第0054撃「メタ氏、好きな女の子のおうちに漫画を投げこむ!!」の巻
平成3年1991年、7月、中学3年の夏休み。
小生や甲村(仮名)の住んでいたマンション――その名も『フォーエバー』。
このマンションでは毎年、住人各戸に一冊ずつ、名簿の冊子が配布されておりました。
そこには、各住戸の号室、世帯主の氏名、そして固定電話番号まで載っていました。
小生、以前より白鳥美子さん(仮名)が、
フォーエバーの敷地の坂をのぼって帰る姿を見かけていたので、
彼女もこの建物の住人なのだろうと思っておりました。
そんなある日、ふとした気まぐれで名簿の五十音索引をペラペラめくり、
「しらとり」の項を覗いてみると……なんと、ありました。
四号館の五階、◯◯◯号室に「白鳥」の文字。
その瞬間、小生のなかの暇と好奇心が手を取り合って踊り出しました。
いてもたってもいられず、悪友・甲村を誘い出し、
「ちょっと五階まで見物にいこうや」となったわけです。
長い共用廊下を進みながら、一軒一軒、表札を確認していきますと――
ありました。白鳥、とあります。
しかも、なんということでしょう。
その玄関の鉄扉が、二十センチばかり開いた状態で、何かに固定されていたのです。
誘惑に勝てず、つい頭蓋骨を突っこんで覗いてみますと、
リビングの照明は点いておらず、
ただただ昼の自然光が、カーテンの隙間から静かに部屋を照らしておりました。
誰の声もせず、気配もない。
おそらく、ベランダから入った風が玄関の隙間から抜けていくのでしょう、
わずかにカーテンが揺れておりました。
「代われよ」と言う甲村と、二、三度かわるがわる交代しながら覗き、
そのまま抜き足差し足で共用廊下をエレベーターのほうへ。
が、エレベーターを待っている余裕もなく、
非常階段をダダダと駆け下りたのでありました。
さて、そんな夏休みのある日。
小生はGペンとケント紙を手に、漫画を描いておりました。
舞台は宇宙。
敵に母艦を撃破され、ポツンと漂う戦闘機の孤独な旅路――
というようなシーンを、五、六枚ほど描いたところで、満足しました。
コピーを取るわけでもなく、
インクの香りもまだ濃厚な原稿を、そのままスーパーの白いビニール袋へ突っ込みます。
心細いので、今回も甲村を引き連れ、
例の白鳥邸へと向かったわけです。
前回と同様、玄関の扉は二十センチほど開いたまま。
アメリカ映画によくある、
新聞配達の少年が夕刊を庭先へポーンと放る場面を思い出しつつ、
小生もまた、リビングの奥を目がけて、袋をエイっと投擲。
予想以上にいい飛距離を出し、
袋は見事、リビングの壁に当たって「バサッ」と音を立てて落ちました。
――そのときです。
「誰じゃ!!」
怒鳴り声がマンション中に響き渡りました。
見ると、奥から現れたのは高校生くらいの男子。
おそらく白鳥の兄貴に違いありません。
「やべっ、逃げろッ!!」
小生と甲村は、廊下をドタドタと走り抜け、
再び非常階段を猛スピードで見苦しく駆け下りたのでありました。
が、これに懲りなかったのが、小生の浅はかさ。
また新たな漫画を描き上げ、
原画のままビニール袋に詰め、
再び白鳥邸へ。
今度は、無情にも鉄扉はピッタリ閉じられておりました。
しかたなく、インターホンを鳴らします。
「はいー」
白鳥の母と思しき女性の声が。
「あの、美子さんに渡したいものがあるんですけど……」と、やや恐縮しながら申し出ると、
女性は中へ声をかけ、白鳥本人が出てきました。
が、その表情といったら――
不機嫌そうに眉を寄せております。
「漫画、持ってきたんやけど……」と差し出すと、
「もういい!」
ピシャリと斬り捨てるような声が返ってきました。
「はい、そうですか」と、
小生は素直に応じ……いや、正確には、瞬間的に心がポキリと折れ、
くだらない書き下ろし漫画を詰めたビニール袋を手に、
とぼとぼと、二号館へと帰ることになったのでした。
あっけなく、格好悪くふられたのでした。
暑い、夏の夕暮れでありました。
大江千里「格好悪いふられ方」(1991年)
YouTubeで視聴する https://youtu.be/jvZWWfn-Gl8?si=O4PtEME1Coawp8Ux
SpotifyでCDアルバムまるごと聴く https://open.spotify.com/album/7aW0pHg0oF6BGpFyxGofkN?si=8GeXBmjUSouVtHhOZlGu-g
続く。果てしなく続く……。
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