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第0053撃「メタ氏、友人がファミコンを盗まれる!!」の巻


平成3年1991年、7月、中学3年の夏休み。


夏休みは、たいてい甲村(仮名)とつるんでおりました。

「カケルの家にでも遊びに行こうや」

そう言って甲村が誘うので、

七菱翔(仮名)――通称カケル――の家へと出かけることが、

わりと頻繁にあったのです。

小生たちは親しみを込めて、

七菱のことをカケルと呼んでおりました。


カケルの家というのが、

小生と甲村が住んでいるマンション「フォーエバー」から歩いて数分、

高層の市営住宅の三階という、わりと近場でありました。

外の芝生からその三階を見上げて、甲村が大声を出します。


「おい、カケルー! 家攻めに来たぞー!」


しばし待機していると、ベランダにカケルが登場。

「なんや、攻めに来たんやったら、とっとと帰れや!」と、

一見めんどくさそうに声をかけてきます。


「わかったって! うそやって! 家、行ってええやろ?」

そう甲村が返すと、カケルは無言で指をクイッと。

来てもいいぞ、の合図です。

小生たちはエレベーターに乗り込み、三階へと上がってゆきます。


問題は、カケルの部屋がとにかく暑いこと。

エアコンなどという文明の利器は存在せず、扇風機のみ。

その頼りない風も、気休め程度にしかならず。


カケルはというと、自分専用の冷えた麦茶を、

ガラスのコップでコポコポ飲んでおります。

「おまえも飲むか?」と差し出してはくれたのですが、

甲村の証言によれば、「あれには中国の怪しい漢方が入っとる」とのこと。

小生は喉の渇きと、得体の知れぬ薬草への警戒心とで、

結局、遠慮してしまったのでした。


そんなこんなで、くだらない話をカケルが理屈っぽく語るのを、

小生たちは笑ったり、反論してみたりしながら、実に愉しんでいたのです。


ところが突然、小生に便意が訪れました。

しかし、他人の家のトイレ――いや、ここはあえて「便所」と呼ぶべきか――、

その便座に肌を密着させることに、どうにも落ち着かなさを覚えるのであります。


「おれ、先、帰るわ」

そう言って急ぎ腰を上げると、

「おい〜、もう帰るんかよ〜」と、カケルと甲村がつまらなそうな顔をします。


小生はそそくさと部屋をあとにしました。

向かうはエレベーターホールではなく、反対側の非常階段。


目的はただひとつ。

非常階段をトイレがわりに、うんこをしようという決意です。

いわゆる、野糞というやつであります。


とてもではないが、自宅まではもちません。

三階付近で座りこんだら、上階からの住人と鉢合わせするリスクが高い。

ならば、と八階まで登ることに。

九階以上の住人が一階まで下りるために、

わざわざ階段を使う可能性は低い――という読みです。


小生は八階と九階のあいだの階段で、そわそわと不審な動きを見せつつ、

制服の黒ズボンを中途半端に下ろし、ついにブツを落としました。


そのサイズたるや、ジュースの缶を凌駕するのではないかという立派さ。


非常階段の斜め上に、ぽっかりと青空がひろがっておりました。

その抜けるような明るさに、ふと小生は肩の力が抜けていくのを覚えました。


鼻をくすぐるのは、夏のいい匂いです。

コンクリートの階段がじりじりと熱を帯びる匂いと、

どこかで誰かが干している洗濯物の匂いとが、

ゆるやかに混じり合い、

まるで季節そのものが階段にしみこんでいるかのようでありました。


しかし、もし誰かが階段をのぼってきたならば、

この光景はどう映るだろうか。

風流どころか、ただの猥雑な騒動であろうことは想像に難くありません。


それでも、夏の青空に免じて許してはもらえまいか。

そんな甘えにも似た心持ちで、

小生はしばし、空とブツとを見比べておりました。


むかしからよく言います。

「犯人は現場に戻る」と。


まさにその通りでした。

数日後、またカケルの家を訪れた際、

小生はわざわざ八階の非常階段へと足を運び、

あのうんこの行方を確認しに行ったのです。


ところが、無い。

あれほど立派だったうんこが、見事に消えているではありませんか。


自然消滅などするはずもない。

わずかに、コンクリートの面にうっすらと痕跡らしきものが見えます。


きっと、どこかの住人が、迷惑そうな顔を浮かべながら、

トングか何かでそっと始末してくださったのでしょう。


本当に、申し訳ないことをいたしました。


とはいえ、カケルの家では、それどころの騒ぎではなかったのです。

すでに甲村が到着しており、カケルは血相を変えて深刻な顔。


聞けば、留守中に空き巣が入り、

ファミコンを盗まれた、とのこと。


小生はなんとしても役に立ちたいと決意しました。

思い出したのは、最近読んだ『ムー』か何かの雑誌に載っていた、

「指紋を浮き上がらせる裏技」。


片栗粉とボウルを借りて、水で溶かし、

カケルの部屋のあちこち、手が触れそうな場所に、ベタベタと塗りまくります。


結果、室内は薄汚く白くなっていくだけで、

指紋など一つも浮かび上がりません。


そうこうしていると、カケルが通報していた警官が二名到着。

一気に場の空気が引き締まります。


「あー、また誰か知らんが、いらんことしたね」


警官が、実に面倒そうにつぶやきました。

つまり、小生の“知恵”は完全なる空振りだったのです。


挙句、「証拠隠滅のために片栗粉を塗ったのでは?」

「いや、そもそも夢野(小生)が犯人なんじゃ?」という疑惑まで浮上。


まあ、警察の捜査を妨害してしまったのですから、

容疑者扱いされたとて文句は言えますまい。


そんな波乱含みの夏休みの中、

カケルが提案しました。


「交換ノートしないか?」


三人で一冊の大学ノートを回しあい、

シャーペン、ボールペン、蛍光カラーペンなど駆使して、

自由気ままに日々のことやくだらない話を書き連ねる。


それはそれで、なかなか楽しい時間でした。


が、数日後のこと。

小生がカケルの家に交換ノートを取りに行ったとき、

ドアが少し開き、なかからボロボロに破られたノートが、

玄関の外へと放り投げられました。


“おまえとはもうせん!”と殴り書き。


ノートは、縦に四分の三ほどまで破かれていました。


どうやら、小生がまたしても、

悪気なく何か不愉快なことを書いてしまったらしいのです。


フォーエバーへと帰る途中、歩道の街路樹で、

セミが忙しなく鳴いておりました。


その声がやけに空しく、

耳の奥で、いつまでもジリジリと響いておりました。


障子久美「あの頃のように」(1991年)

YouTubeで視聴する https://youtu.be/NIik4zCyGws?si=SghbLeEpXM6eYlon


Spotifyで当時のアルバムごと視聴する https://open.spotify.com/album/1W6aDQRCtZfzHFTFzy3XPE?si=4PfCMJ0fQVe_LYVC5sBKVQ


続く。果てしなく続く……。




いつもお読みくださり、

無限の無限のありがとうございまする☆

ブックマーク(フォロー)していただけますと嬉しいです。

では、ご氣元よう‼️

( ⸝⸝•ᴗ•⸝⸝ )੭⁾⁾


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