強制結婚法 令和五年法律第二百七号
「この度、日本は強制結婚法を可決しました。こども家庭庁では30歳の未婚者に対してランダムで強制的に結婚させ子供を生ませることになります。これは少子高齢化対策であるのと同時に日本民族が絶滅しないための政策でもあります」
こども家庭庁長官 壺由紀子が嬉しそうに言う。
この瞬間日本人は我も我もと婚活に走った。就活が終わると即婚活なのだ。見ず知らずの人と結婚なんてしたくない。だがマッチングアプリをいくら駆使しても見つからない。当たり前だ。そこに愛はないからだ。マッチングアプリ市場が激増してるのになんで婚姻数が激減してるのか。
年収は、学歴は、身長は……。そこに「愛」はない。
「結婚は愛があって初めて成立する」という人間としての当たり前の感情すら日本人は失ったのだ。
嘘婚約や結婚詐欺も激増した。愛のない結婚は「婚約破棄する!」となってしまい流行語に「婚約破棄」という言葉が載ってしまうほど日本人はコミュ障なのだ。
こうして30歳に到達した人間にランダムで結婚相手が決められる。どんな人格破綻者だろうが文句は言えない。相手が障害者であることにショックを受ける者が多い。人間の本性が出るもんだ。普段は「障碍者福祉は大事」とか言いながら……。なお、結婚拒否は懲役10年以下5年以上の実刑が課せられる。強制結婚から逃げることは出来ない。受刑者は受刑者同士での結婚となる。当然刑務所の中で結婚式を挙げるのだ。
30歳到達時に外国にいた場合は帰国後60日以内に結婚が強制的に決まる。
国家合同結婚式が行われる。なお、合同結婚式で結婚した者は相当の理由がないと離婚が不可である。離婚要件はギャンブル破産やDVなどである。合同結婚式で結婚した者に限り「性格の不一致」などでは離婚は出来ないのだ。
「え? DV? 立証は困難ですねえ?」と行政は見て見ぬふりを取った。家庭は地獄となった。
なお、合同結婚式経由で結婚した者は子供を2人以上産むことも義務要件が課せられることとなった。医学的理由以外での出産拒否も刑事罰、それも懲役4年以下の実刑が課せられた。中絶禁止法も課せられ、中絶をした者と医師に懲役10年以下の実刑が課せられた。経過措置で40歳以上の結婚者に限り子供を1人のみでもよいとし、片方または両方が50歳以上のカップルは子供を産まなくともよいとされた。
国家による結婚。これは少子化に苦しむ大韓民国がなぜか日本の後追いで強制結婚法を可決した。
――こうして東アジアに愛のない結婚を強制される恐怖の時代が始まった!
育児放棄やストリートチルドレンが激増する!!
育児放棄で捕まるものも多発したせいで表向き育児放棄・ストリートチルドレンは激減した。
裏では虐待されるのだが。このため日本全国で児童擁護施設建設ラッシュとなった。
今日も子供の悲鳴があちこちで響く。
ディストピア大国日本の日常だ。
------------------------------------
「逃げるぞ!!」
29歳の田中持無はいそいで国外へ脱出する。誰がこんな狂ってる国と生活したがるんだ。愛のない者と結婚なんてしたくない。国外に脱出する者には同性との恋愛者もいた。ひどいことに日本ではいまだに同性同士の婚姻は認められないのだ。
国外に出た。もう大丈夫だ……。
が、甘くなかった。
30歳になったある日突然現地自治体から督促状が届いたのだ。
そこには英語と日本語で書かれていた。
「国際合同結婚条約に基づき、あなたを日本国内に強制送還します」
頭を抱えた田中は絶叫した。
ノックする音がする。
「田中、動くな! 警察だ! 国際合同結婚条約に基づき、日本国内へ強制送還する」
・これ、別に全くの絵空事じゃなくてルーマニアのチャウシェスク大統領が実際にやった事ですよ。離婚禁止法とか中絶禁止法は。さすがに結婚強制法まではしませんでしたが。
・この小説はすべてフィクションです。
・副題は「社会教育法(昭和二十四年法律第二百七号)」から取ってます。でもね社会教育って
(社会教育の定義)
第二条 この法律において「社会教育」とは、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)又は就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成十八年法律第七十七号)に基づき、学校の教育課程として行われる教育活動を除き、主として青少年及び成人に対して行われる組織的な教育活動(体育及びレクリエーシヨンの活動を含む。)をいう。
とあって「家庭はこうあるべきだ」なんて一言も言ってないんですよ。そもそも「こども家庭庁」の時点でホラーなんだということに気が付いてください。