第0004撃「おれたちの秘密基地!!」の巻
平成元年1989年、4月、中学1年の1学期。
元号が昭和から平成へと変わって、三ヶ月ほどが過ぎたころです。
ついでに消費税というものが導入されて、こちらも二週間ほどが経っていました。
写真部に入って間もないある日。
風光る下校路を、小生は甲村と歩いていました。
目指すは、以前りょくちゃんに教えてもらった駄菓子屋です。
どこぞの町工場で作られた風情のあるコーラもどきと、
ポテトチップス、その他いくつかのお菓子を買ってナップサックに詰め込み、
淀川沿いの歩道をのんびりと、マンションへ向かっていました。
小生がお菓子を取り出そうとすると、
甲村が「まだ置いとけや、ええとこ見つけてん」と制止してきました。
自宅のマンション「フォーエバー」までは、急げば15分で着きます。
ただそれは、遅刻しそうな朝に早足で歩いた場合の話で、
帰り道は30分以上かけて、おしゃべりしながらダラダラ歩くのが日常でした。
しばらくして、フォーエバーの二号館一階に着きました。
一階は一部が住居で、残りはピロティ風の駐輪場になっています。
「こっちやで」と甲村が囁きました。
南西端の駐輪場を抜け、二基並んだエレベーターの横の通路へ進みます。
住戸が並ぶ廊下の手前、普段は誰もいない「フォーエバー機械制御室」の扉の前で、
甲村が立ち止まり、学ランのポケットから、倉庫の扉を開けるための
全戸共通の工具を取り出しました。
悪びれる様子もなく、甲村はその工具で軽々と扉を開け、
「はよ、しろって! 人に見られるやろ」と小生を急かしました。
小生は人生で初めて、その機械制御室に入りました。
周囲はスイッチ盤に囲まれていて、奥に向かって6畳ほどの空間が広がっており、
真ん中には、どこかの市民プールにありそうな青いプラスチック製のベンチが一つ。
「な、ええとこやろ!」
「ほんまやな、こんなとこがあったんやな」
内見に来たかのような調子で、妙に感心し合っていました。
「ちょっと待っといてくれや」
甲村は一度外に出て、すぐに戻ってきました。
手には紺色のビニール袋を持っています。中は見えません。
扉をしっかり閉めたのを確認したあと、
甲村は袋の中から小ぶりの雑誌を数冊取り出しました。
小生は思わず息をのみました。
それは、いわゆるエロ本というやつでした。
しかも、中には男色専門の「アドン」なる雑誌まで混ざっていて、衝撃的でした。
「すぐそこのロッカーの上に隠されとったのを発見してん」
甲村は妙に得意げです。
「俺も家からカセットデッキ持ってくるわ!」
「おう! それはイイ考えやな」
小生は二階の自宅まで駆け戻り、ラジカセと乾電池を持って再び制御室へ。
ふたたび集まった小生たちは、ラジカセで音楽を流しながら、
エロ本をめくり、駄菓子をベンチに広げ、30円のコーラで乾杯しました。
むしゃむしゃと食べながら、ちょっとした祭りのような気分です。
しばらくして甲村が、ふいに「おしっこ」と言って、
部屋の隅へ行き、立ちションを始めました。
「俺も」
小生もその隣で同じく立ちションをひっかけました。
身体の中からオシッコを出す気持ちよさと、
秘密の秘密基地で共にいたずらしているというスリルが、
妙な満足感につながっていました。
二人のオシッコは合流して一本の流れとなり、
壁の下の床をつたって、じわじわと進んでいきました。
ひととおりスッキリしたあと、
小生たちは再びベンチに戻ってエロ本を読み始めました。
――そのときです。
ガチャガチャと、誰かが扉の鍵を開けようとする音が聞こえました。
小生と甲村は、制御室の奥の死角へ慌てて隠れ、
息をひそめて、じっと固まっていました。
やがて扉が開き、そっと覗いてみると、
制服姿の警備員が二人、部屋に入ってきました。
「誰かおるな」
一人がぽつりと言いました。
警備員たちも慎重な足取りで、こちらに近づいてきます。
肩が見えた瞬間、甲村が突然「ばあっ!」と叫びました。
お化け屋敷ばりのタイミングでした。
「うわっ」
不意を突かれた警備員は動きを止め、小生たちはその隙にベンチへ戻り、
ナップサックをつかみ取って、走って逃げ出しました。
南西端の非常階段を駆けあがり、息を整えながら気づきました。
――ラジカセも、お菓子も、エロ本も、全部置いてきた。
小生たちは再び、取り返しに行く羽目になりました。
秘密基地は、いつのまにか敵の陣地になっていたのです。
恐る恐る扉をノックすると、警備員の一人が出てきました。
「すみませーん、返してくださいー」
奥をのぞくと、もう一人の警備員が、ポテトチップスをムシャムシャと食べながら、
我々のだったエロ本をめくっていました。
小生はもう観念して、せめてラジカセだけでも返してもらい、
お菓子とエロ本については、潔くあきらめることにしました。
続くよ。果てしなく続く……。
(まだまだ続くよーっ!お楽しみに〜!)
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