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第0052撃「メタ氏、素晴らしき歌声の牧師と出逢う!!」の巻


平成3年1991年、7月、中学3年の夏休み。


夏休みに入ったと思ったら、

気がつけば、もう数日が過ぎておりました。


小生は、以前より近所のプロテスタント教会、泡嶋教会に通っておりまして、

毎週、日曜の朝は欠かさず、礼拝に出ておったのです。

そんなある日、安西牧師(仮名)が重大発表をいたしました。


「今年も大阪府下の教会で、中高生合同キャンプをやるよ!」


待ってました!

小生が夏休みに、唯一とも言える期待を寄せていたのが、まさにそれであります。


極度の人見知り、

ひいては、にんげんという生きものそのものが苦手な小生でありますが、

こういう集まりには、なぜか、ひょいと顔を出してしまう性質でして……。

かなしいかな、これはもう性分というやつであります。


さっそく案内のプリントを母に差し出したところ、

母は「いいわよ、じゃあ行ってきなさい」と、

参加費七千円を快く出してくれました。


たしか、行き先は奈良の山のあたりだったと思います。

泡嶋駅を出発し、道中で何人かと合流、

電車に揺られること二、三時間。


小生はと申しますと、

知らない人に話しかけるのが苦手なもので、

結果、気心の知れた安西牧師ばかりと話しておりました。


電車を降りてからは、

空気の清らかな山の奥へと足を運び、宿泊所を目指して歩きました。


荷物が重いのです。

早く着きたいと願えば願うほど、

リュックの中身がずっしりと質量を増していくような錯覚に陥るのでした。


ようやく宿に着くと、

参加者の中高生は十五名ほどいたようでした。


その日はもう疲れてしまい、

夕食を終えると、布団に沈みこむように横になりました。


すると、山の夜風が網戸を通り抜けて、

ひんやりと頬を撫でながら、

どこからともなく、オペラ風の男性の歌声が聴こえてきたのでした。


二日目の朝は早うございました。

みな、のらりくらりと起き出して、広場に集合。

丸太や切り株に腰をおろし、礼拝が始まりました。


他の教会の牧師による説教のあと、

また、あの声が聴こえてきました。

昨夜の、あの朗々たる歌声です。


小生、声のする方へとふらふらと近づいていき、

その主を見つけると、つい耳を傾けておりました。


――カンツォーネだ!


先日、十枚組で買ったカンツォーネ全集にも入っていたような、

あの名曲の数々。


大川恵牧師(仮名)は、

実に気持ちよさそうに、実に堂々と、それを歌いあげていたのでした。


小生は、まるで弟子のように彼のそばを離れませんでした。

彼が歌い始めると、尊敬の眼差しで、じっと聴き入るのでありました。


夜にはキャンプファイヤーが催されました。

紺色の空の下、バチバチと音を立てて燃える炎。

オレンジ色の光に照らされた皆の顔が、神々しく見えたのです。


年配の学生が進行係となり、言いました。


「次は、大川先生による『ヴォラーレ』です」


知っている曲だ!

小生の胸が、ほんの少しだけ高鳴りました。


大川先生の、深くまろやかな声が夜空に響き渡り、

ワクワクとした気持ちが、身体の内側でくるくると踊るようでありました。


キャンプファイヤーが終わると、

小生はたまらず、大川先生のもとへ駆け寄りました。


「さっきの曲は、ドメニコ・モドーニョの歌唱で、よく聴いてるんです!」


「おおー、あなたはドメニコを知ってるんですね」


先生はそう言って、

就寝時刻に呼ばれるまでのあいだ、

ご自身の歌との出会いについて語ってくれました。


さらに、いくつか曲も歌ってくれて、

ついには小生に、簡単な歌唱の指導まで施してくださったのです。


三日目の朝――つまり、最終日。


みな帰り支度を済ませ、送迎の車がやって来ました。


「大川先生! ほんっとにありがとうございました!!」


小生が叫ぶと、

先生は右手を差し出しました。


「夢野君、握手をしよう。また必ず逢いましょう!」


大川先生の手は、あたたかく、そして包みこむようで、

握手の瞬間、半径数キロメートルを有していそうな大きな手だと感じました。


大川先生は天王寺方面へ、

小生と安西先生は大阪市北部へ向かう車にそれぞれ乗りこみました。


やがて道がふた手に分かれ、

窓の向こうに、大川先生が手を振る姿が見えました。


小生は思わず窓を開けて叫びました。


「先生〜!」


全力で手を振り返すと、

大川先生は、クルマが見えなくなるまで、ずっと手を振ってくれていたのです。


クルマが遠ざかるにつれて、

涙が、もう止まらなくなりました。


あの歌声は、まるで、

神の懐のなかでゆらゆらと眠っているような心地でした。


「夢野、いい経験が出来たね」


横で見ていた安西先生が、そう声をかけてくれました。


その晩、自宅に戻ると、電話が鳴りました。

相手は七菱翔(ナナビシカケル・仮名)でした。


キャンプの話は、それほどしていないはずなのに、

彼は言いました。


「夢野、なんか声が変わったんじゃないか?

オトナみたいに感じるよ。

キャンプに行って、一皮むけたんじゃないか? 言えよ」


「いや、たいしたことはないよ」


……全然たいしたことないわけじゃなかったのですが、

小生は少し、照れくさそうに、そう返事をしたのでありました。


ドメニコ・モドーニョ「ヴォラーレ」

YouTubeで視聴する https://youtu.be/u99ivDAqwSM?si=pPgE4rM-3VzfaWad


続く。果てしなく続く……。




いつもお読みくださり、

無限の無限のありがとうございまする☆

ブックマーク(フォロー)していただけますと嬉しいです。

では、ご氣元よう‼️

( ⸝⸝•ᴗ•⸝⸝ )੭⁾⁾

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