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青空隊  作者: 葱鮪命
11/54

青きを踏め踏め幼子よ-1

長い間お休みさせて頂きました!

他作品の方が一段落したので、再び投稿していこうと考えています!

ゆっくりペースにはなりますが、楽しんでいただければ幸いです!


今回の話は6部構成になっています!

「五歳児の失踪事件?」


 リビングには甘い香りが漂っていた。生クリームが添えられた焼きたてのシフォンケーキが、皿に切り分けた状態で乗せられていた。四人の男女がそのテーブルを囲んでいる。四人の前にはそれぞれ皿が置いてあった。


「ああ。最近多いと話題になっている。立て続けに女児が行方不明になっているらしい」


 艶のある黒髪を持つ眼鏡の少年_____ 雨斗(あまと)が、パソコンから顔を上げずにそう言った。


「近く幼稚園もそれを受けて休園し始めている」

「ふーん」

「怖いね。でも幼稚園に預けられないと困る親御さんも多いだろうに」


 心配げな顔をするのは青髪の男性。彼は青咲(せいさく)。エプロンを着て、シフォンケーキを切り分けているところを見ると、どうやらこのケーキは彼が焼いたもののようだ。


「そうだな。話では、園児が乗ったバスをジャックして大人数を連れ去ろうとしたケースもあったらしい」


「やば」


 短い黒髪を後ろで小さく縛った少女_____ 小空(こそら)がシフォンケーキを口に含みながら言う。


「バスジャック? 金目的じゃなくて園児目的って、初めて聞いたわ」

「直ぐに通報されて犯人は捕まったみたいだけどな。それが四日前の出来事だ」

「四日前? 最近だね」


 シフォンケーキを切り終えた青咲がようやくソファーに腰を下ろす。


「おかわり」

嵐平(らんぺい)、ちょっと食べ過ぎ」


 座るや否や、青咲はため息をつく。


 髪に緑のメッシュを入れた少年の頬はリスのように大きく膨らんでいる。小空がその頬を面白そうに横からつんつんと指で押していた。


 かなり大きなシフォンケーキだが、半分が嵐平の口に消えていた。彼の恐ろしい食欲は基本誰にも止められない。


「嵐ちゃん俺のも食う?」


 小空が残り一口になったケーキをフォークに刺し、嵐平の顔の近くに持ってくる。


「......!! いいの?」

「だめー」


 口を開きかけた嵐平の前で小空はそれを自分の口に入れた。こら、と青咲が小空を注意した。


「今回の依頼主も、やはり五歳児の娘が誘拐されたらしい」

「ほーん」


 雨斗が逸れていく話を無理やり元に戻した。


「まあ、どこぞの誰かの趣味で女児集めでも流行ってるんでしょう」


 小空がそう言って、氷がたっぷり入ったアイスティーでケーキを喉に流し込んだ。


「そんなとこだな」

「マジか。いいのかそれで」


 あっているらしい。


「女児集めって......どういうこと?」


 青咲が深刻そうな顔をして雨斗を見る。雨斗はパソコンを叩いていたが、その手を止めた。そして、パソコンの隣に置いてある自分のスマホをチラリと見る。


「......遅いな」

透真(とうま)?」

「ああ。20時から会議っては言っていたんだが」


 四人の目は壁にかけられている時計に向けられる。


 時計は長針が5と6の間になろうとしている。会議開始時刻からおよそ30分が経過しようとしているのだ。


 此処のリビングには本来ならもう一人居るはずだが、現在居るのは四人だった。


「呼んでこよっか」


 青咲が立ち上がろうとするが、雨斗が「いや」と首を横に振る。


「さっきメールしても既読がつかなかった。電話する」

「電話かー」


 小空が笑う。


「ゲーム中っしょ、あの人。後でぶちギレられるって」

「策がある」

「ほー?」


 此処に居ないもう一人とは、透真というゲーム好きの少年だ。三度の飯よりゲームが好き。寝る間も惜しんでコントローラーを握るほどだ。

 そんな彼は今、二階にある自室で画面に向かって指を動かしているのだろう。


 雨斗は彼に電話をかけた。みんなにも聞いて欲しいのか、スピーカーをオンにしてテーブルの中央に置く。


「来るぞー」

 小空がくくく、と声を押し殺して笑った。


 案の定、苛立った声がスピーカーからは聞こえてきた。


『何』

「会議、八時からだろ。早く降りてこい」


 雨斗がスマホに向かって言う。


『このステージ終わったらでいいか』

「ダメだ。30分の遅刻だぞ」

『......。じゃあ、繋げたまま話してくれていいから』


 なかなか折れないようだ。カチャカチャとコントローラを動かす音が絶え間なく聞こえてくる。


「無理だって。あの透真をゲーム中に動かせる人なんて誰もおらんよ、なあ」


 小空が嵐平にコソコソと耳打ちする。嵐平は聞いていないらしく、残りのシフォンケーキに手を伸ばして青咲に制されていた。こっちもこっちで静かな火花が散らされている。


「......そのゲーム面白いか」


 雨斗が問う。電話の向こうで透真が黙った。


「実は、俺もやってる」


「ぶふっ」


 吹き出したのは小空だった。


「え? まじ? あまっちゃんゲームとかすんの?」

「煩い」


 面白いものが見られそうだ、と小空は食い入るように雨斗を見つめる。


「武器購入に必要なジェム、800個と交換でどうだ。今新ステージ解放イベントで、ジェム集めどころじゃないだろ」


『......』


 向こうで透真が黙った。いや、驚いているのだ。コントローラの音も鳴り止んでいる。


「三分以内に降りてきたら、200個追加だ」

『......わかった』


 ブツン、と電話が切れた。


「すっご」


 小空が思わず言うと、雨斗が「これくらいしないと降りてこないだろ」と肩を竦める。


「ゲーム、雨斗もしてるの?」

「まあ、暇な時」


 目を丸くする青咲に雨斗は答える。


「ほえー。課金勢?」


 今度は小空が聞いた。


「無課金」

「すっご」


 やばくね? と小空が隣の嵐平を見ると、彼は目を輝かせてこくんと頷く。雨斗が見せた華麗な呼び寄せの技に魅せられているわけではない。「ジェム」を「ジャム」と聞き違えでもしたのだろう。


 やがてリビングに紫のメッシュを髪に入れた少年が入ってきた。彼が透真だ。青咲の隣に腰を下ろし、彼はソワソワした顔で雨斗を見る。


「釣りだったら許さねえぞ」

「釣られてるじゃんか」


 小空がケラケラ笑いながら言うと睨まれた。ギロッと擬音がつきそうなほどの鋭い睨みだ。


「大丈夫だ。任務が終わったら渡す」


 雨斗がそこでようやくケーキに手を伸ばす。


「それじゃ、早速任務の話に入る」


 会議は30分遅れてスタートした。

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