04捕まえた司書の少女に奴隷契約の首輪を着ける話
セシルに道案内され、使用人用の購買のような所へ行った。
例によって現金や高価そうな物は軒並み略奪されていたが、使用人の服やら下着やらは、大して金にもならないようで、手付かずのままだった。
セシルに手伝ってもらって、適当に見繕ってついでに日用品なんかも合わせて失敬していくことにする。
自室まで戻ってきたが、部屋は藻抜けの空でアリーシャはいなかった。
さすがにこの状況で、一人で城から抜け出そうとはしないと思うが、どこに行ったのだろう。
なるべく部屋にいた方が安全だが、ずっと中にいられるわけでもない。
お花を摘みにでも行ったのかな。
と、突然ドアがバタンと開き、駆け込むようにしてアリーシャが戻ってきた。
切羽詰まった表情で、呼吸も荒い。
全力疾走で部屋まで戻ってきたようだ。
いったい何があったんだと思っていたら、部屋の外に騎士団の制服を着た連中が、後から三人ほどやって来た。
彼らに追われていたようだな。
俺はドアの前まで移動し、彼らに対峙する。
「よう、あの女首輪付けてたが、お前の奴隷か?」
三人のリーダー格らしい男が話し掛けてきた。
俺と同じ騎士団員のようだが、顔は見たことがない。
騎士団も大勢いるから、全員の顔と名前までは覚えていない。
たぶん他の小隊の奴だとは思うが。
「ちょっとあの奴隷貸してくれよ、一晩借りたら返してやるからさ」
「お断りする。あれは俺の指定奴隷だ」
俺はきっぱりと言った。
「少しぐらいいいだろ?減るもんじゃねえし」
「俺はこう見えて独占欲が強い方でね。自分の持ち物を他人に渡す気は無いんだよ」
「……おい、下手に出てるうちに貸しとけよ」
三人組の態度が変わった。
「なんなら、お前をぶちのめしてから、かっ拐って行ってもいいんだぜ」
剣に手を掛けた。本気か?こいつ。
「それは止めておいた方がいい、騎士団員同士で刃傷沙汰なんか起こしたら、見て見ぬ振りしてる憲兵隊も、さすがに黙ってはいないだろ」
「なんだと、てめえ!」
「いいから、もう帰れ。俺の奴隷には指一本触れさせない。あいつを犯していいのは、俺だけなんだ」
そう言いながらニヤリと笑ってやると、三人組は一瞬たじろいだ。
「……分かったよ、糞が」
三人組はようやく引き下がり、帰って行った。
帰り際に一人が壁をドカッと殴り付けていった。
音をたてて相手を威嚇するとか、昆虫みたいな奴だな。
ーーーーー
俺はドアを閉め、ふうーっと大きな息を付いた。
三人相手になんとか凌ぎきったようだ。
一気に押し切りたいときは、頭のおかしい奴を演じるに限る。
ふと、二人の視線が俺に集まっているのを感じた。
慌ててちょっと言い繕う。
「ああは言ったけど、本当は何もしないからな。安心していい」
俺がそう言うと、セシルは少し熱っぽい表情で、
「また、守って下さったのですね。サイラス様」
「……あ、ああ。まあな」
なんだか、少しうっとりとした表情のセシル。
と、そこへアリーシャが、
「帝国兵なんて、ケダモノよ!」
と、一喝。
「そいつは、あの三人と同じ帝国兵よ。私達の国を踏みにじった敵なんだから、気を許しては駄目!」
怯えと怒りがない交ぜになった、その表情。
恐ろしい目に遭って、気持ちが高ぶっているのだろう。
それに、事実そうなんだから、俺も言い返せない。
「でも今は私達を守ってくれたのですよ?……お礼ぐらい言っても……」
と、言うセシルにアリーシャはしばし考え、やや落ち着いて来てから、
「分かったわよ……あ、ありがとう」
と、目を逸らしながら言った。
ーーーーー
俺はザックから例の首輪を取り出し、セシルにもガチャリと嵌めた。
「……んっ」
その武骨な音に身動ぐセシル。
小柄で華奢なセシルに課せられた、厳つい革製首輪。
アリーシャとはまた微妙に異なる味わいがある。
これで俺の指定奴隷の首輪を着けた女の子は合わせて二人だが、こんな調子で見掛けた相手を次々に奴隷にしていったら、この小部屋はあっという間に満杯になりそうだな。
今後は自重しよう。
「あなた、その首輪いくつ持って来てるの?」
と、アリーシャ。
「執事のアルフレッドが、きっといっぱい必要になる、って言ってたから、ちょっと多目に」
「へえ……準備のいいことね」
少しジト目で言われてしまった。
この首輪には、実はちょっとした仕掛けもあるが……今はまだ黙っておくとしよう。
こうして、最初の危機はなんとか乗り越えたが、アリーシャの貞操を狙う者は他にもいた。
あの肥満騎士団員のゲイラだった。