第0057撃「メタ氏、マツゲをヌク!!」の巻
平成3年1991年、9月、中学3年の2学期。
小生は、自宅の玄関に据えられた大きな鏡の前で、
じっと自分の眼を見つめておりました。
黒々とした長い睫毛。
「おまえは睫毛が長くて、いいかたちをしてる」
そう言って母が褒めてくれた記憶が、幼い日の残像のように甦ってまいります。
ところが小生、ふと衝動に駆られ、ハサミを手にとってしまいました。
上瞼に弧を描いて横一列に並ぶ太くて長い睫毛を、
ジョキジョキと切り落としていったのです。
歯切れのよい音が、鏡のなかに響きました。
切り終えたあとの、根元からわずか一ミリほど顔を覗かせている睫毛が、
気になって仕方がありません。
人差し指の腹でなぞれば、ゾリゾリと小気味よい音がいたしました。
母の化粧台――右側の引き出しには毛抜きのピンセットがある。
その所在を小生は知っておりました。
母はちょうど外出中。
好機到来とばかりに、こっそりと拝借いたしました。
玄関の鏡を前にして、一本の睫毛をピンセットで摘み、引き抜きました。
上瞼が限界まで引っ張られ、ぷるんと抜ける瞬間のあの快感。
二本目、三本目と次々に手を伸ばすうち、
涙と充血にまみれながらも、ついに左右の上瞼をすべて抜き切ってしまったのであります。
下瞼は皮膚が薄く、痛みに耐えかねると判断し、手を出すのはやめにしました。
上瞼は見事につるつるとなり、
小生はすっきり爽快な気分に包まれました。
やがて学校へ登校する日。
しばらくは誰ひとりとして、小生の上瞼に睫毛が皆無であることに気づきませんでした。
ところが数日も経たぬうちに、同級生の布原(仮名)が、
じっと小生の眼を覗き込んだかと思うと、ハッと顔色を変えました。
「夢野っ、睫毛無いぞ! どうしたんや!?」
チッ、見破られてしまったか……。
「おまえ、なんかおかしな病気に罹ってるんやないか!」
「絶対に言うなよ! 言ったら呪い殺すで」
小生が即座に警告すると、布原はこくこくと頷き、慌てて去ってゆきました。
しかしながら、噂というやつは恐ろしく速いものです。
学年中に瞬く間に広まり、
校内の廊下をすれ違う生徒らが口々に、
「おい、ピッコロ!」
と声を掛けてくるのでありました。
(*漫画『ドラゴンボール』に登場するピッコロ大魔王の意)
TUBE「さよならイエスタデイ」(1991年)
YouTubeで視聴する https://youtu.be/ktJruTAByGc?si=MMyoFxBOw0q9_ADT
続く。果てしなく続く……。
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