)がいいものを見せたる、

と自宅に誘ってくれました。


彼の部屋に入ると早速彼は、

所有しているトレーニング器具を見せてくれました。

ハンドグリップは基本中の基本のようで、

やたら硬いそれを郷平はいとも簡単に、

グイグイと握りこむのでした。


他に出したのはリストウエイトでした。

重さは意外にも軽く五百グラム程度、

おそらく一キロも無かったと思います。

彼曰く、重過ぎるとかえって意味がなく、

これくらいの重さのほうが効果があるで、

と無知な小生に教えてくれました。


後日、下校時、自宅の玄関付近を、

小生を暴行していた一人である派口(仮名)が待ち構えているのに気づき、

慌ててマンションの坂を下り、

ローソンの店頭にある公衆電話に逃げ込みます。

震える手でテレホンカードを差し込み、

自宅の祖母を呼び出しました。


駆けつけた祖母は、

待ち伏せしていた派口を一喝。

なんとか帰宅できましたが、

祖母からは、「なおちゃんは男のくせに根性無しや」と言われて、

まったく頭が上がりませんでした。


数日後、油断した瞬間でした。

マンションの階段を上がり始めた小生に、

派口が二階から牙をむいて駆け下りてきました。

両手で手すりをつかみ、足の裏で小生の顔を蹴り落としたのです。


小生は一階の床のタイルに叩きつけられ、

目の前が暗転しました。


帰宅すると、恐怖のあまり反撃できなかった悔しさがあふれ、

ベッドの上で泣きじゃくりました。


そのとき、心配した愛犬ぺるがそっと寄り添い、

小生の頬を舐めて慰めようとしました。


──しかし小生は、

「ぺるにおれの苦しみの何がわかる!」


そう叫んで、ぺるの顔を殴りつけてしまったのです。

驚いたぺるは部屋の隅へ逃げ、

小さな体を震わせてこちらを見ようともしません。


ぺるが差し伸べてくれた優しさを受け取れない。

小生は自らを孤独の底に追いやらねばならない。

愛される資格などないのだ、と感じていたのでした。


ぺるだけがいつも小生に寄り添ってくれる、

ただひとりの「友」そして「家族」だというのに……。


小生の泣き叫ぶ声が聞こえてほうっておけなくなったのか、

隣りの部屋の祖母が扉をあけて入ってきて、

「なおちゃんの好きな焼き鳥を買ってきたらいいよ」

そう言って、五百円玉を机に置きました。


マンションフォーエバーからグラウンドまでの途中に建ち並ぶ、

商店の一番端に「チキンデリカみなみかわ」という焼き鳥屋があります。

陳列ガラスケースに何種類もの串がずらり並び、

小生のお気に入りは、なんといっても「若鳥串焼」。

一本四十五円の安さ。十本買ってもワンコインで済むのです。


おまけに、いつも店員が気を利かせて、

甘いタレを多めに注いでくれていました。

もちろん、十本買いました。


「ぺる吉っさーん! さっきはほんとにごめんよ〜。

焼き鳥買ってきたでー、

機嫌なおして一緒に食べようよぉ〜」

帰宅して真っ先にぺるを呼びました。


ごはんを茶碗によそい、焼き鳥の入った紙袋を開けました。

すると、ぺるがおそるおそる近づいてきました。


一本目の串をそのまま、ぺるの口元に近づけました。

「ぺるから先に食べていいよ」


ぺるが先端を咥えてあごに力を入れて、

抜きとろうとします。

なかなか抜けず、小生も力をこめて串を引きます。

綱引きごっこみたいな状態が続きます。

やがて取れて、ぺるは夢中でクチャクチャと食べました。


今度はぺるが楽に食べられるように、

小生が自分が噛んで一個ずつ抜いては、

口移しでぺるに与えました。


「やっぱり美味しいものはぺると一緒に食べると楽しいな」

ふたりで焼き鳥を平らげ、

紙袋をひらいて内側に付いていたタレを小生は舐め、

紙袋を床に置いてあげました。

ぺるは無我夢中でそれを舐め、

タレの跡を一滴残さず消えてなくなるまで綺麗にするのでした。


テレビから流れるJALPAKのCM「I'llアイル」。

川村かおりが「I’ll Be There」の曲に合わせて、

ダンスしながら颯爽と歩いています。


小生の胸のざわめきは、ようやく鎮まっていったのでした。


JALPAKのCM「I'llアイル」(1991年)

YouTubeで視聴する https://youtu.be/WFld9O2ilns?si=TgheGtIK0elsnJ4S


続く。果てしなく続く……。



いつもお読みくださり、

無限の無限のありがとうございまする☆

ブックマーク(フォロー)していただけますと嬉しいです。

では、ご氣元よう‼️

( ⸝⸝•ᴗ•⸝⸝ )੭⁾⁾


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ